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第1章 幕開けは復讐から
58 大人の姿
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「ナギサ様、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼します。あれ、ノーム様はどちらへ?」
「帰った」
「そうですか? それなら良いですが……」
部屋にやってきたルーは珍しく大人の姿を取っていて、手にはお茶とお茶菓子があった。俺の前に手招きして正面に座らせる。そのまま彼の顔を見つめると怪訝そうにされた。
「ナギサ様?」
「ん?」
「いや、ん? じゃなくてですね……僕の顔に何か付いていますか?」
「目と鼻と口がついてる」
それは当たり前じゃないですか、と睨むルーをまあまあと落ち着かせていちごのショートケーキを口に運ぶ。俺仕様の砂糖多めで作られてるみたい。美味しい。
「ルーがその大人の姿なのは久し振りに見たなーって、そう思っただけだよ。リーと一緒にいたの?」
「はい。ついさっきまで街へこのお茶を買いに行っていました。ナギサ様は甘いものがお好きですが、紅茶も良く飲まれますからね。すぐに無くなるので買い出しへ」
「人間みたい」
「精霊は飲食不要なはずなんですけどね?」
「すみません。いつも買いに行ってくれて感謝しています」
今度はお母さんみたいだねぇ? 性別が違うけど。
ルーとリーは夫婦。精霊同士でお互いに気まぐれなのもあるからずっと一緒にいるというわけではないけど、普通に仲の良い夫婦なんだよね。まだ子供はいないみたいだけど。
なんか素っ気なさそうにに見えるかもだけど、ルーはこれでリーのことを溺愛してるからねぇ。人? は見かけによらないものだと常々思う。
たまに一緒にいるのを見かけた時には砂糖を吐きそうになるね、甘すぎてさ。
「それで、リーと二人きりだったから大人の姿になってたの?」
「まあそうです」
「なんで今も大人の姿?」
「……この後デートの約束があるので。何度も姿を変えるよりは大人の姿を保つ方が楽ですから」
やっぱり仲良しだ。俺の両親も仲が良かったし、夫婦仲が良くて何よりだと思う。
「ナギサ様はご結婚されないのですか? 恋人がいらっしゃるようにも見えませんけど」
「今のところその予定はないよー」
「……前から気になっていましたがその左手の薬指の指輪はなんですか? 女性除けにでも使われているのですか?」
「そんな感じ」
俺は転生して服装とか変わってて、身に着けていたものとかは全て無くなっていたけど、この指輪だけは何故かそのままだったんだよね。ピンクゴールドのリングに亜麻色の綺麗なカットの宝石。
前世の持ち物で唯一、この世界に存在する物だから思い出の品。肌身離さず持つようにしてるんだよ。前世のことは忘れたくないからさ。
「ナギサ様は老若男女問わず人目を集める容姿ですからね……」
それはどういう意味なんだろうね、ルー? 言葉こそ褒めているように聞こえるけど、なんでそんなに呆れた顔をしているのかな?
「ルーも綺麗な顔立ちしてるし、子供なら可愛いで済むけど大人の姿なら女性に言い寄られちゃうかもね。まあ、俺の精霊たちが可愛くないはずがないんだけど」
「こういうのを親馬鹿と言うのですね。新たな学びをありがとうございます」
「今度こそ褒めてないよね。子供想いって言ってよ!」
そう言うと『はいはい、子供想いですね』とすっごく適当に言われた。ほんと、失礼な子だよねぇ……今は子供ではなく大人の姿だけどさ。
「あ、ルーが大人の姿ってことはリーも同じだったりする? 俺、ちょっとリーのところ行ってくる!」
リーの大人の姿はルー以上に希少なんだよね。ルーが惚れられたら困る! って言って俺から隠そうとするから。
「あ、駄目ですよ!」
俺が惚れるわけないよ。俺にとっては我が子のようなものなんだよー? 普通は自分の子を恋愛的な意味で好きになったりしないって。
「ちょっと待ってください! 宮の中を全力で走らないでください! 速すぎっ、ちょ、ナギサ様!」
「んー……」
聞こえないなー。俺、最近耳が遠いんだよねぇ。もう歳かな? ……なんてね。
「ちょっとくらい良いでしょ」
「ちょっと……ほんと、にっ………速すぎますって……!」
「ごめーん。で、リーはどこにいるの?」
「教えるわけないじゃないですか!」
「冗談冗談。夫の君がダメって言うんだからまたの機会にするよ。ほら、デートなんでしょ? 髪でも整えておいで。走ったから崩れてるよー」
誰のせいですか! と少し怒りを見せながら俺がルーに貸している部屋の方に歩いて行った。ルーは側近的な立場だから部屋を貸しているんだよね。
でもさ、妻だから気にすることはないとか言わず、ちゃんと直しに行くあたりしっかりしてるねぇ。いくら気心が知れた仲でも幻滅される時は幻滅されるし、愛する相手に良く思われるように努力するのは相手への誠意でもあると俺は思うから。
まあ好きな人に釣り合う容姿でいたいのは男女関係なく誰でも同じだと思うけど。
「どうぞ」
「失礼します。あれ、ノーム様はどちらへ?」
「帰った」
「そうですか? それなら良いですが……」
部屋にやってきたルーは珍しく大人の姿を取っていて、手にはお茶とお茶菓子があった。俺の前に手招きして正面に座らせる。そのまま彼の顔を見つめると怪訝そうにされた。
「ナギサ様?」
「ん?」
「いや、ん? じゃなくてですね……僕の顔に何か付いていますか?」
「目と鼻と口がついてる」
それは当たり前じゃないですか、と睨むルーをまあまあと落ち着かせていちごのショートケーキを口に運ぶ。俺仕様の砂糖多めで作られてるみたい。美味しい。
「ルーがその大人の姿なのは久し振りに見たなーって、そう思っただけだよ。リーと一緒にいたの?」
「はい。ついさっきまで街へこのお茶を買いに行っていました。ナギサ様は甘いものがお好きですが、紅茶も良く飲まれますからね。すぐに無くなるので買い出しへ」
「人間みたい」
「精霊は飲食不要なはずなんですけどね?」
「すみません。いつも買いに行ってくれて感謝しています」
今度はお母さんみたいだねぇ? 性別が違うけど。
ルーとリーは夫婦。精霊同士でお互いに気まぐれなのもあるからずっと一緒にいるというわけではないけど、普通に仲の良い夫婦なんだよね。まだ子供はいないみたいだけど。
なんか素っ気なさそうにに見えるかもだけど、ルーはこれでリーのことを溺愛してるからねぇ。人? は見かけによらないものだと常々思う。
たまに一緒にいるのを見かけた時には砂糖を吐きそうになるね、甘すぎてさ。
「それで、リーと二人きりだったから大人の姿になってたの?」
「まあそうです」
「なんで今も大人の姿?」
「……この後デートの約束があるので。何度も姿を変えるよりは大人の姿を保つ方が楽ですから」
やっぱり仲良しだ。俺の両親も仲が良かったし、夫婦仲が良くて何よりだと思う。
「ナギサ様はご結婚されないのですか? 恋人がいらっしゃるようにも見えませんけど」
「今のところその予定はないよー」
「……前から気になっていましたがその左手の薬指の指輪はなんですか? 女性除けにでも使われているのですか?」
「そんな感じ」
俺は転生して服装とか変わってて、身に着けていたものとかは全て無くなっていたけど、この指輪だけは何故かそのままだったんだよね。ピンクゴールドのリングに亜麻色の綺麗なカットの宝石。
前世の持ち物で唯一、この世界に存在する物だから思い出の品。肌身離さず持つようにしてるんだよ。前世のことは忘れたくないからさ。
「ナギサ様は老若男女問わず人目を集める容姿ですからね……」
それはどういう意味なんだろうね、ルー? 言葉こそ褒めているように聞こえるけど、なんでそんなに呆れた顔をしているのかな?
「ルーも綺麗な顔立ちしてるし、子供なら可愛いで済むけど大人の姿なら女性に言い寄られちゃうかもね。まあ、俺の精霊たちが可愛くないはずがないんだけど」
「こういうのを親馬鹿と言うのですね。新たな学びをありがとうございます」
「今度こそ褒めてないよね。子供想いって言ってよ!」
そう言うと『はいはい、子供想いですね』とすっごく適当に言われた。ほんと、失礼な子だよねぇ……今は子供ではなく大人の姿だけどさ。
「あ、ルーが大人の姿ってことはリーも同じだったりする? 俺、ちょっとリーのところ行ってくる!」
リーの大人の姿はルー以上に希少なんだよね。ルーが惚れられたら困る! って言って俺から隠そうとするから。
「あ、駄目ですよ!」
俺が惚れるわけないよ。俺にとっては我が子のようなものなんだよー? 普通は自分の子を恋愛的な意味で好きになったりしないって。
「ちょっと待ってください! 宮の中を全力で走らないでください! 速すぎっ、ちょ、ナギサ様!」
「んー……」
聞こえないなー。俺、最近耳が遠いんだよねぇ。もう歳かな? ……なんてね。
「ちょっとくらい良いでしょ」
「ちょっと……ほんと、にっ………速すぎますって……!」
「ごめーん。で、リーはどこにいるの?」
「教えるわけないじゃないですか!」
「冗談冗談。夫の君がダメって言うんだからまたの機会にするよ。ほら、デートなんでしょ? 髪でも整えておいで。走ったから崩れてるよー」
誰のせいですか! と少し怒りを見せながら俺がルーに貸している部屋の方に歩いて行った。ルーは側近的な立場だから部屋を貸しているんだよね。
でもさ、妻だから気にすることはないとか言わず、ちゃんと直しに行くあたりしっかりしてるねぇ。いくら気心が知れた仲でも幻滅される時は幻滅されるし、愛する相手に良く思われるように努力するのは相手への誠意でもあると俺は思うから。
まあ好きな人に釣り合う容姿でいたいのは男女関係なく誰でも同じだと思うけど。
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