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第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく

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「おはよう」
「ああ、おはよう。今日はお兄さんは学校来てるのか?」
「うん。ちょうど……ほら、そこの窓から見える」
「……天下の桜井跡取りが徒歩通学か」

 天下ってほどでもない……こともないか。しっかり声を潜めてくれてるから助かるね。

「それで言うと晴陽だって一緒じゃない?」
「俺は同じ跡取りでも西園寺だからな。同じ財閥でも規模が違うって」
「それ、有栖姉さんも同じようなこと言ってた」

 そうか?と首を傾げるけど、財閥の人は大抵同じようなことを言う。

 それだけ桜井の規模はすごいってことなんだろうけど、あまり権力を持ちすぎると良くないから権威を少し削る方法はないかと父さんと兄さんで相談しているのを聞いてしまったことがある。桜井は衰えるどころか年々権力が増し、各国の首脳たちでさえ無視することは出来なくなってきている。このまま行くと国を作れるくらいになってしまう。もしそうなった場合、また戦争が起こてしまうだろうと話していた。

 もはや世界中で桜井を知らない人はいない。桜井って名字自体はたくさんあるから本名を名乗っても身バレすることはほとんどないけど、このままでは色々と危険なんだと思う。

 ◇

「───土曜日は修学旅行だけど、皆さん準備は出来てますか?」

 普通にいつも通りの授業が終わり、みんな早く帰りたいのか我先にと教室から出て行く。おれも帰ろうと教室から出て行こうとしたところで先生がクラスメイト数人に囲まれて話している声が耳に入ってきた。

 修学旅行。それはほとんどの生徒は楽しみにしている行事だと思う。かく言うおれも楽しみにしていたんだけど、今とんでもないことを聞いてしまった気がする。

「は…晴陽」
「どうした?」
「修学旅行って……もしかして、今週の土曜日……?」

 おれだって修学旅行が何日なのかは分かっている。それでも受け止めたくない現実って言うのはあるもの。

「そうだが?……お、お前、まさか」
「おれ………土曜日から映画の撮影……」
「マジか……」
「うん……」

 やっぱりそうだよね!勘違いだと思いたかった!修学旅行と仕事が被るって……こんな悲しいことある!?こんなショックなことないでしょ……
 しかも修学旅行まであと一週間を切ってるこのタイミングで気付くとか終わってるんだけど。

「うぅ……」
「……俺も昨日佐倉さんの配信聞いた。かなり大きい映画なんだってな。あの佐倉さんが大きいと言う程の撮影だし、流石に仕事を休むことは出来ないな」

 結局今日は西園寺家の車に乗せてもらって家に帰った。車の中では晴陽が必死に慰めてくれたけど、おれがあまりにも悲し気だったのか家に着いた時に運転手さんが飴をくれた。若いお兄さんだったんだけど、渡すものが柿味の飴って言うちょっと面白いものだったので思わず笑ってしまった。
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