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第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく

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「おかえりー」
「ただいま……」
「え、どうしたの?すっごい悲壮感が漂ってるんだけど」

 それ、おれが家に入ってからリビングにたどり着くまでにすれ違った使用人全員に言われた。陽太から始まり庭師、工藤さん、その他数人……

「兄さぁん!」
「え、え、なに?」
「おれ……今週の土曜日修学旅行だったの忘れてた……」
「……わぁお」

 うわぁん!と半泣きで兄さんに抱き着くと優しく頭を撫でてくれた。学生のうち、一番最初の修学旅行が小学校なのにそれを逃すとか最悪以外の何物でもない。

 兄さんに命じられて渋々隣に座っていたのだろう旭もそんなおれを見て苦笑していた。

「それは残念だったね。京都に行く予定だったんだっけ?家族で行くのと友人と行くのでは違うもんねぇ…」
「ああぁぁぁ」
「あはは……旭、直人くんにココア持ってきてあげて。あと俺に紅茶」
「はい」

 取り敢えず兄さんに愚痴を吐かせてもらって、何も言うことがなくなったけどそのまま抱き着いていると兄さんがすごく良い匂いなことに気付いた。あ、わざと匂いを嗅いでた変態じゃないから。

「……兄さん、もしかして風呂上がり?」
「いや、違うけどなんで?」
「すごく良い匂いがしたから」
「そう?それなら柔軟剤じゃない?」
「香水とかではないの?」

 そう聞いてみると、予想通り「違うよ」と返って来た。兄さん鼻が良いから人工的な匂いは嫌いだからね。香水もほぼ天然のやつ。それでも仕事の時以外はあまり使わないっぽい。
 ちなみに我が家の香水、柔軟剤、シャンプーなどなど香りのあるものはすべて兄さんのことを考えられたものなんだよ。兄さんいわく、人工的な香りはほんの少しでも混ざると吐き気がするらしい。

 となると社交パーティーとか、兄さんにとっては地獄でしかないね。

「んー……旭と陽太、そこに座って」

 ビシッとテーブルを挟んで自分の正面にあるソファーを指差す。慣れているとはいえ、主人の前に座るのは抵抗があるのか二人とも遠慮気味に座る。

「直人くん、ひとつ提案なんだけど、撮影がある五日間の内いつになるかは分からないけど俺と観光地巡りでもしない?修学旅行の代わりにさ。一日中撮影ってことはないから空き時間に少しでも。どう?」
「おれは嬉しいんだけど兄さんっておれ以上に忙しかったよね?」
「大丈夫だよー。そのために旭と陽太には同行してほしいんだよね」
「私たちがですか?」
「うん、スケジュール管理で。スケジュール管理以外は俺がお金出すから好きに遊んでて良いよ。ボーナス出すからついてきてくれない?」

 指で数字を作って見せる。……七百万。あまりの額に二人は絶句しているけど、おれも五日間の仕事に同行しスケジュール管理をするだけにしては大金だと思う。CM一本で約一千万円(×放送日数)、番組一本で一億以上に加えてモデルや役者もしてる芸能界収入トップ俳優。チラッと聞いたことがあるけど兄さんの私財って……財閥並みにあるらしいんだよね。あまり使わないかららしいんだけど金銭感覚おかしいよね、兄さん。

「足りないなら増やしても良いけど」
「た、た、大金過ぎます!一般的な金銭感覚でいてほしいです!」
「大金ってほどでもなくない?」
「い、いや……このボーナスにプラスして好きなだけ遊んで良いって普通おかしいっすよ」

 旭は焦って陽太は引いてるね。でもどっちの気持ちも分かる。

「兄さん、その金額は一般人の中でもかなり稼いでる人の年収くらいだよ」
「……少なすぎない?」
「少ない気がするけど、普通はそんなものだって前に工藤さんが言ってた」
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