公爵様、三年限定ではなかったのですか！？～契約結婚したらなぜか溺愛されていました～

第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──

16 貸し出し妻は最高です！

　◇

「リジー、いるか？」
「旦那様。お帰りなさいませ、どうなさいましたか？」
「ああ、思ったより早く仕事が片付いたから今日帰って来たのだがリーシャの気配がないと思ってな。リーシャはどこだ？」
「……お部屋でお眠りになられています。今日は一日部屋で過ごすので誰も入ってこないように、とのことでした」

　リジーが坦々と聞かれたことにだけ答えると、アルヴィンは胡散臭そうに表情を歪めた。リジーの顔には嘘偽りどころか何を考えているかも分からない、完璧な無表情と言う名のポーカーフェイスが作られていた。
　正確に判断できるほどの日数を一緒に過ごしたわけでなくとも、リジーがリーシャ以外へ向けて表情を変えることがないのは分かっていることだ。そしてリジーが旦那様とは言うが実際にはアルヴィンのことを主人だとは思っていないことも。

「そうか。仕事か」
「話が早くて助かります。明日の婚姻の儀には間に合うはずとおっしゃられていましたのでご心配なく」
「分かった。リーシャが帰ってきたら教えてくれ」

　それだけ告げるとアルヴィンは私室兼執務室へ入って行った。

「……リーシャ様、隠れてないで出てきてください」
「やっぱりバレてたね」
「当然です。それにしても早過ぎじゃないですか？」
「あ、うん。急いだからね。まさか夕方に終わるとは思っていなかったけれど」

　そう。実はわたし、公爵様とリジーの会話しっかり聞いちゃってました。気配を消して隠れてたのにわたしに気付くなんて流石はリジーだね。本気で気配を消してて気づかれたなら問題があるけど、今回はそういうわけではないから別に良いけど。

「ふふ、折角だし今日は帰ってないってことにしておきましょうか」
「旦那様とお顔を合わせないのですか？」
「私たちは恋愛結婚ではなく契約結婚になるのだから無駄に顔を合わせなくても良いでしょう。顔を合わせたところでイライラさせられるだけだし？」
「良い笑顔ですね。旦那様にも見せて差し上げては？リーシャ様に堕ちてしまうかもしれないですよ」
「生憎、私は好かれたいわけじゃないから」

　皮肉と言うか、嫌味も入っているのでしょうけど。

　どちらにしても三年限定の貸し出し妻だし、公爵様にはもっと美人で器量よしな女性と結婚すれば良いのだ。私があの人と恋愛する必要は皆無。

「三年限定の貸し出し妻っていい響きだと思わない？三年後には自由が保障されるのだし！」
「そんな風に思うのはリーシャ様だけですよ。普通は不名誉だと考えるものです」

　もったいない考え方だね。貴族女性が自由を保障されるんだよ？この上なく幸せじゃないですか。三年後、離婚が成立した暁にはお姉様を紹介してあげようかな。お姉様はとっても美人さんですし、器量も良い社交界の華です。行き遅れとは言え二十歳なら十分若いでしょう。