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第一章 転生

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 会場に戻ろうと振り向くと今度は次の話し相手が待ち構えていた。さらりと風になびく長い白髪にルビーのような赤い瞳。俺とは真逆の色彩を持つ人彼女はエルフ族の王であるアシュリー族長。

「精霊王様、申し訳ありませんがわたくしからもよろしいでしょうか?」
「分かったよ」

 ちょっとめんどくさい。わざわざ全員揃って友好関係の話しなくてもパーティーが終わったら嫌でも話すことになるんだからさ。俺にとっては面倒でも他の王たちからしたら必死なのも分かってるんだけどねぇ? それでも面倒なものは面倒。

「本当に申し訳ございません、精霊王様。我が族の者が取り返しのつかないことを致しました」
「そうだねー。否定してあげるつもりはないから。友好関係の話なら検討しておくよ。何度も同じ話ばっかりもう飽きたんだよねー」
「そ、そうですか……それともう一つ、以前の人身売買の騒ぎがあった時、エルフ族の者も何名か助けて頂いたと聞きました。心より感謝申し上げます」
「うん。次は捕まらないように気を付けてねって言っておいて」
「はい。ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げて会場に戻っていく彼女を見送って、俺はバルコニーに残ることにした。気疲れからか眠くなってきたので柵に頬杖を付いてうとうとしていると、背後に気配を感じた。
 振り返ったそこにいたのはシルフ。シルフも疲れたのかなと思って見ているとそのまま黙って俺の隣に来た。シルフにしては珍しい行動な気がする。

「───っ、シルフ!」
「は、はい。どうかなさいました?」
「その香り……!」

 俺が知る中でたった一人だけの香り。その人本来の匂いなのか分からないけど、香水でもシャンプーとかそういうのでもない。ふんわりと優しく、少しだけ甘い春のような香り。嗅覚が優れている俺でも数メートル離れたら分からないくらいに薄いけど……

 俺が知ってる中でこの香りを持つ人は一人しかいないのに、その香りがシルフの方から風に乗って漂ってきた。もう消えかかっているけど間違いなく同じ匂い。大好きだったこの香りを俺が間違えるわけない。今ちょうど風が吹いたから気付いただけで、そうじゃなかったら気付かなかったと思う。それほどまでに消えかかってる。なんで、どうして? なんでシルフが………

「ごめん、取り乱した。……ねぇシルフ。君は大事な人とかいるの?」
「え? ………あの、誰にも言わないでくださいよ?」
「うん」
「僕には妻がいます」

 ………つま? つま、ってあの妻? シルフの……?

「………」
「………あの?」
「……………つ、ま? え……は、え!?」

 いやいやいや、嘘だよね!? 完全に思考が停止したんだけど! 初耳なんだけど! シルフに妻って聞いたことないって!

「……そんなに驚きますか?」
「驚きますよ! だってあの女性に興味なんてありませんって感じのシルフだよ? あのクールなシルフが結婚してる!?」
「何をそんなに驚いているのか知りませんがそうですよ。僕は妻帯者です。ついでに子持ちです。二人」
「待って待って……いつの間にかシルフは結婚してて子供までいる? それも二人。はい?」

 世界一シルフに似合わない言葉じゃない? シルフが結婚してるってだけでもびっくりなのに、子供が二人もいるとか………

「いや、あのさぁ……結婚したならせめて主人にくらい報告しようよ?」

 もう何が何だか良く分からなくなったので取り敢えずそんな風に言うと、しれっとすみませんって謝られた。すみませんじゃないんだけど……いや、良いよ? 結婚するのも子供を作るのも。だけど一気に情報流してこないでほしい。聞いたの俺だけどこんな衝撃の事実を知ることになるとは思わなかったって。
 ここ最近で一番びっくりしたんだけど。衝撃的すぎない? 頭に疑問符しか浮かばないんだけど。

「はぁ……それで、その奥様が大事な人だと?」
「そうですね。子供たちもです」
「そっか。すっごい今更だけどおめでとう。お相手は?」

 いつ結婚したんだろうね? って言うかいつ会ってるの?

「ありがとうございます。名前は教えませんが人間の平民ですよ」
「そう。いつか会わせてよ」
「はい」
「奥様綺麗なのー?」
「綺麗ですけど……」

 狙わないでくださいよ? ってね、俺がそんなことすると思う? ……思うから言ってるのかぁ。シルフもひどいね。俺のことそんな風に思ってるんだ。

「俺は一途な自信があるんだよね。だから心配いらないよー」
「それなら良いです。妻を信じていますがナギサ様が本気になったら正直勝ち目はないと思ってるので……」

 いや、そんなわけないでしょ。シルフが惹かれた相手だよ? 俺ごときでなびくようなタイプじゃないから絶対。

 それよりなんでこの話になったんだっけ? 驚き過ぎてもう忘れちゃったよー……まあいっか。

 ◇

「じゃあねー」
「お先に失礼します」
「じゃあな」

 ようやく立食パーティーが終わった。あの後、セインくんとランスロットくんに呼ばれて会場に戻り、そのまま二人とずっと話してた。夏休み中のお互いの予定を確認して三日は一緒に遊ぶことになった。もし予定が合えばエリオットくんも誘う予定。楽しみだね。それとは別でシュリー家に行ったりはするからセインくんとはもっと顔を合わせることになるんじゃないかな。

 会場を出て行く人たちを見送ることなく俺たちは応接室に移動する。こういう話の時は大体玉座の間とかになるんだろうけど俺がいる手前、上座に座れないとか考えたんだろうね。気にしなくて良いのにさ。

「ナギサ様。パーティー中約束通り我慢してたのは偉いと思いますが、断罪の時もこの城を壊すなんてことはしないでくださいよ?」

 子供扱いしないでいただきたい。数分の差とはいえ、この中で一番年上なのは一応俺だよ?

「分かってるよ。そんなことしたら後始末が大変だからさ。血で汚すくらいはするかもしれないけどねー」
「まあそれくらいでしたら」

 そこは良いんだ。基準おかしくない? 王城の破壊はもちろん駄目だけど血で汚すのも中々だと思うよ?

 そういえば俺たち精霊だけじゃなくて他の種族の人も一緒に移動してるから、間違いなくこっちの会話が聞こえてるよね。その証拠にビクビクしてるのが見て分かるし。部屋に向かっている顔触れからして自分たちが断罪されるってようやく理解したのかなぁ? 犯人たちの顔色は悪い。真っ青を通り越して白くなってない? 血の気が引き過ぎてるのかな。
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