上 下
19 / 54
第一章

19 婚姻の儀はもう目の前……だけど、これは面白くなりそうです

しおりを挟む
「───失礼致します。アルヴィン様、そろそろ式場に移動する時間です」
「分かった」

 新たな決意をしつつ、表面上は公爵様と報告会をしていると公爵様の側近の方が入ってきた。気配を覚えていた人だから側近なのは知っているけれど……

「公爵様、こちらの方は?」
「申し遅れました。私はシエル、アルヴィン様の側近にあたります。はじめまして、奥様」
「あら、そうでしたの。わたくし、リーシャ·フランクスと申します。まだ奥様ではありませんし、その呼び方は不快ですので、どうぞリーシャとお呼びくださいな」

 不快ですので、のところを強調して言うとわたしを見定めていた目を一瞬見張った。

 分かり辛いように配慮しているのは感じられたし、わたしが口を出す必要はないかな。好きなだけ見定めたらいい。わたしがこの人に認められようがそうじゃなかろうが、三年後に離婚するのだからどうでも良い。だからこう付け加える。

「わたしと公爵様が契約結婚だってこと、シエル様はご存じでしょう」

 側近は側近でも、公爵様がかなりの信頼を置いていることは見れば分かる。十中八九、わたしとリジーのような関係でしょうね。

「これはこれは、驚きました。その様子でしたら私が観察していたことにも気付いているようですね。ご無礼を、申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず。相手のことを調べていたのはわたしも同じですから」
「私のことはどうぞシエルとお呼びください、
「結構でしてよ。

 はは、おほほ、とお互いに笑顔で睨み合う。嫌味な主人の側近は随分と腹黒いようで、これはこれから面白くなりそうですね!

 公爵様がすぐ隣で呆れた顔をしているのでこの方に見せるのと同じような笑顔を向けると綺麗な笑顔で返された。何というか、嫌味な笑顔も似合っていて思わずそっぽを向いてしまう。

 この公爵様、本当に嫌味な人だよね。

「シエル、ですよ」
「……あの、公爵様」
「どうした?」

 まだ顔がにやけていること、ちゃんと分かっていますからね!せめて隠してください。

「わたし、シエル様のこと好きになりました」
「…………」
「はい!?」
「あ、そこは驚くのですね!」
「愛人は作らない契約だろう。もう契約を違反するのか、奥様?」

 はい?そんなこと分かっていますけど。なんで今そんなこと言ってくるのかな?

 ………まさか。

「恋愛ではないですからね?」
「それならなんだ?」
「普通に人間として、ですけど。今のやり取りで恋する要素ありました?」

 そう言うと公爵様とシエル様は顔を見合わせて微妙な表情になった。そして同じようにわたしへ視線を向けてくる。責められているように感じるのはわたしの気のせいですかね?いや、絶対気のせいじゃないよね。

「何ですか、その顔は。……シエル様は話していて飽きません。公爵様と違って言い返しやすい嫌味なところも高評価です。上から目線ですけど」
「嬉しくないですね」
「取り繕う必要のない相手ってことで良いじゃないの。さあ公爵様、行きましょう。またお話しましょうね、シエル様」
「……はいはい。では私もそうさせて頂きます」

 もう疲れたとばかりに溜め息を吐いて両手を顔の横まで上げ、降参のポーズを見せてきた。でも表情は楽し気な笑顔だから、やっぱりこの人は良いね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ
恋愛
今年、デビュタントを控えた主人公リリィ。小さな体でおおらかな心を持つリリィが溺愛されるまでを書く。 ※婚約後のストーリーを公開始めました。 ※お気に入り、栞ありがとうございます。 ※非エロ健全な内容です。後日談エロは『溺愛された伯爵令嬢のその後』にまとめてます。あちらは適当に続く予定です。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

伯爵令嬢は婚約者として認められたい

Hkei
恋愛
伯爵令嬢ソフィアとエドワード第2王子の婚約はソフィアが産まれた時に約束されたが、15年たった今まだ正式には発表されていない エドワードのことが大好きなソフィアは婚約者と認めて貰うため ふさわしくなるために日々努力を惜しまない

間違った方法で幸せになろうとする人の犠牲になるのはお断りします。

ひづき
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄されるという未来を見た公爵令嬢ユーリエ。 ───王子との婚約そのものを回避すれば婚約破棄など起こらない。 ───冤罪も継母も嫌なので家出しよう。 婚約を回避したのに、何故か家出した先で王子に懐かれました。 今度は異母妹の様子がおかしい? 助けてというなら助けましょう! ※2021年5月15日 完結 ※2021年5月16日  お気に入り100超えΣ(゚ロ゚;)  ありがとうございます! ※残酷な表現を含みます、ご注意ください

前世の推しが婚約者になりました

編端みどり
恋愛
※番外編も完結しました※ 誤字のご指摘ありがとうございます。気が付くのが遅くて、申し訳ありません。 〈あらすじ〉 アマンダは前世の記憶がある。アイドルが大好きで、推しが生きがい。辛い仕事も推しの為のお金を稼ぐと思えば頑張れる。仕事や親との関係に悩みながらも、推しに癒される日々を送っていた女性は、公爵令嬢に転生した。 推しが居ない世界なら誰と結婚しても良い。前世と違って大事にしてくれる家族の為なら、王子と婚約して構いません。そう思っていたのに婚約者は前世の推しにそっくりでした。 推しの魅力を発信するように婚約者自慢をするアマンダに惹かれる王子には秘密があって… 別サイトにも掲載中です。

処理中です...