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第一章 転生

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「精霊王様、申し訳ありませんがわたくしからもよろしいでしょうか?」
「分かったよ」

 ちょっとめんどくさい。わざわざ全員揃って友好関係の話しなくてもパーティーが終わったら嫌でも話すことになるんだからさ。俺にとっては面倒でも他の王たちからしたら必死なのも分かってるんだけどねぇ?それでも面倒なものは面倒。

「本当に申し訳ございません、精霊王様。我が族の者が取り返しのつかないことを致しました」
「そうだねー。否定してあげるつもりはないから。友好関係の話なら検討しておくよ。何度も同じ話ばっかりもう飽きたんだよねー」
「……そ、そうですか。それともう一つ、以前の人身売買の騒ぎがあった時、エルフ族の者も何名か助けて頂いたと聞きました。心より感謝申し上げます」
「うん。次は捕まらないように気を付けてねって言っておいて」
「はい。ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げて会場に戻っていく彼女を見送って、俺はバルコニーに残ることにした。気疲れからか眠くなってきたので手すりに肘をついてうとうとしていると、背後に気配を感じた。
 振り返って見るとシルフだった。シルフも疲れたのかなって思って見ているとそのまま俺の隣で同じように黙って肘をつく。シルフにしては珍しい行動だねぇ。

「っ、シルフ!」
「はっはい。ど、どうされましたか?」
「その香り…!」

 俺が知る中でたった一人だけの香り。その人本来の匂いなのか分からないけど香水でもシャンプーとかそういうのでもない香り。ふんわりと優しく、少しだけ甘い春のような香り。普通ならすぐ隣くらいの距離にいないと分からないようなほんのりと香る程度の。俺でも数メートル離れたら分からないくらいの。

 俺が知ってる中でこの香りを持つ人はたった一人しかいないのにその香りがシルフの方から風に乗って漂ってきた。もう消えかかっているけど間違いなく同じ匂い。俺が間違えるわけがない。今、ちょうど風が吹いたから気付いただけでそうじゃなかったら気付かなかったと思う。それほどまでに消えかかった香り。

「ごめん、取り乱したねぇ。……ねえシルフ。君はさ、大事な人とかいる?」
「え?………あの、誰にも言わないでくださいよ?」
「うん」
「僕には妻がいます」

 ……………つま?つま、ってあの妻?シルフの…?

「……」
「……」
「………」
「………あの?」
「……………つ、ま?…え、は、え!?」

 いやいやいや、嘘だよねぇ!?完全に思考が停止したんだけど!初耳なんだけど!シルフに妻って聞いたことないんだけど!

「……そんなに驚きますか?」
「驚きますよ!だってあの女性に興味はない~みたいな感じのシルフだよ?あのクールなシルフに妻!?」
「何をそんなに驚いているのか知りませんがそうですよ。僕は妻帯者です。ついでに子持ちです。二人」
「待って待って待って。どういうこと?いつの間にかシルフは結婚してて子供までいるの?それも二人。はい?」

 シルフに似合わない言葉ナンバーワンじゃない?シルフが結婚してるってだけでもびっくりなのに二人も子供がいるとか………

「いや、あのさぁ。結婚したなら主人にくらい報告しようよ?」

 もうよく分からなくなったので取り敢えずそんな風に言うと、しれっとすみませんって謝られた。すみませんじゃないんだけど……いや、いいよ?結婚するのも子供作るのも。だけど一気に情報流してこないでー?聞いたの俺だけど。
 ここ最近で一番びっくりしたんだけど。衝撃的すぎない?頭に疑問符しか浮かばないんだけど。

「はぁ…それで、その奥さんが大事な人だと?」
「そうですね。子供たちもです」
「そっか。すっごい今更だけどおめでとう。お相手は?」

 いつ結婚したんだろうね?って言うかいつ会ってるの?

「ありがとうございます。名前は教えませんが人間の平民ですよ」
「そーなんだ。いつか会わせてよ」
「はい」
「奥さん綺麗なのー?」
「綺麗ですけど……」

 狙わないでくださいよ?ってね、俺がそんなことすると思うー?思うから言ってるのかぁ。シルフもひどいねーそんな人だと思ってるの俺の事ー?

「俺は一途だと自分では思ってるからねぇ。心配いらないよー」
「それなら良いです。妻を信じていますがナギサ様が本気になったら正直勝ち目はないと思ってるので……」

 や、そんなわけないでしょー。シルフが惹かれた相手だよ?俺ごときでなびくようなタイプじゃないから絶対。

 それよりなんでこの話になったんだっけ?驚き過ぎてもう忘れちゃったよー……まーいっか。思い出したらその時で。

 ◇

「じゃあねー」
「お先に失礼します」
「じゃあな」

 ようやく立食パーティーが終わった。あの後、セインくんとランスロットくんに呼ばれて会場に戻り、そのまま二人とずっと話してた。夏休み中のお互いの予定を確認して合計三日は一緒に遊ぶことになった。もし予定が合えばエリオットくんも誘う予定だよー。ふつーに楽しみだね。それとは別でシュリー家に行ったりはするけどねぇ。

 パラパラと会場を出て行く人たちを見送ることなく俺たちは客室に移動する。こういう話の時は大体玉座の間とかになるんだろうけど俺がいる手前、上座に座れないとか考えたんだろうね。気にしなくて良いのにさ。

「ナギサ様、パーティー中約束通り我慢してたのは偉いと思いますが断罪の時もこの城を壊すなんてことはしないでくださいよ?」

 偉いって……

「分かってるよ。血で汚すくらいはするかもしれないけどねー」
「まあそれくらいでしたら」

 そこは良いんだ。基準おかしくない?王城の破壊はもちろんダメだけど客間を血で汚すのも中々だと思うよー?

 って言うか、俺たち精霊だけじゃなくて他の種族の人たちとも一緒に移動してるから間違いなくこっちの会話が聞こえてるよね。その証拠にビクビクしてるのが見て分かるし。部屋に向かっているメンバーからして自分たちが断罪されるってようやく理解したのかなぁ?犯人たちの顔色は悪くて真っ青を通り越して白くなってない?血の気が引き過ぎてるのかな。

ーーー

ご覧頂きありがとうございます。
第一章が終わったら何話か番外編を書こうと思っています。ご希望通りになるか分かりませんが、どのような話が良いかなどありましたら教えて頂けると嬉しいです\(^-^)/  山咲莉亜
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