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第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく
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「…………あ…メイクさん、これくらいの傷なら化粧でなんとかなりますよね?」
手当てが終わった頃、ようやく我に返ったらしい兄さんが近くで泣きそうになって震えるメイクさんに優しく問いかける。スタジオ全体が兄さんの反応を伺うように静まり返っているのと、静かながら良く通る役者の声量のおかげでこの場にいる全員に聞こえる声だ。恐らく兄さんはわざと全員に聞かせようとしている。
「は、はい……おそらく…………」
「と言うことですのでどうか皆さん、今起こったことは胸に秘めておいてくださいね。俺の不注意でもありますから。お騒がせしてしまって申し訳ありませんでした」
そう言って小さく微笑み、深く頭を下げる。それにならってメイクさんも頭を下げた。
その後はスタッフさんたちの計らいですぐに先程までの明るい雰囲気を取り戻し、兄さんは最後の撮影に移った。
「………あれが桜井次期当主の器か。自分も責任を被って頭を下げることでメイクさんが責められることのないように配慮し、その場を収める。簡単そうだが誰にでも出来ることではないぞ」
「そうだね。まあそれを当たり前のようにやって見せるのが兄さんなんだけど」
西園寺グループの跡取りである晴陽は尊敬と畏怖を込めた声で呟いた。おれも周囲にいる人には聞こえないように小さな声で話す。
商売道具である前に自分の綺麗な顔に傷がついて、それでも周りのことを一番に考えて行動する兄さんは本当にプロだ。
兄さんが騒げばあのメイクさんは間違いなく職を失ってた。芸能界でもトップの成績を残す、兄さんの言葉だから。経済的な話をすると、万が一兄さんが怒って芸能界をやめた場合、この先芸能界に落とされるはずだったお金は当然落とされなくなり、兄さんを見込んで投資しているような会社も多いから芸能界が崩れるかもしれない。
桜井はそれくらいで揺るがないけど他の会社は路頭に迷うだろうね。そこまで考えてメイクさんを庇ったのかは分からないけど、兄さんの言葉で大勢が救われたのは間違いない。
どこを取っても兄さんはプロ。興味本位で始めた仕事だろうけど、芸能活動に誇りを持っているのは見ていれば分かる。何をするにも好きだと感じたら本気取り組める兄さんはやっぱりすごい。心の底から尊敬するし本当に大好きだなって思う。腹黒くても計算高くても心の奥底は綺麗。容姿だけじゃなくて心までも綺麗な兄さんが本当に、
─────うらやましい。
あぁ……おれは自分のこういうところが大嫌い。兄さんのように特別努力を重ねているわけでもないのに、妬む気持ちはある。おれは普通よりはちょっとスペックが高いと思うけど、兄さんほどじゃない。兄さんのように努力を楽しむことは出来ない。大好きなのに、本当に好きで好きで仕方ないのに……こういうドロドロした感情もある。それを大好きな兄さんに向けてしまう自分が本当に…………だいっきらい。
手当てが終わった頃、ようやく我に返ったらしい兄さんが近くで泣きそうになって震えるメイクさんに優しく問いかける。スタジオ全体が兄さんの反応を伺うように静まり返っているのと、静かながら良く通る役者の声量のおかげでこの場にいる全員に聞こえる声だ。恐らく兄さんはわざと全員に聞かせようとしている。
「は、はい……おそらく…………」
「と言うことですのでどうか皆さん、今起こったことは胸に秘めておいてくださいね。俺の不注意でもありますから。お騒がせしてしまって申し訳ありませんでした」
そう言って小さく微笑み、深く頭を下げる。それにならってメイクさんも頭を下げた。
その後はスタッフさんたちの計らいですぐに先程までの明るい雰囲気を取り戻し、兄さんは最後の撮影に移った。
「………あれが桜井次期当主の器か。自分も責任を被って頭を下げることでメイクさんが責められることのないように配慮し、その場を収める。簡単そうだが誰にでも出来ることではないぞ」
「そうだね。まあそれを当たり前のようにやって見せるのが兄さんなんだけど」
西園寺グループの跡取りである晴陽は尊敬と畏怖を込めた声で呟いた。おれも周囲にいる人には聞こえないように小さな声で話す。
商売道具である前に自分の綺麗な顔に傷がついて、それでも周りのことを一番に考えて行動する兄さんは本当にプロだ。
兄さんが騒げばあのメイクさんは間違いなく職を失ってた。芸能界でもトップの成績を残す、兄さんの言葉だから。経済的な話をすると、万が一兄さんが怒って芸能界をやめた場合、この先芸能界に落とされるはずだったお金は当然落とされなくなり、兄さんを見込んで投資しているような会社も多いから芸能界が崩れるかもしれない。
桜井はそれくらいで揺るがないけど他の会社は路頭に迷うだろうね。そこまで考えてメイクさんを庇ったのかは分からないけど、兄さんの言葉で大勢が救われたのは間違いない。
どこを取っても兄さんはプロ。興味本位で始めた仕事だろうけど、芸能活動に誇りを持っているのは見ていれば分かる。何をするにも好きだと感じたら本気取り組める兄さんはやっぱりすごい。心の底から尊敬するし本当に大好きだなって思う。腹黒くても計算高くても心の奥底は綺麗。容姿だけじゃなくて心までも綺麗な兄さんが本当に、
─────うらやましい。
あぁ……おれは自分のこういうところが大嫌い。兄さんのように特別努力を重ねているわけでもないのに、妬む気持ちはある。おれは普通よりはちょっとスペックが高いと思うけど、兄さんほどじゃない。兄さんのように努力を楽しむことは出来ない。大好きなのに、本当に好きで好きで仕方ないのに……こういうドロドロした感情もある。それを大好きな兄さんに向けてしまう自分が本当に…………だいっきらい。
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