公爵様、三年限定ではなかったのですか！？～契約結婚したらなぜか溺愛されていました～

第一章

14 せめて、わたしの手が届く範囲くらいは

「ルナ、大丈夫そうだった？うん…うん。分かったありがとう。あなたはもう屋敷に帰っていてくれるかな？ここから先は危ないからね」

　わたしの相棒。幼いころ、初めて手懐けた薄い水色と黄色い羽が特徴的なインコで名前はルナ。この子は鳥だから怪しまれることなく相手を探れるんだよね。わたしの眼だけでは把握しきれないこともあるから、大体事前にこの子に調査をお願いする。もちろん自分でも確認するんだけどね。

　今日のお仕事は中流階級の貴族の暗殺。クーデターを計画したという情報が入ったらしくて、だけどその貴族は社交界で中々に発言力のある人だから暗殺がバレないよう慎重にやれとのことだった。それが長期の仕事になった理由だね。一日で終わらせるって言っちゃったけど。
　この大国で皇族が慕われている上にロードがいると言うのに、クーデターを企むだなんてなんて頭の弱い人なんだろうって、最初に聞いた時は呆れた。

　フランクス最後のロード。わたし、リーシャ·ロード·フランクスの血筋の役割。それは皇族の影。主な仕事内容は諜報、スパイ、国内外の不穏分子の暗殺、裏からの護衛などなど。

　今回のようにおバカなことを考える人たちもいるしそうじゃなくても職業柄、一体何人この手に掛けたか分からない。もちろんね？それがわたしの仕事だから暗殺対象に情を掛けたことなんてないよ。だけどわたしの力は人を生かすものであり殺すものでもある。暗殺対象に情なんてかけないけど、それでもせめてわたしの手が届く範囲で罪のない人くらいは助けたい。暗殺対象の家族とかは悪くないからね。そういう人たちへの罪滅ぼしも兼ねて。

　わたしは非情なんだろうね。例え自分以外のロードでも家族でも公爵様でも、リジーでも。皇族でも。わたしが仕える皇帝陛下が命じたならきっと誰でも殺してしまう。それも躊躇いなく。わたし、殺した人の記憶は報告さえ終われば記憶から無意識に消してしまう。思い出そうと思えば思い出せるけどね。
　それは忘れたいからなんだろうね。殺した相手の記憶があって、後から思い出して。それが原因で腕が鈍ってはいけないから。

「こんにちは」
「っ！だ、誰だ！？」
「初めましてかな？ロードのひとり、リーシャです～」

　にこっと微笑んで見せる。この一週間で完全回復ですよ！公爵家ってやっぱりすごいよね！今のわたしならちょっとは綺麗なんじゃない？

「ロ、ロードだと……！？わ、私に何の用だ！」
「心当たりはありません？アレですよ、ほら思い出して。皇族の皆様に対しての反逆、クーデターだよ」
「……言いがかりはやめろ」
「証拠は揃っているんだよね。今回わたしに与えられた任務は、あなたの暗殺」
「そんなことをして良いと思っているのか！？」

　一度落ち着いたと思えばまた騒ぎ出したね？騒がしい人はあまり好きじゃない。だって面倒くさいじゃないですか。

「良いから言っているの、お分かり？あ、分からないから聞いてるんだったね。安心してよ、わたしは一撃で殺す派だからそんなに苦しまないよ」

　だって殺したと思っていたのに、後から実は死んでいませんでした～なんて、それこそ面倒だもんね。

　後々大変になる可能性だってある。だからわたしは一撃で終わらせる。そんなに苦しまないと言ったけどほぼ無痛だよね。即死ですから。