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第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──
79 ハニートラップ
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「フェルリア公爵夫人……こんばんは。お目にかかれて光栄です」
「わたしもです。ご夫人は今日はいらっしゃらないのですね。お体の調子が悪いのでしょうか?」
「ええ」
「それは心配ですね……お大事に、とお伝えくださいまし」
「ありがとうございます」
この人……やっぱり偽物だね。それと手慣れてはいるけどプロとは少し違う気がする。というより、ただの暗殺者ではないなにか……みたいな。どうにか人が少ないところに誘導しなければ。
「子爵、少し外でお話しできないかしら?」
「申し訳ありませんが今は、」
「ご夫人のことは心配ですけど、いつも女性として見られないと相談を受けていましたし……もっとわたしと親しくなりたいと以前おっしゃっていたでしょう? ご夫人には申し訳ないですけれど……どうかしら?」
わたしと二人きりになれる場所に行きましょう、と耳元で囁く。これで本物のメルティア子爵は奥様との折り合いが悪く、既婚者でありながら他の女性と関係を持とうとしている人物なのだと思わせることができたはず。ちょっと無理やりな感じはするけど……これで会場から出られるかな? 今のわたしだからこそできるハニートラップ、引っ掛かってくれると嬉しいんだけど……慣れていないからそんなに上手じゃない気がする。また練習しないと。
「ぜひ。休憩室を借りましょうか」
「はい。わたしは少し遅れて行きますね」
「分かりました。ゆっくりで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
即答ですか。本物のことをちゃんと調べていなくて、取りあえずわたしの言う通りに行動することで不自然に思われないようにしているのか、それとも単純にわたしに魅力を感じてくださったのか……後者はちょっと嫌ですね。見知らぬ異性にそう見られるのは気分が良いものではないですよ。少なくともわたしは、ね。
わたしが公爵夫人だということは知っていたようで、遅れて向かうと言ったのはわたし達が一緒に出て行き、誰かに怪しまれることのないよう、配慮した結果だと思っているのでしょう。
子爵が妙な動きをしたら分かるように見張りつつ、旦那様の元へ戻る。女性に囲まれ、やっと戻って来たのかとでも言いたげなお顔の旦那様。申し訳ありませんが、会場から出ることを告げに来たんですよね……
「遅かったな。事情があることは分かっていたが、助けようとは思わないのか?」
「旦那様だって、わたしの状況を面白がるだけで助けてはくださらなかったでしょう。お互い様というものですよ」
やけに綺麗な笑顔の旦那様に、同じく笑顔を返したわたしの顔は引き攣っていないか心配。女性のお相手をするの、そんなに大変だったんですか? いつものことだから慣れていると思っていましたけど、そうでもなかったのでしょうか。
「そんなお疲れの旦那様に朗報です。休憩室に行って来るのでもう少し頑張っていてください。それから、わたしが合図を出したら旦那様も来てくださいます?」
「どこが朗報なんだ……合図というのは?」
「その時になれば分かりますよ。それではまた後でお会いしましょうね!」
ふふふ、と半分仕返しのつもりで機嫌良く言うと、隠すことなく思いっきり嫌そうな顔をされた。そんなに女性のお相手が嫌なの? それなら合図を遅らせたいんだけど。まあ困るのはわたしですからそんなことしませんけどね? ……すこーしだけ、悩みそうになったことは秘密です。
「わたしもです。ご夫人は今日はいらっしゃらないのですね。お体の調子が悪いのでしょうか?」
「ええ」
「それは心配ですね……お大事に、とお伝えくださいまし」
「ありがとうございます」
この人……やっぱり偽物だね。それと手慣れてはいるけどプロとは少し違う気がする。というより、ただの暗殺者ではないなにか……みたいな。どうにか人が少ないところに誘導しなければ。
「子爵、少し外でお話しできないかしら?」
「申し訳ありませんが今は、」
「ご夫人のことは心配ですけど、いつも女性として見られないと相談を受けていましたし……もっとわたしと親しくなりたいと以前おっしゃっていたでしょう? ご夫人には申し訳ないですけれど……どうかしら?」
わたしと二人きりになれる場所に行きましょう、と耳元で囁く。これで本物のメルティア子爵は奥様との折り合いが悪く、既婚者でありながら他の女性と関係を持とうとしている人物なのだと思わせることができたはず。ちょっと無理やりな感じはするけど……これで会場から出られるかな? 今のわたしだからこそできるハニートラップ、引っ掛かってくれると嬉しいんだけど……慣れていないからそんなに上手じゃない気がする。また練習しないと。
「ぜひ。休憩室を借りましょうか」
「はい。わたしは少し遅れて行きますね」
「分かりました。ゆっくりで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
即答ですか。本物のことをちゃんと調べていなくて、取りあえずわたしの言う通りに行動することで不自然に思われないようにしているのか、それとも単純にわたしに魅力を感じてくださったのか……後者はちょっと嫌ですね。見知らぬ異性にそう見られるのは気分が良いものではないですよ。少なくともわたしは、ね。
わたしが公爵夫人だということは知っていたようで、遅れて向かうと言ったのはわたし達が一緒に出て行き、誰かに怪しまれることのないよう、配慮した結果だと思っているのでしょう。
子爵が妙な動きをしたら分かるように見張りつつ、旦那様の元へ戻る。女性に囲まれ、やっと戻って来たのかとでも言いたげなお顔の旦那様。申し訳ありませんが、会場から出ることを告げに来たんですよね……
「遅かったな。事情があることは分かっていたが、助けようとは思わないのか?」
「旦那様だって、わたしの状況を面白がるだけで助けてはくださらなかったでしょう。お互い様というものですよ」
やけに綺麗な笑顔の旦那様に、同じく笑顔を返したわたしの顔は引き攣っていないか心配。女性のお相手をするの、そんなに大変だったんですか? いつものことだから慣れていると思っていましたけど、そうでもなかったのでしょうか。
「そんなお疲れの旦那様に朗報です。休憩室に行って来るのでもう少し頑張っていてください。それから、わたしが合図を出したら旦那様も来てくださいます?」
「どこが朗報なんだ……合図というのは?」
「その時になれば分かりますよ。それではまた後でお会いしましょうね!」
ふふふ、と半分仕返しのつもりで機嫌良く言うと、隠すことなく思いっきり嫌そうな顔をされた。そんなに女性のお相手が嫌なの? それなら合図を遅らせたいんだけど。まあ困るのはわたしですからそんなことしませんけどね? ……すこーしだけ、悩みそうになったことは秘密です。
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