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第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──
74 何を言わされているのでしょう
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「リーシャのどこに惹かれたか、ですか……そうですね、ありきたりですがやはり笑顔でしょうか。それと、個性的なので話していて飽きないところも素敵だと思います」
すみませんね、個性的で! どこまで本気なのか分からないけど、たぶん前半は嘘、後半は嫌味。わたしも旦那様のことを分かるようになってきましたよ。悪いところばかりで少しも嬉しくないですが、夫婦仲が良いように見せるのは大切なことだと思います。……わたしの契約のためには、ね。
旦那様の言葉を聞いた皇族の方々の反応は様々で、両陛下は生暖かい視線をわたしに向けてきた。そしてレタお姉様とメアリ様は綺麗な微笑みを浮かべたまま、扇で顔を隠しました。扇の内側が見える位置にいる皇太子殿下は苦笑しておられる。背後からは数多の女性の悲鳴が聞こえてきた。悲鳴に込められた意味もまた、様々でしょうねぇ……
「そうかそうか。で、リーシャは?」
「わたしですか?」
「ああ。アルヴィンにだけ聞いてそなたに聞かないことはないだろう?」
その通りですが、旦那様の好きなところ? うーん……ないですね!
どうしましょう。わたしも適当にありきたりなことを言っておきましょうか……? 真面目に答える必要はないですよね。
どうせ本心はわたしにしか分からないのだから、社交辞令ですべて解決するはず。
「……文武両道でいらっしゃるのはもちろんですけど、一番はさりげなく気遣いをしてくださるところでしょうか? とても紳士的な方だと思います。女性にとっては魅力的かと」
女性にとっては、ね。わたしがどうとは言っていませんよ? 旦那様のさりげない気遣いは素敵だと思っています。これは本当。ただ異性としての魅力を感じるかと問われると、他の部分でマイナス点が多いので残念な答えになりますね。
それで陛下、わたし達はいつまでこの話をしなければならないのでしょうか。日頃の恨みを晴らそうと思っています? わたしじゃなくて旦那様への。……あるのか知らないけどね。
「ふむ……仲良くやっているようで何よりだ。では後ほど時間があれば」
「はい。失礼致します」
お言葉ですが、時間はないと思います! 理由は慣れない状況に疲れたわたしが早く帰りたいからです。
「ふぅ……」
「驚いたな。君は私に恨み以外の感情を持っていないと思っていたが」
「なぜそう思うのですか?」
「恨みがましい視線を送ってくることが度々あるだろう?」
「あら、気付いていたのですか。実際には恨みじゃなくて怒りの感情の方が強いですね、そういう時は」
殺意とかもね。
主である皇帝陛下の命令がない限り、旦那様を手に掛けることはありません。脳内ではすでに十回ほど殺傷沙汰を起こしましたけどね。
陛下に挨拶するのはわたし達だけではないので、さっさと会場の端の方へと移動する。いつの間に取って来たのか、ワインを手渡しながら意外そうな顔で言われた。
わたしの言葉に特に何か言うでもなく、自分の分のワインを口にしておられる旦那様。この角度からだと長い睫毛が良く見える。シャンデリアに照らされてキラキラ輝いている旦那様は本当にお顔が良い。黙っていれば、うっかり見惚れてしまいそうになるくらいだ。
「ワインは苦手だったか?」
「いえ、そんなことはないですよ。ただ一つ、問題がありまして」
「弱いのか」
「……違います」
違いません、図星です。一口で酔うんですよ。訓練の一環として酔わないように頑張ったのですが、どうしても無理で。仕事中なら酔わないんですけどね。我ながら不思議な体質だと思いますよ? 仕事中は酔いが醒めるのではなく、どれだけ飲んでも酔わないのですから。
すみませんね、個性的で! どこまで本気なのか分からないけど、たぶん前半は嘘、後半は嫌味。わたしも旦那様のことを分かるようになってきましたよ。悪いところばかりで少しも嬉しくないですが、夫婦仲が良いように見せるのは大切なことだと思います。……わたしの契約のためには、ね。
旦那様の言葉を聞いた皇族の方々の反応は様々で、両陛下は生暖かい視線をわたしに向けてきた。そしてレタお姉様とメアリ様は綺麗な微笑みを浮かべたまま、扇で顔を隠しました。扇の内側が見える位置にいる皇太子殿下は苦笑しておられる。背後からは数多の女性の悲鳴が聞こえてきた。悲鳴に込められた意味もまた、様々でしょうねぇ……
「そうかそうか。で、リーシャは?」
「わたしですか?」
「ああ。アルヴィンにだけ聞いてそなたに聞かないことはないだろう?」
その通りですが、旦那様の好きなところ? うーん……ないですね!
どうしましょう。わたしも適当にありきたりなことを言っておきましょうか……? 真面目に答える必要はないですよね。
どうせ本心はわたしにしか分からないのだから、社交辞令ですべて解決するはず。
「……文武両道でいらっしゃるのはもちろんですけど、一番はさりげなく気遣いをしてくださるところでしょうか? とても紳士的な方だと思います。女性にとっては魅力的かと」
女性にとっては、ね。わたしがどうとは言っていませんよ? 旦那様のさりげない気遣いは素敵だと思っています。これは本当。ただ異性としての魅力を感じるかと問われると、他の部分でマイナス点が多いので残念な答えになりますね。
それで陛下、わたし達はいつまでこの話をしなければならないのでしょうか。日頃の恨みを晴らそうと思っています? わたしじゃなくて旦那様への。……あるのか知らないけどね。
「ふむ……仲良くやっているようで何よりだ。では後ほど時間があれば」
「はい。失礼致します」
お言葉ですが、時間はないと思います! 理由は慣れない状況に疲れたわたしが早く帰りたいからです。
「ふぅ……」
「驚いたな。君は私に恨み以外の感情を持っていないと思っていたが」
「なぜそう思うのですか?」
「恨みがましい視線を送ってくることが度々あるだろう?」
「あら、気付いていたのですか。実際には恨みじゃなくて怒りの感情の方が強いですね、そういう時は」
殺意とかもね。
主である皇帝陛下の命令がない限り、旦那様を手に掛けることはありません。脳内ではすでに十回ほど殺傷沙汰を起こしましたけどね。
陛下に挨拶するのはわたし達だけではないので、さっさと会場の端の方へと移動する。いつの間に取って来たのか、ワインを手渡しながら意外そうな顔で言われた。
わたしの言葉に特に何か言うでもなく、自分の分のワインを口にしておられる旦那様。この角度からだと長い睫毛が良く見える。シャンデリアに照らされてキラキラ輝いている旦那様は本当にお顔が良い。黙っていれば、うっかり見惚れてしまいそうになるくらいだ。
「ワインは苦手だったか?」
「いえ、そんなことはないですよ。ただ一つ、問題がありまして」
「弱いのか」
「……違います」
違いません、図星です。一口で酔うんですよ。訓練の一環として酔わないように頑張ったのですが、どうしても無理で。仕事中なら酔わないんですけどね。我ながら不思議な体質だと思いますよ? 仕事中は酔いが醒めるのではなく、どれだけ飲んでも酔わないのですから。
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