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第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──
23 裏切り者!
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「疲れました……」
「あれだけ囲まれていれば疲れるのは当然だろう。準備も大変だっただろうしな」
「使用人には人気がないから、無駄に関わる必要がなくて助かっているんですけど……」
「使用人には人気がない?」
あ、ヤバい。そう思った時にはもう遅かった。悪い顔をした公爵様がニヤッと笑う。だけど今回はいつもと少し違って、僅かに怒りも混ざっているように感じた。
その不穏な笑み、やめていただけません? その顔をした時は悪いことしか起こらないって、わたしはもう知っているんですよね! しかも今回は少し怖いですし!
「あ、えっと……聞き間違いですよ!」
「そうか、聞き間違いか。それは悪かったな。ところでリーシャ、私は屋敷を不在にしている間にも君の侍女から報告を受けていたんだ。私の命はあまり聞かないが、君のためになると判断した場合は彼女も言うことを聞いてくれるぞ」
「へ、へぇ……」
リジーの裏切り者! わたしは使用人に嫌われているくらいが今後もやりやすいかなって思っていたのに、何で言っちゃうのかな!? たしかにリジーが怒ってたのは知っていたけれど、公爵様の方に寝返るとは思わなかったです!
目を逸らすくらいで誤魔化せる夫なら楽なんだけど、それだと公爵としては不安がある。でも今に限っては誤魔化されてほしかった。
「屋敷で働く使用人は、やはり主人に忠実であるべきだと私は思う。そこで以前から使用人を一新しようと思っていたのだが、結婚したおかげで仕事が減ったな。屋敷を管理するのは女主人の仕事でもあると思わないか?」
「思いません! 公爵様には忠実な使用人じゃないですか。わたしに対して不敬でも実害はないですよ」
「使用人以下の食事、汚れた水を掛けられ身の回りのことを何もしない。部屋を出れば悪口と嫌味」
だからなんで知っているんですか! リジーはそこまで話したんですか? わたしのことを想っての行動なのは分かるけど、一言物申したい気分だわ。
「まともな仕事をしていない上に、私の耳には実害しかないように聞こえるがどう思う?」
「……公爵様の耳が悪いのですよ、きっと」
「それなら私に報告したリジーの目が悪いと言うことになるな」
「リジーの視力はかなり良いんですけど」
それこそ、日頃から戦線に立つために鍛えられたわたしの視力に負けないくらいには。もちろんそれは何の手も加えていない場合の話になるけど、それでも目が悪いってことは絶対にないですよ。公爵様の言ってることがただの嫌味なのは分かってますけどね。
「結局のところどうなんだ? 私が受けた報告の内容と間違っているわけではないのだろう?」
「そうですね。でもわたし、今のままで全然構いませんよ。無駄に使用人と関わる必要がなくて楽ですから。公爵様のことを慕っているからこその行動ですし、それで職を奪う必要はないでしょう」
「君のことだから、使用人の態度が改善されたところでもう信用には値しないとでも思っていそうなものだが……信頼できる使用人は多いに越したことはないぞ」
「わたしってそんなに分かりやすいですか?」
「そうでもない」
ですよね。考えていることが分かりやすいと言われた経験はないですから。お母様は分かりやすいって言っていたけど、それはまだ幼かったからだと思う。
「あれだけ囲まれていれば疲れるのは当然だろう。準備も大変だっただろうしな」
「使用人には人気がないから、無駄に関わる必要がなくて助かっているんですけど……」
「使用人には人気がない?」
あ、ヤバい。そう思った時にはもう遅かった。悪い顔をした公爵様がニヤッと笑う。だけど今回はいつもと少し違って、僅かに怒りも混ざっているように感じた。
その不穏な笑み、やめていただけません? その顔をした時は悪いことしか起こらないって、わたしはもう知っているんですよね! しかも今回は少し怖いですし!
「あ、えっと……聞き間違いですよ!」
「そうか、聞き間違いか。それは悪かったな。ところでリーシャ、私は屋敷を不在にしている間にも君の侍女から報告を受けていたんだ。私の命はあまり聞かないが、君のためになると判断した場合は彼女も言うことを聞いてくれるぞ」
「へ、へぇ……」
リジーの裏切り者! わたしは使用人に嫌われているくらいが今後もやりやすいかなって思っていたのに、何で言っちゃうのかな!? たしかにリジーが怒ってたのは知っていたけれど、公爵様の方に寝返るとは思わなかったです!
目を逸らすくらいで誤魔化せる夫なら楽なんだけど、それだと公爵としては不安がある。でも今に限っては誤魔化されてほしかった。
「屋敷で働く使用人は、やはり主人に忠実であるべきだと私は思う。そこで以前から使用人を一新しようと思っていたのだが、結婚したおかげで仕事が減ったな。屋敷を管理するのは女主人の仕事でもあると思わないか?」
「思いません! 公爵様には忠実な使用人じゃないですか。わたしに対して不敬でも実害はないですよ」
「使用人以下の食事、汚れた水を掛けられ身の回りのことを何もしない。部屋を出れば悪口と嫌味」
だからなんで知っているんですか! リジーはそこまで話したんですか? わたしのことを想っての行動なのは分かるけど、一言物申したい気分だわ。
「まともな仕事をしていない上に、私の耳には実害しかないように聞こえるがどう思う?」
「……公爵様の耳が悪いのですよ、きっと」
「それなら私に報告したリジーの目が悪いと言うことになるな」
「リジーの視力はかなり良いんですけど」
それこそ、日頃から戦線に立つために鍛えられたわたしの視力に負けないくらいには。もちろんそれは何の手も加えていない場合の話になるけど、それでも目が悪いってことは絶対にないですよ。公爵様の言ってることがただの嫌味なのは分かってますけどね。
「結局のところどうなんだ? 私が受けた報告の内容と間違っているわけではないのだろう?」
「そうですね。でもわたし、今のままで全然構いませんよ。無駄に使用人と関わる必要がなくて楽ですから。公爵様のことを慕っているからこその行動ですし、それで職を奪う必要はないでしょう」
「君のことだから、使用人の態度が改善されたところでもう信用には値しないとでも思っていそうなものだが……信頼できる使用人は多いに越したことはないぞ」
「わたしってそんなに分かりやすいですか?」
「そうでもない」
ですよね。考えていることが分かりやすいと言われた経験はないですから。お母様は分かりやすいって言っていたけど、それはまだ幼かったからだと思う。
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