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第一章 転生

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「なんでだ、こいつの態度が悪いんだぞ!?お前は公爵令息なんだから敬われるべき立場だろ!」
「僕がいいと言っているのです!」
「何の騒ぎですか?授業を始めますよ」

 ヒートアップしそうでしたがタイミングよく先生が入ってきたので言い争いはそこで中断。話の続きは放課後に、ということでまとまった。



「それで、なんでお前は何も言わないんだ!?」
「ですから僕がいいと言いているのですからランスロットが気にすることはありません!」

 俺が言っていた「面白そうなこと」、それは学園に一年間だけ通うこと。セインくんの反応は期待していた通りだったね。俺は今放課後の教室に残ってセインくんとランスロットくんと一緒に三人だけでいる。初日から授業を聞かずに居眠りしていた俺に先生は注意したけど早々に諦めたみたいだね。授業に参加しろと言って何度か難問を答えろと起こされたけど、日本と同じような問題ばっかりだし前世にはなかった問題も俺の宮にある書庫で勉強してたからまったく難しくなかったよ。

 最初は偶然だと思ったようだけど授業を聞いてなくても内容は理解していると分かったらしく、なんで俺が入学したのかと首をひねっていた。まあただの遊びだからねぇ。

「ねえ、君は朝公爵令息だからセインくんは敬われるべきだと言ってたけど、この学園って身分を振りかざすのは基本的に良い顔されないよねぇ?」
「それでも最低限の礼儀はあるだろ!俺だって公爵令息だぞ!」
「でもさぁ、それって君が何かしたわけではないよねー?親の身分でしょ。爵位を持ってるなら俺も敬ったかもだけどー」

 嘘だけどねぇ?だって国王陛下にでさえこの話し方を変えない俺が爵位を持ってるってだけで国王より下の身分の人を敬うわけなくない?それに人間や他の種族の中でも一番敬われるべきは俺だしねー。俺が態度を変える相手はたった一人だけだよー。それもこの世界にいないし態度を変えると言ってもほとんど変わらないと思うしー。

「それでも俺が親に言えばお前の未来はなくなるぞ」

 なんか頭の悪い会話みたいだねぇ。次席なんじゃなかったのー?

「まあやりたいなら好きにしなー。何といわれても俺が態度を変える義理はないからね。話はそれだけー?俺はもう帰るよ」
「お時間取らせてしまい申し訳ございません、ナギサ様。また明日会いましょう」
「うん。明日は勉強教えてあげるよー。じゃあね」
「あっ、おい!」

 宮ではアルフォンスくんが待ってるから早く帰らないとね。精霊たちとも直ぐに仲良くなってくれたしゆっくり有意義な時間を過ごせているようだよ。核を使った浄化は犯人を捕まえて精霊の核を取り戻してからになるから完全な浄化はまだ出来ないんだけど、それでも水の精霊が多い水の宮だからか顔色は良い。

 俺にも懐いてくれてると思うし、もうしばらくは一緒にいることになるかなー。やっぱり子供は良いよね。癒されるからさぁ。

「ただいまー」
「あーナギサ様ぁ。おかえりぃ」
「ウンディーネ、来てたんだねぇ」
「うん。ナギサ様が今日から学園?に行ってるって聞いたから待ってたのぉ。前に言ってた面白そうなことってこのことだったのぉ?」
「そーだよー」

 ナギサ様ってホント変なことばっかり考えるよねぇ、と呆れられた。そこは「変なこと」じゃなくて「面白いこと」って言ってほしいんだけどなー。俺は別に変人ではないからねぇ?ただ面白そうなことを思いついたらすぐに実行したくなるだけだよー。

「あの男の子…えっとアルフォンスくん……だっけぇ?ナギサ様がいない間具合が悪そうだったから一時的な効果しかないけど、シルフが浄化しに来てくれたんだよぅ」
「そっか。今は大丈夫そう?」
「うん。眠ってるよぅ」

 わざわざシルフが来てくれたんだ。あとでお礼を言っておかないとだねぇ。

 ◇

「ふわあ……ねーむ」
「おはようございます、ナギサ様」
「おはよーセインくん」

 精霊は寝なくていいけど俺は寝るのが好き。それで今朝も遅くまで寝てたんだけど遅刻しますよ!ってルーに起こされちゃったんだよねぇ。なんかもう人間みたいな体質になっちゃってるよね、俺。前世は人間で間違いないんだけどねー?

 最近ルーに人間になったらどうですかって言われるんだよ。だからってわけではないけど、こうして人間のふりはしてるんだよね。でも別に人間になりたいわけじゃないんだよ?精霊の方が絶対楽だしさー。

「あーあ、ほんとに眠いや。今日も授業中は睡眠時間になりそー」
「おはよう、ナギサ。挨拶ぐらいはするべきだろ」
「あれ?ごめんねぇ、気付かなかったよ。おはよー」
「…………」

 欠伸しながら歩いてたからセインくんの隣にいたランスロットくんに気付かなかったよ。おかげで睨まれちゃったねぇ。でも嫌ってる相手にもしっかり挨拶するあたり育ちが良いよね。
 ふとしたところに育ちの良さって言うのは出るものだからさぁ。マナーって大事だよねー。

 ま、誰に対しても敬語を使わない自由人の俺がこんなこと言うのもなんだけど。

「ナギサくん、おはよう!」
「おはようございますナギサくん!」
「はよ!いい朝だなっ」
「おはよー!今日も三人一緒か?仲がいいな!」

 校門をくぐり、学園内に入ると多くの生徒が親しげにナギサに挨拶する。貴族が多いこの学園で平民であるナギサがここまで慕われるのは話していると気が抜けるとか、かっこいー!とか、あとは滲み出る育ちの良さが只者ではないと思わせているとか。それにずっとのんびりした笑顔を浮かべてるから癒されるわーとか。

 もちろん身の程をわきまえろとか思っている人もいるが、ほとんどの生徒や先生たちまでナギサと親しくしているので表立って批判できない。入学してきてまだ日が浅いと言うのにナギサは学園に馴染んでいた。
 本人は自分が育ちが悪いかのような言い方をするが、前世での仕草や立ち居振る舞いが染みついているので王侯貴族と並んでも遜色ない。

 裕福な家庭で生まれたナギサは自由にしながらもそういうところは気を使っていたのである。

 と、まあそんな感じで日々ナギサを慕う人やファンも増えていく。批判しづらい状況下で周りの目を気にせずナギサに意見するランスロットも一部から尊敬の眼差しを向けられるようになったり、セインも友人と呼べる相手が増えていた。

「みんなおはよー」

 話しかけてくれた人たちに手を振って笑顔で挨拶すると、男女問わず悲鳴が上がった。俺はいつからアイドルみたいになったんだろうねぇ。人気があるかは置いといて、悲鳴がアイドルのライブみたいだよ。行ったことないけど。

「今日は何の授業があるんだっけー」
「今日は試験ですよ。基本教科と全四種族について、それから運動系やダンス」
「へー。俺もちゃんと参加した方が良いやつかなぁ?」
「そうですね」
「お前、たまにはちゃんと授業に参加しろよ!よくそんなで一組に入れたな。授業中はちゃんと参加するものだと、赤子でも分かるぞ」
「赤ちゃんはそんなこと分からないでしょー」
「たとえの話だよ!」

 あはは、なんかもうこういうやり取りも慣れてきたね。ランスロットくんも俺に言うだけ無駄って分かったのか最初の頃ほど騒がないし。友人を心配する面倒見のいい男って周りからは思われてるみたいだよ?言ったら殺されそうだけどね。

 でも意外と良い人だもんね。嫌われ役っぽいところがあるかと思ってたけど俺以外のちゃんとしてる人たちには好かれてるみたいだし、穢れは感じないしねー。なにより見ていて面白いよ、彼。俺に突っかかって来ながら百面相してる。良い観察対象だねぇ。

「でも残念だなぁ。今日はいつも以上に眠いから授業中は俺の睡眠時間になるはずだったのにー。いっそ試験もさぼろっかな?」
「試験で赤点を取るとクラス落ち、0点は退学だぞ。頭を下げてお願いするなら試験の範囲を教えてやってもいい」
「別にいいよー。俺、勉強しなくても満点以外取ったことないから」

 正確に言うなら学校で勉強しなくても、だけどね。前世は家の私室で、今世は宮の書庫でしっかり勉強してるから。知ってる内容だとしても楽しいから何度も復習するんだよ。そうすると自然と頭に入ってくる。しっかり勉強してれば満点取るのって案外簡単なものなんだよー?

 ちなみに俺は前世の俺のスケジュールは朝起きて学校に行き、帰宅部で帰ったら三時間くらい勉強、それから習い事が二十三時くらいまで、移動時間や待ち時間も勉強、帰って三時間くらい勉強、就寝って感じ。寝るのが好きとか言いながらショートスリーパーだったから健康面は問題なし、学校では趣味で寝たり読書。時々部活の助っ人をお願いされたりって感じかなー。休日は朝から晩まで習い事とか将来継ぐ仕事の手伝いで埋め尽くされるけどね。

 でもこれだけの勉強時間で毎回満点取れるんだからやっぱり簡単だと思うんだけどなぁ。

「どこかの学校に通ってたわけではないですよね…?なのに満点?」
「あ、なんでもないよー。聞き間違いじゃないかなぁ」

 危ない危ない。当然だけど今世で学校なんて通ってないし、転生者だなんて言えるわけがないから……
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