【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜

文字の大きさ
上 下
57 / 241
第1章 幕開けは復讐から

閑話 とある兄妹

しおりを挟む
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
「ただいま。母さんは?」
「お母さんはお店の方の片付け中。お兄ちゃん、今日はお友達と遊びに行ってたんだっけ?」
「ああ。公爵家のご子息二人と、精霊王。これだけ聞くと俺と釣り合ってねぇな。精霊王はお前も知っているだろ?」
「うん。ナギサ様、だよね?」
「ああ」

 今日はナギサやセイン、ランスロットと遊びに行っていた。学園に入ってからは勉強で忙しかったし貴族ばかりの学園で親しい人が出来るわけもなく、今日のように友人と遊びに行ったのはいつぶりか分からない。
 ナギサは俺が試験をさぼって木の上にいると、いきなり目の前に現れた。最初は気付かなかったが、あの『絶世の美青年も恥ずかしがるほど完璧な容姿』『男性らしい低さもあるのにうっとりするほど甘い声』『才色兼備』『王族にも劣らないくらい完璧な仕草』と噂されている人物だった。

 これは最近になって広まった話だが精霊王でもある。だが精霊王というにはあまりにも気さくというか、一緒にいて気が抜ける性格をしている。それはもしかすると計算の内なのかもしれないと思うと恐ろしいが、それでも俺にとっては大切な友人だった。
 どこにいても何をしていても嫌がらせをされたり嫌味や皮肉、罵倒を浴びせられる。そんな中で偶然な出会いとはいえ、差別の目ではなく俺自身を見てくれたナギサには救われていた。そんなナギサの友人は公爵家のご子息二人と言う俺からすると恐れ多い相手だったが、その二人もナギサと同じように接してくれた。

 今になって思う。あの時、ナギサに出会わなければ俺の中で大事な学生生活は最悪な思い出になっていただろう、と。ナギサと関わるようになって様々な変化があった。

 初対面でナギサが言っていたように周りの意見が気にならなくなった。全くとはいかないが、それでも確実に以前より受け流すことが出来るようになっている。つまりスルースキルが磨かれたわけだな。平民なのにも関わらず優秀だと将来を見込まれて入学したくせに首席にもなれないのかと嘲笑われていたが、ナギサが勉強を教えてくれるおかげで高度な教育を受けているはずの貴族連中を押し退けて学年トップに這い上がった。
 クラスメイトも、ほんの一部ではあるが前より笑顔が増えて接しやすいと話しかけてもらえるようになった。

 ナギサは自分に向けられる好意にあり得ないくらい鈍い。周りからするとバレバレなくらいナギサを慕う生徒でも、ナギサの中ではどう変換されているのか自分に取り入って公爵家の子息とお近づきになりたいだけだろう、などと思っているらしい。
 才色兼備な上に無自覚だろうが自然な気遣いが出来る紳士。そんな男が好かれない理由がないだろう。男女問わず、教師でさえナギサを信頼しているし恋愛的な意味で慕う者も数えきれないほど。そんなナギサと一緒にいるのだから、俺たちが嫉妬されることも少なくないくらいだ。

 長くなったが結局何が言いたいのかと言うと、俺はナギサのおかげで毎日が楽しくなった。だからこれからはナギサやセイン、ランスロットにとっても良き友人であれるよう努力したいと思っている。

「……お兄ちゃん? ちょっと聞いてるの? お兄ちゃんってば!」
「あ、ああ、なんだ?」
「どうしたの? なにか考え込んでいるようだったけど……」

 妹が怪訝な目で俺のことを見つめてくる。

「なんでもない。ただ、ナギサのことを考えていただけだ。前にナギサと直接話してみたいと言っていただろ? ナギサに約束を取り付けておいたぞ」
「本当!? ありがとうお兄ちゃん!」
「ああ」

 妹はナギサのファンクラブに入っている。これ以上ないくらい好きらしいが、それは尊敬や憧れなのか、それとも恋愛なのか……残念ながら俺には分からない。
 だがもし恋愛だったとして、妹が本気になれば男の一人や二人簡単に落とせるだろう。兄としての贔屓目がなくとも間違いなく妹はモテる。あの完璧超人精霊王様の隣に並んで霞まないのは妹くらいのものだ。おまけにナギサと同じくらいとはいかなくとも、頭が良くて身体能力も高い。俺と同じく平民なのに立ち居振る舞いに品がある。だがナギサは女に興味がなさそうだ。その意味では妹でも無理かもしれない。

 だがまあ、どちらにしても俺は見守ることしかできない。ナギサのことも、妹のことも。

「二人ともー! 早く来てー!」

 突然母さんの悲鳴のような声が聞こえたと思えば、すぐに嬉しそうに呼ばれた。母さんの経営するカフェの二階が俺たちの家だ。暗くなり始めて店はもう閉めているはずなので、今一階から話し声が聞こえる理由は一つしかない。

 顔を見合わせた俺たちは母さんのはしゃぎ声に苦笑して、母さんが話しているであろう父さんの元へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

魔境育ちの全能冒険者は異世界で好き勝手生きる‼︎ 追い出したクセに戻ってこいだと?そんなの知るか‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
15歳になり成人を迎えたリュカは、念願の冒険者ギルドに登録して冒険者になった。 そこで、そこそこ名の知れた冒険者Dランクのチームの【烈火の羽ばたき】に誘われる。 そこでの生活は主に雑用ばかりで、冒険に行く時でも荷物持ちと管理しかさせて貰えなかった。 それに雑用だけならと給料も安く、何度申請しても値段が上がる事はなかった。 ある時、お前より役に立つ奴が加入すると言われて、チームを追い出される事になった。 散々こき使われたにも関わらず、退職金さえ貰えなかった。 そしてリュカは、ギルドの依頼をこなして行き… 【烈火の羽ばたき】より早くランクを上げる事になるのだが…? このリュカという少年は、チームで戦わせてもらえなかったけど… 魔女の祖母から魔法を習っていて、全属性の魔法が使え… 剣聖の祖父から剣術を習い、同時に鍛治を学んで武具が作れ… 研究者の父親から錬金術を学び、薬学や回復薬など自作出来て… 元料理人の母親から、全ての料理のレシピを叩き込まれ… 更に、母方の祖父がトレジャーハンターでダンジョンの知識を習い… 母方の祖母が魔道具製作者で魔道具製作を伝授された。 努力の先に掴んだチート能力… リュカは自らのに能力を駆使して冒険に旅立つ! リュカの活躍を乞うご期待! HOTランキングで1位になりました! 更に【ファンタジー・SF】でも1位です! 皆様の応援のお陰です! 本当にありがとうございます! HOTランキングに入った作品は幾つか有りましたが、いつも2桁で1桁は今回初です。 しかも…1位になれるなんて…夢じゃ無いかな?…と信じられない気持ちでいっぱいです。

処理中です...