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第一章 転生
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「君たちへの復讐はもう決めたよ。ここではしないけどね。殺した精霊が味わったものと同じ苦しみを君たち全員に返す。同じだけの苦しみを味わわせる。一生かけてね」
殺された精霊の核はもう取り返した。そして苦しみはすべて俺が追体験してフルコピーした。そうすることによって第三者にその苦しみを味わわせることが出来るからね。
相当なものだったよ。俺であれだけ辛かったんだから殺された子はもっと苦しんだだろうねー。
「二度目はない。今回は世界の干渉により見逃すが俺が許したわけではないと理解しろ。これは俺の主である世界に手を引くよう命じられたからであって、俺は本意ではない。……せいぜい苦しんでね? 俺に殺された方がマシだったと思うほどに」
拘束を解くとそのままドサッと落ちてくる。恐怖からか解放された安堵からか三人とも意識を失ってしまった。それを見下ろして魔法をかける。
「国王、族長、それに魔王。彼らは三人とも王族籍は抜いて平民に落とし、そのまま牢に放り込んでおいてね? 魔法を掛けたからこれから死ぬまでの一生、彼らは苦しみ続ける。勝手に殺したりしないでよ。表向きどうするかは君たちに任せる。これ以上俺の手を煩わせないで。彼らにも言ったけど二度も同じようなことを繰り返さないよう、自分の種族の者はしっかり統率しておいて。今度は容赦しないということ───ゆめゆめお忘れなきよう」
「はい。この度は大変申し訳ございませんでした」
「貸しひとつでいいよ。俺はこれからこの子の核を浄化しに行くから」
それだけ伝えて転移魔法を発動しようとすると、両陛下や族長、魔王も一緒に行かせてほしいと言い出した。気絶した彼らに方を見るとすでに部屋に入ってきた衛兵に連れて行かれるところだったから、まあいっかと思って一緒に風の宮に転移した。
◇
転移先は精霊王の住処のひとつ、空に建てられている風の宮。ナギサが向かったのは『浄化の間』だ。精霊王が浄化の舞を舞う時を除き、ナギサ以外は立ち入り禁止の場所。
円形の広い部屋で真ん中には茶、青、赤、緑と四属性の象徴色の魔法陣とそれらで囲まれたように中心にあるのが虹色の一番大きな魔法陣。虹色は全属性とその他の魔法を使うことが出来る精霊王を表したものだ。
先ほど王城の客室にいた犯人たち以外の人と、すべての精霊がこの部屋に集まっている。見たことがない数の精霊に一同は恐れ慄きながらも精霊たちに倣って部屋の隅で膝を折る。
緊張感が漂う中、ナギサは一人部屋の中心へとゆっくり歩いて行った。静かに中央の虹色の魔法陣の上に立ったナギサはふ、と小さく息を吐く。いつもの扇を片手に踵をコツンと一度踏み鳴らすと扇を持っていなかった方の手にもう一つの虹色の扇が現れた。開かれていた二種類の扇を同時に閉じると、キラキラと虹色の光を纏ってナギサの衣装が変わった。
普段は抑えている魔力が解放されたその圧倒的な存在感にある者は恐れ、またある者は目を奪われている。
一度俯いたナギサはゆっくり手を伸ばし、顔を上に向けていきそっと目を開いた。ゆったりと舞う、一切のブレもない洗練されていて神秘的な光景に誰もが息を呑んで見入る。舞を舞い始めたその瞬間からナギサは宙に浮かぶ核に魔法をかけ続けていて、その核はすべての魔法を使える精霊王の魔力を取り込んでうっすら虹色に染まっていた。
時間にすると十分ほどだろうか。周囲で見守っていた精霊たちは浄化が完了して一際虹色に輝き、徐々に消えていくその核を祝福する。完全に消えて成仏されたことを確認したナギサはパシッと扇を閉じ、同時に普段の衣装へ戻った。
途端に限界が来たのか、魔力が尽きかけて床に膝を付き荒い息をするナギサに精霊たちは駆け寄りたいのを我慢して大精霊四人のみが近付いていく。床に着いた手をギュッと握りしめて唇を噛み、微かに震えるナギサをシルフが抱き上げた。呆然とシルフの顔を見たナギサはやがて安心した顔をしてそのまま意識を失った。魔力の消費が激しかったのだろう。ゆっくりと瞼を閉じたナギサの頬には一筋の涙が零れた。
ナギサ───精霊王にとってすべての精霊は我が子に等しい。犯人が悪いのは当然、原因の一旦はシルフにもあるということになっているが、ナギサが心を痛めていないはずがないだろう。ナギサの表情を間近で見た四人は痛々しい顔をしていた。
ナギサに祝福を受けていて無属性魔法が使えるウンディーネが王たちを城に帰し、シルフはナギサを寝室に寝かせた。精霊たちは大精霊とルー以外は帰るようシルフが指示したが、いつ目覚めるかも分からない状況でずっと傍にいてもお互い気が休まらないので、ナギサが起きたらしなければならないであろう後処理をすませるべく動き出した。
◇
「………ぅ、ん……?」
「っ、ナギサ様ぁ!」
「う……いた、痛いよウンディーネ……」
「あ、ごめんなさぁい」
俺は……寝てたのかなぁ? たしか断罪して浄化の舞を舞って……そのあとは?
「えっとー……俺はなんで眠って……?」
「魔力が枯渇しかけていたからだと思うぞ」
「ああそういうこと。なんかすっごい疲労感が………」
魔力は八割くらいまで回復してるみたい。俺は魔力の回復速度も過去一だけど、その分枯渇しかけてる時って疲労感が尋常じゃないんだよねぇ。助かってはいるけどその代償がなー……
「おおお、お疲れ……様、です。ナ、ナギサ様が……眠られて……」
「半日ほど経過致しましたよ。お身体の調子はいかがですか?」
殺された精霊の核はもう取り返した。そして苦しみはすべて俺が追体験してフルコピーした。そうすることによって第三者にその苦しみを味わわせることが出来るからね。
相当なものだったよ。俺であれだけ辛かったんだから殺された子はもっと苦しんだだろうねー。
「二度目はない。今回は世界の干渉により見逃すが俺が許したわけではないと理解しろ。これは俺の主である世界に手を引くよう命じられたからであって、俺は本意ではない。……せいぜい苦しんでね? 俺に殺された方がマシだったと思うほどに」
拘束を解くとそのままドサッと落ちてくる。恐怖からか解放された安堵からか三人とも意識を失ってしまった。それを見下ろして魔法をかける。
「国王、族長、それに魔王。彼らは三人とも王族籍は抜いて平民に落とし、そのまま牢に放り込んでおいてね? 魔法を掛けたからこれから死ぬまでの一生、彼らは苦しみ続ける。勝手に殺したりしないでよ。表向きどうするかは君たちに任せる。これ以上俺の手を煩わせないで。彼らにも言ったけど二度も同じようなことを繰り返さないよう、自分の種族の者はしっかり統率しておいて。今度は容赦しないということ───ゆめゆめお忘れなきよう」
「はい。この度は大変申し訳ございませんでした」
「貸しひとつでいいよ。俺はこれからこの子の核を浄化しに行くから」
それだけ伝えて転移魔法を発動しようとすると、両陛下や族長、魔王も一緒に行かせてほしいと言い出した。気絶した彼らに方を見るとすでに部屋に入ってきた衛兵に連れて行かれるところだったから、まあいっかと思って一緒に風の宮に転移した。
◇
転移先は精霊王の住処のひとつ、空に建てられている風の宮。ナギサが向かったのは『浄化の間』だ。精霊王が浄化の舞を舞う時を除き、ナギサ以外は立ち入り禁止の場所。
円形の広い部屋で真ん中には茶、青、赤、緑と四属性の象徴色の魔法陣とそれらで囲まれたように中心にあるのが虹色の一番大きな魔法陣。虹色は全属性とその他の魔法を使うことが出来る精霊王を表したものだ。
先ほど王城の客室にいた犯人たち以外の人と、すべての精霊がこの部屋に集まっている。見たことがない数の精霊に一同は恐れ慄きながらも精霊たちに倣って部屋の隅で膝を折る。
緊張感が漂う中、ナギサは一人部屋の中心へとゆっくり歩いて行った。静かに中央の虹色の魔法陣の上に立ったナギサはふ、と小さく息を吐く。いつもの扇を片手に踵をコツンと一度踏み鳴らすと扇を持っていなかった方の手にもう一つの虹色の扇が現れた。開かれていた二種類の扇を同時に閉じると、キラキラと虹色の光を纏ってナギサの衣装が変わった。
普段は抑えている魔力が解放されたその圧倒的な存在感にある者は恐れ、またある者は目を奪われている。
一度俯いたナギサはゆっくり手を伸ばし、顔を上に向けていきそっと目を開いた。ゆったりと舞う、一切のブレもない洗練されていて神秘的な光景に誰もが息を呑んで見入る。舞を舞い始めたその瞬間からナギサは宙に浮かぶ核に魔法をかけ続けていて、その核はすべての魔法を使える精霊王の魔力を取り込んでうっすら虹色に染まっていた。
時間にすると十分ほどだろうか。周囲で見守っていた精霊たちは浄化が完了して一際虹色に輝き、徐々に消えていくその核を祝福する。完全に消えて成仏されたことを確認したナギサはパシッと扇を閉じ、同時に普段の衣装へ戻った。
途端に限界が来たのか、魔力が尽きかけて床に膝を付き荒い息をするナギサに精霊たちは駆け寄りたいのを我慢して大精霊四人のみが近付いていく。床に着いた手をギュッと握りしめて唇を噛み、微かに震えるナギサをシルフが抱き上げた。呆然とシルフの顔を見たナギサはやがて安心した顔をしてそのまま意識を失った。魔力の消費が激しかったのだろう。ゆっくりと瞼を閉じたナギサの頬には一筋の涙が零れた。
ナギサ───精霊王にとってすべての精霊は我が子に等しい。犯人が悪いのは当然、原因の一旦はシルフにもあるということになっているが、ナギサが心を痛めていないはずがないだろう。ナギサの表情を間近で見た四人は痛々しい顔をしていた。
ナギサに祝福を受けていて無属性魔法が使えるウンディーネが王たちを城に帰し、シルフはナギサを寝室に寝かせた。精霊たちは大精霊とルー以外は帰るようシルフが指示したが、いつ目覚めるかも分からない状況でずっと傍にいてもお互い気が休まらないので、ナギサが起きたらしなければならないであろう後処理をすませるべく動き出した。
◇
「………ぅ、ん……?」
「っ、ナギサ様ぁ!」
「う……いた、痛いよウンディーネ……」
「あ、ごめんなさぁい」
俺は……寝てたのかなぁ? たしか断罪して浄化の舞を舞って……そのあとは?
「えっとー……俺はなんで眠って……?」
「魔力が枯渇しかけていたからだと思うぞ」
「ああそういうこと。なんかすっごい疲労感が………」
魔力は八割くらいまで回復してるみたい。俺は魔力の回復速度も過去一だけど、その分枯渇しかけてる時って疲労感が尋常じゃないんだよねぇ。助かってはいるけどその代償がなー……
「おおお、お疲れ……様、です。ナ、ナギサ様が……眠られて……」
「半日ほど経過致しましたよ。お身体の調子はいかがですか?」
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