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第一章 幸せが壊れるのはあまりにも呆気なく

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「父さん、直人です。少し時間良いかな?」
「入っていいぞ」
「失礼します」

 兄さんと同じ映画に出ることを決めてまずは父さんと母さんに報告をしておいた方が良いと考えた。時間がある時に兄さんにも報告しないといけないけど、兄さんはおれがマネージャーに出演の連絡を入れたら自動的に伝わるかもしれないね。

「悪いな、今は手が放せない。その辺に座って待っていてくれ」
「わたくしがお茶を用意しますよ。何が良いですか?」
「いや、すぐ終わるからこのままで良いよ。ひとつ報告があって来ただけだからね」
「そうか?それで、何の報告なんだ」
「今日、兄さんが海外へ撮影に行ってる映画におれも出演することになったんだ。準主役だった方が大怪我したらしくてその代役でね」
「……は?」
「あら……」

 取り敢えず要件だけ先に伝えると驚いたように父さんのペンを持つ手が止まった。ぱちぱちと瞬きを繰り返すその顔は若いを通り越して幼く見え、思わず苦笑する。
 母さんは口元に手を当てて驚いているように見せてるけど、この反応は知ってたね。母さんは父さん以上に情報が早いから知っていても不思議ではないけど。

「ちょ、はあ!?何故そんなことになったんだ!?」
「だから代役だよ。とりあえず落ち着いて」
「……悪い。代役って、それを受けたと言うことか?」

 まさか反対されるとか?いや、それはないよね。だって父さんは危険でなければ基本的に好きなことをさせてくれるし。

「あとで連絡を入れるんだよ。何か問題でもあったかな?」
「いや、そんなことはない。ただその役だが……」
「?」
「かなりすごい役ですよ。かなり有名な話を映画にするとのことでしたけど、準主人公と言いながら活躍やその役の人気度合いは主人公並みと聞きました」

 残念ながらおれはそこまで詳しいことは知らないんだよね。そもそも何の作品なのかも聞いてない。ただ母さんの話を聞く限りだと何かの本とかだったのかな。それが映画化するとか?

 ……って、現実逃避してる場合じゃないよね。おれほんとに聞いてないよ。主人公並みとか聞いてないよ!?準主役でもほとんど同じようなもの?どうしよう、分からない!

「そう焦った顔をするな。良かったじゃないか。いい経験になるぞ」
「うーん…そう、だね?うん、まあいいや。とにかくその報告に来ただけだよ」
「分かりましたよ。頑張ってくださいね」

 半ばヤケクソになってるのは否定しないよ……でもせっかく良い話をもらえて、陽太には励ましてもらって、父さんたちも応援してくれてるなら頑張るしかないよね。
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