上 下
15 / 234
第一章 転生

15

しおりを挟む
「あのー、お兄さん? あたし達はこれからどうしたら良いんだい?」
「あ、ごめんね。帰りたい場所を言ってくれたら送っていくよー」

 そう言うと、それぞれ家の場所や職場に送ってほしいって言う人もいたから転移魔法で送っていった。みんな最後にお礼を言ってくれたけど俺は大したことはしてないんだよねぇ。言い方は悪いけど暇つぶしのようなものだったからさ。

「あたしは王城に送ってくれるかい? 実は王宮魔法師なんだ。ちょっとしくじって捕まってしまったんだけどね、あの穢れた場所では精霊に力を借りることも出来なかったんだ。もっと仲良くならないと今回は助けてもらったから良かったけど、もっと危ない場面じゃあ魔法師なのに役立たずになってしまうね」
「へぇ……すごいね。ちなみに何属性の精霊?」
「風の中位精霊だよ」
「そっか」

 風の中位精霊で人間に祝福を与えていると言ったら数人しかいない。あ、でも契約してる子はもっといたっけ?

「祝福を受けてるのー?」
「いや、契約だよ」
「なるほど。精霊の名前は?」

 契約は祝福とは違って、精霊にこういう条件で力を貸してくれないかって交渉して精霊が受け入れた場合のことを言う。条件はその精霊が好むものとか気分とかで変わるけどねー。
 心が綺麗なのは絶対条件で祝福とはいかなくても契約で力を貸すくらいなら、と考える精霊も少なくない。とはいえ、祝福は上位になればなるほど受け辛くなり下位の精霊でも祝福持ちはほとんどいない。契約ならパートナーになれる可能性は上がるけど稀少な人材であることには変わりない。

「ランだよ」
「あー……ランか。分かった。ラン、おいでー」
「───なに?」

 パッと姿を現して駆け寄ってくる。抱き着いてきたので抱き上げると嬉しそうに擦り寄ってきた。普段はクールなのに可愛いところもあって好きなんだよね。ランを抱えたまま風魔法で飛んで玉座まで移動する。わざわざ座る必要はないんだけど、椅子があるのにずっと立っている必要はないでしょ?

「ランは……えーっと、お姉さん名前は?」
「クレア・シーラン。男爵家の当主だよ」

 おー、貴族だったんだ。王宮魔法師らしいし色々とすごい人だね。

「じゃあランはクレアちゃんのこと嫌い?」
「好きだよ、優しいから。それがどうかした?」

 嫌いどころか好きなんだね。祝福を与えているわけではないけど不仲と言う程ではない、って感じか。穢れに耐えてまで助けようとするほどではなくても信頼関係は築けているようで安心した。

「クレアちゃんが捕まってるとき傍にいなかったみたいだから。穢れで気分が悪かった?」

 聞いてみるとランは驚いたように一瞬目を見開き、すぐに首を横に振った。彼女の傍にいなかったのは穢れが原因かと思ったんだけど違うの……?

「クレアがいなくなったから探そうと思ってたけど緊急でシルフ様に呼ばれたんだ。それで探せなくて。シルフ様には事情を説明して急いで話を終わらせてきた。ナギサ様が呼んでくれたから今はこっちを優先してるけど、祝福じゃないなら主の命が優先だし。だからナギサ様、助けてくれてありがとう」
「そういうことだったんだね。緊急の用事が何なのかは気になるけど……良いよ、気にしないでー」
「ごめんね、ラン。心配かけたかい?」

 眉を下げて本当に申し訳なさそうにクレアちゃんが謝ってる。その姿にランは、『心配した。これからは出来るだけクレアを優先できるようにする』と言って祝福してる。お詫びも兼ねているのかもしれないね。

 精霊って分かりやすいよね。好意を感じたり何かのお詫びとかお礼に祝福して、嫌なこととか特に穢れはあからさまに避けるし、気まぐれだから条件によっては契約して魔法を使わせてあげたりもするし。人間より楽でいいんじゃない? 少なくとも俺は前世の人間よりも今世の精霊の方が性格は合うと思うんだよね。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪

紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。 4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪ 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。  うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。  まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。  真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる! 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...