落ちこぼれ御曹司のおれが歴史に名を残すまで。

第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく

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「直人様、これ間に合います？」
「間に合わせて！」

　呑気に首を傾げる陽太を無視したおれは運転手にそう叫んだ。揺れのないリムジンの中で朝食を食べながら陽太には髪を整えてもらう。整えると言っても櫛で梳くだけなんだけどね。

「ご馳走さまでした」

　あぁ…朝からドッと疲れたよ……だらしなくソファにもたれ掛かるおれに陽太は紅茶を出してくれた。なにも出来ることはないのでそれを飲みながらしばらくぼーっとする。
　兄さんほどじゃないけど、おれも習い事はたくさんやっている。アイドルの仕事のためにやってるのもあるね。

　今日はダンスと家庭教師との勉強だけ。でも夕方には映画の打ち合わせがあるから早めに切り上げないといけない。楽しみな反面、不安でもある。正式にはデビューしてないけどデビューしているようなものであるアイドル活動とは違う。
　おれが知らない人ばかりだし、おれと違ってみんなプロ。プロを差し置いておれが準主役を務めても良いのかと言う想いはまだ残ってるんだよね。

「……申し訳ございません、直人様。少々よろしいでしょうか」
「どうしたの？」
「こちらの方が……」

　学院の前の通りに入って少しした頃、信号待ちをしていると話しかけられたらしくそちらを見ると白バイに乗った警官に警察手帳を出された。

「警察だ。少しあちらのスペースに止まってほしい」
「理由をお聞きしても？」
「ナンバープレートがない。ナンバープレートのない車を走らせることは法律で禁じられている」
「あなた、失礼ですが新米の刑事さんですか？」
「は？そうだが」

　上司の方はこの人に何も言ってないのかな。はぁ……めんどくさい。学校の近くで面倒ごとを起こさないでほしい。

「メディアの桜井財閥、桜井直人です。桜井グループを含めたいくつかの家は過去の事件により、特別な審査の上でナンバープレートを不要として頂きました。その代わり、ナンバーなしの車に乗る場合にはタイヤのホイールに家紋を彫ることを義務付けられた。それくらいはご存知でしょう。桜大紋が彫られているはずですが、ご確認いただきました？」

　桜大紋は桜井財閥の家紋。おれの家以外なら深真とかもそうだけど、家紋を明かしていないんだよね。ただ、桜井は常に家紋入りの物を持っているから気付いている人はいると思う。でもほとんどの人は知らないからこうして家紋入りの車に乗っても知り合いにバレたりすることはないんだよね。

　我が家も普通にナンバー付きの車も持ってるよ？だけどそっちはあまり乗らないんだよね。だから警察は今回みたいなことが起こらないように把握させているはずなんだけどな。