公爵様、三年限定ではなかったのですか!?~契約結婚したらなぜか溺愛されていました~

山咲莉亜

文字の大きさ
上 下
30 / 113
第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──

29 仕事人間……じゃない!

しおりを挟む
「リーシャ、君はいつからここに?」
「あら、おはようございます。十分ほど前からですね」
「悪い。気付かなかった」
「いえいえ、シエル様と楽しくお話ししていましたからお気になさらず。ね、シエル様?」

 笑顔でシエル様の方を見ると、彼はわたしとは違う方向を意識した様子で引き攣った笑みを浮かべている。どうしたのかと旦那様の方を見ると、いつも通りの綺麗な笑顔を見せてきた。綺麗ではあるんだけど、旦那様に笑顔を向けられると身構えてしまうんですよね。何か企んでいるのではないか、と。

 でもこればっかりは旦那様が悪いと思う。

「朝食にしましょうか」
「そうだな。君の今日の予定は?」

 今日の予定……訓練は朝の内に終わらせたし……

「領地関係の仕事ですかね?」
「それはどこの?」
「フランクス領に決まってるじゃないで、す……いえ、何でもないです」

 途中で言葉を途切れさせたわたしを見て楽しそうに笑う旦那様。だって、だってわたしは十歳の頃からずっと領地を一人で管理してきたんですよ! もう仕事をするのは癖のようなものなんです! 我ながら呆れるけど……

「どうやら君は根っからの仕事人間らしい。この一週間は仕事がなくてつまらなかっただろう? これからは公爵夫人としての仕事をしてもらおう。もちろん嬉しいだろう?」
「そんなわけないじゃないですか! わたしは仕事人間なんかじゃないですよ。一日中ごろごろできて幸せでしたし!」
「一日中ごろごろ、か」

 何ですか、その含みのある視線は。わたしは認めないですからね。仕事人間ではありません。ロードの任務はわたしにしかできないから、それに関しては何の文句もありませんけど、公爵夫人としての仕事なんてどうでも良いじゃないですか。

「……もしかして、またリジーに何か聞いてます?」
「良く分かったな」
「リジー!」
「何ですか?」
「何ですか、じゃないよ! 旦那様にわたしの情報を流すのやめてくれない!?」
「情報は流してないですよ。近況をお伝えしただけです」
「同じようなもの!」

 わたしのことを想ってくれているのは分かるけど、いらない情報まで流さないでほしい。使用人の件は許せるけど、わたしがどんな風に過ごしているかまで伝える必要はなくない?

 何なんですか? そんなにわたしのこと監視したいんですかね?

 信用しているとか何とか言っておいて、結局そんなことはなかったじゃないですか。まあ信用していないのはわたしも同じだからそれに関しては何も言わない。でもわたしは監視まではしていません。陛下、アルヴィン・ロード・フェルリア公爵の暗殺を命じるなら今ですよ! 今なら派手にやります!

「私に殺気を向けてくるのはやめてくれ。勘違いしていそうだから言うが、私は君を監視していたわけではないぞ。君の一日の過ごし方を聞いて早く健康的になるよう使用人を動かしていた。食事に関しても冷えていたりはしたかもしれないが、栄養面は考慮されていたことに気付かなかったか?」
「それは……公爵家だから無意識に栄養面を考えているのかと思っていました」
「無意識にと言うなら温かい食事を出すだろう。冷たい食事にしたのは使用人たちのせめてもの抵抗、といったところか? 君が怒って出て行くのを期待していたのだろうな」

 そんなことで出て行くほど怒りっぽくはないし、典型的な貴族だとも思っていない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...