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第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──
29 仕事人間……じゃない!
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「リーシャ、君はいつからここに?」
「あら、おはようございます。十分ほど前からですね」
「悪い。気付かなかった」
「いえいえ、シエル様と楽しくお話ししていましたからお気になさらず。ね、シエル様?」
笑顔でシエル様の方を見ると、彼はわたしとは違う方向を意識した様子で引き攣った笑みを浮かべている。どうしたのかと旦那様の方を見ると、いつも通りの綺麗な笑顔を見せてきた。綺麗ではあるんだけど、旦那様に笑顔を向けられると身構えてしまうんですよね。何か企んでいるのではないか、と。
でもこればっかりは旦那様が悪いと思う。
「朝食にしましょうか」
「そうだな。君の今日の予定は?」
今日の予定……訓練は朝の内に終わらせたし……
「領地関係の仕事ですかね?」
「それはどこの?」
「フランクス領に決まってるじゃないで、す……いえ、何でもないです」
途中で言葉を途切れさせたわたしを見て楽しそうに笑う旦那様。だって、だってわたしは十歳の頃からずっと領地を一人で管理してきたんですよ! もう仕事をするのは癖のようなものなんです! 我ながら呆れるけど……
「どうやら君は根っからの仕事人間らしい。この一週間は仕事がなくてつまらなかっただろう? これからは公爵夫人としての仕事をしてもらおう。もちろん嬉しいだろう?」
「そんなわけないじゃないですか! わたしは仕事人間なんかじゃないですよ。一日中ごろごろできて幸せでしたし!」
「一日中ごろごろ、か」
何ですか、その含みのある視線は。わたしは認めないですからね。仕事人間ではありません。ロードの任務はわたしにしかできないから、それに関しては何の文句もありませんけど、公爵夫人としての仕事なんてどうでも良いじゃないですか。
「……もしかして、またリジーに何か聞いてます?」
「良く分かったな」
「リジー!」
「何ですか?」
「何ですか、じゃないよ! 旦那様にわたしの情報を流すのやめてくれない!?」
「情報は流してないですよ。近況をお伝えしただけです」
「同じようなもの!」
わたしのことを想ってくれているのは分かるけど、いらない情報まで流さないでほしい。使用人の件は許せるけど、わたしがどんな風に過ごしているかまで伝える必要はなくない?
何なんですか? そんなにわたしのこと監視したいんですかね?
信用しているとか何とか言っておいて、結局そんなことはなかったじゃないですか。まあ信用していないのはわたしも同じだからそれに関しては何も言わない。でもわたしは監視まではしていません。陛下、アルヴィン・ロード・フェルリア公爵の暗殺を命じるなら今ですよ! 今なら派手にやります!
「私に殺気を向けてくるのはやめてくれ。勘違いしていそうだから言うが、私は君を監視していたわけではないぞ。君の一日の過ごし方を聞いて早く健康的になるよう使用人を動かしていた。食事に関しても冷えていたりはしたかもしれないが、栄養面は考慮されていたことに気付かなかったか?」
「それは……公爵家だから無意識に栄養面を考えているのかと思っていました」
「無意識にと言うなら温かい食事を出すだろう。冷たい食事にしたのは使用人たちのせめてもの抵抗、といったところか? 君が怒って出て行くのを期待していたのだろうな」
そんなことで出て行くほど怒りっぽくはないし、典型的な貴族だとも思っていない。
「あら、おはようございます。十分ほど前からですね」
「悪い。気付かなかった」
「いえいえ、シエル様と楽しくお話ししていましたからお気になさらず。ね、シエル様?」
笑顔でシエル様の方を見ると、彼はわたしとは違う方向を意識した様子で引き攣った笑みを浮かべている。どうしたのかと旦那様の方を見ると、いつも通りの綺麗な笑顔を見せてきた。綺麗ではあるんだけど、旦那様に笑顔を向けられると身構えてしまうんですよね。何か企んでいるのではないか、と。
でもこればっかりは旦那様が悪いと思う。
「朝食にしましょうか」
「そうだな。君の今日の予定は?」
今日の予定……訓練は朝の内に終わらせたし……
「領地関係の仕事ですかね?」
「それはどこの?」
「フランクス領に決まってるじゃないで、す……いえ、何でもないです」
途中で言葉を途切れさせたわたしを見て楽しそうに笑う旦那様。だって、だってわたしは十歳の頃からずっと領地を一人で管理してきたんですよ! もう仕事をするのは癖のようなものなんです! 我ながら呆れるけど……
「どうやら君は根っからの仕事人間らしい。この一週間は仕事がなくてつまらなかっただろう? これからは公爵夫人としての仕事をしてもらおう。もちろん嬉しいだろう?」
「そんなわけないじゃないですか! わたしは仕事人間なんかじゃないですよ。一日中ごろごろできて幸せでしたし!」
「一日中ごろごろ、か」
何ですか、その含みのある視線は。わたしは認めないですからね。仕事人間ではありません。ロードの任務はわたしにしかできないから、それに関しては何の文句もありませんけど、公爵夫人としての仕事なんてどうでも良いじゃないですか。
「……もしかして、またリジーに何か聞いてます?」
「良く分かったな」
「リジー!」
「何ですか?」
「何ですか、じゃないよ! 旦那様にわたしの情報を流すのやめてくれない!?」
「情報は流してないですよ。近況をお伝えしただけです」
「同じようなもの!」
わたしのことを想ってくれているのは分かるけど、いらない情報まで流さないでほしい。使用人の件は許せるけど、わたしがどんな風に過ごしているかまで伝える必要はなくない?
何なんですか? そんなにわたしのこと監視したいんですかね?
信用しているとか何とか言っておいて、結局そんなことはなかったじゃないですか。まあ信用していないのはわたしも同じだからそれに関しては何も言わない。でもわたしは監視まではしていません。陛下、アルヴィン・ロード・フェルリア公爵の暗殺を命じるなら今ですよ! 今なら派手にやります!
「私に殺気を向けてくるのはやめてくれ。勘違いしていそうだから言うが、私は君を監視していたわけではないぞ。君の一日の過ごし方を聞いて早く健康的になるよう使用人を動かしていた。食事に関しても冷えていたりはしたかもしれないが、栄養面は考慮されていたことに気付かなかったか?」
「それは……公爵家だから無意識に栄養面を考えているのかと思っていました」
「無意識にと言うなら温かい食事を出すだろう。冷たい食事にしたのは使用人たちのせめてもの抵抗、といったところか? 君が怒って出て行くのを期待していたのだろうな」
そんなことで出て行くほど怒りっぽくはないし、典型的な貴族だとも思っていない。
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