13 / 58
第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく
12
しおりを挟む
◇
「……ん?」
日付が変わって少しした頃にようやく兄さんが帰って来た。俺が起きているとは思わなかったようで少しびっくりしてるね。
「兄さんお帰りなさい。父さんたちはもう寝てるよ」
「知ってる。逆になんで直人くんはこんな時間まで起きてるのー?もう日付変わってるのに」
「兄さんに報告とお願いしたいことがあって待ってたんだ。夜遅くに悪いんだけど良いかな?」
昼食を終えたおれたちはリムジンに乗り込んで……というのは嘘で、目立つから普通の車で普段暮らしている方の家に戻った。その家は一般的には広い方だと思うけど本家に比べたら全然小さい。正体を明かしていないのもあって普段はここで暮らしている。
父さんたちに映画についての報告をしたおれは私室に戻ってすぐにマネージャーに電話をかけた。
内容はもちろん、映画の代役を引き受けると言う話。マネージャーはすごく喜んでたね。明日……じゃない、今日の夕方に打ち合わせがあるらしく、詳しいことはその時に話すと言っていた。
「良いよ。急いで湯浴みしてくるからリビングで待ってて」
「うん」
兄さんを待つ間に二人分のホットチョコレートを作る。兄さんの分はかなり甘々に。
「兄さんって……よくこんなに甘いの飲めるよね………」
兄さんは極度の甘いもの好き。もう何度も作ってるから分量とかも覚えたけど、何度作っても匂いだけで胸焼けがする。飲んだら甘すぎショックで倒れそう。新しい病名が作れたんじゃない?嬉しくないけど今度から兄さん仕様の甘さのものを嗅いだ時に胸焼けがしたらこの言葉を使おうかな……
なんて、馬鹿なことを考えていると兄さんがリビングにやってきた。部屋着姿だというのにこんなに色気があるのはなんでなんだろうね……
「……お待たせー」
「そんなに待ってないけど。でもなんで上半身裸なの?」
「傷が痛くてねぇ。撮影が終わった辺りから服が擦れる……だけで、激痛が走るんだよー」
あはは、とから笑いをする兄さんの額には脂汗が浮かんでいる。湯浴みをした時のお湯や水ではないのは明らか。
「大丈夫!?あまり喋らなくて良いよ。服が擦れるだけで激痛って、喋ってるとヤバいんでしょ。お願いだから楽にしてて!」
「ん……っ」
おれの言葉に小さく笑おうとして、痛そうに顔を歪めながら蹲る。兄さんが痛がっているのはお腹にある大きな傷のせい。
毒を盛られた時に毒が遅効性だったから処置が遅くなった。普通は手術なんてしないかもしれないけど兄さんの場合は少し違った。どこで手に入れたのか、誰にも知られていない毒だったらしく臓器に色々と問題が起きて急遽手術することに。
たぶんうちじゃなかったら助かっていなかったと思う。父さんがお金に糸目をつけず、世界中から科学者とか薬師とか集めて調べさせた。それで初見の毒について分かったんだって。
その手術でどうしても傷口は塞ぎきれなくて、結果的に大きな傷が残ったんだって聞いた。それが後遺症として痛みが残り、一生治ることもないそう。
「い…っ、たぁ……」
「ごめん、今日はもう良いから寝よ。兄さん辛いでしょ」
見ていられなくなり、今日はやめておこうと思って言った。すると兄さんはほぼ呼吸してるだけのように小さな声で、「どうせ今日は痛みで眠れないから話を聞くよ。俺のことは心配しなくて良いからね。もう慣れてるし」と言った。
痛みに慣れていると言うのなら何故苦しんでいるのか。慣れているのなら服が擦れただけで激痛が走る、とか言って服を脱いだりしない。笑おうとするだけで蹲ったりしない。それに痛みで眠れないと言ったのに矛盾している。
それに兄さんは痛みに強い方だからこれだけ苦しんでいるなら相当のものだよ。
「……ん?」
日付が変わって少しした頃にようやく兄さんが帰って来た。俺が起きているとは思わなかったようで少しびっくりしてるね。
「兄さんお帰りなさい。父さんたちはもう寝てるよ」
「知ってる。逆になんで直人くんはこんな時間まで起きてるのー?もう日付変わってるのに」
「兄さんに報告とお願いしたいことがあって待ってたんだ。夜遅くに悪いんだけど良いかな?」
昼食を終えたおれたちはリムジンに乗り込んで……というのは嘘で、目立つから普通の車で普段暮らしている方の家に戻った。その家は一般的には広い方だと思うけど本家に比べたら全然小さい。正体を明かしていないのもあって普段はここで暮らしている。
父さんたちに映画についての報告をしたおれは私室に戻ってすぐにマネージャーに電話をかけた。
内容はもちろん、映画の代役を引き受けると言う話。マネージャーはすごく喜んでたね。明日……じゃない、今日の夕方に打ち合わせがあるらしく、詳しいことはその時に話すと言っていた。
「良いよ。急いで湯浴みしてくるからリビングで待ってて」
「うん」
兄さんを待つ間に二人分のホットチョコレートを作る。兄さんの分はかなり甘々に。
「兄さんって……よくこんなに甘いの飲めるよね………」
兄さんは極度の甘いもの好き。もう何度も作ってるから分量とかも覚えたけど、何度作っても匂いだけで胸焼けがする。飲んだら甘すぎショックで倒れそう。新しい病名が作れたんじゃない?嬉しくないけど今度から兄さん仕様の甘さのものを嗅いだ時に胸焼けがしたらこの言葉を使おうかな……
なんて、馬鹿なことを考えていると兄さんがリビングにやってきた。部屋着姿だというのにこんなに色気があるのはなんでなんだろうね……
「……お待たせー」
「そんなに待ってないけど。でもなんで上半身裸なの?」
「傷が痛くてねぇ。撮影が終わった辺りから服が擦れる……だけで、激痛が走るんだよー」
あはは、とから笑いをする兄さんの額には脂汗が浮かんでいる。湯浴みをした時のお湯や水ではないのは明らか。
「大丈夫!?あまり喋らなくて良いよ。服が擦れるだけで激痛って、喋ってるとヤバいんでしょ。お願いだから楽にしてて!」
「ん……っ」
おれの言葉に小さく笑おうとして、痛そうに顔を歪めながら蹲る。兄さんが痛がっているのはお腹にある大きな傷のせい。
毒を盛られた時に毒が遅効性だったから処置が遅くなった。普通は手術なんてしないかもしれないけど兄さんの場合は少し違った。どこで手に入れたのか、誰にも知られていない毒だったらしく臓器に色々と問題が起きて急遽手術することに。
たぶんうちじゃなかったら助かっていなかったと思う。父さんがお金に糸目をつけず、世界中から科学者とか薬師とか集めて調べさせた。それで初見の毒について分かったんだって。
その手術でどうしても傷口は塞ぎきれなくて、結果的に大きな傷が残ったんだって聞いた。それが後遺症として痛みが残り、一生治ることもないそう。
「い…っ、たぁ……」
「ごめん、今日はもう良いから寝よ。兄さん辛いでしょ」
見ていられなくなり、今日はやめておこうと思って言った。すると兄さんはほぼ呼吸してるだけのように小さな声で、「どうせ今日は痛みで眠れないから話を聞くよ。俺のことは心配しなくて良いからね。もう慣れてるし」と言った。
痛みに慣れていると言うのなら何故苦しんでいるのか。慣れているのなら服が擦れただけで激痛が走る、とか言って服を脱いだりしない。笑おうとするだけで蹲ったりしない。それに痛みで眠れないと言ったのに矛盾している。
それに兄さんは痛みに強い方だからこれだけ苦しんでいるなら相当のものだよ。
20
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる