上 下
13 / 54
第一章

13 親愛(敬愛)なる我が主

しおりを挟む
 ◇

「リーシャ様。おはようござ───……お目覚めでしたか」
「あらリジー、おはよう。見て分かると思うけどちょっと出かけてくるわ。明日の婚姻の儀には間に合うからそれまで何とかわたしの不在を誤魔化しておいて」
「お仕事ですか?」
「うん。皇帝陛下に急ぎで頼まれたの。本当は長期のお仕事だったんだけど、婚姻の儀があるから頑張って一日で終わらせて来ますって言っておいた」

 私が心の底から敬愛する主、リーシャ様はこの国で一番と言っても過言ではない重鎮です。古くから続くこのウェルロード帝国には五つの名門家があって皇家はその忠実な五家に支えられています。

 その名門五家はまとめてロードと呼ばれますが、どの家がそれに該当するかは本当に一部の者しか知りません。その五家の一枠がリーシャ様の家系です。ロードと言うのは血筋ですから、例え没落しても新たな爵位を賜ることになります。

 とにかく、そんな家に産まれたリーシャ様ですが奥様こと前フランクスのご当主様が亡くなられて、リーシャ様の血筋のロードはこの方おひとりのみとなりました。
 ロードの中でも序列一位だそうですから、当然仕事だって多くなります。ですが歴代一の実力者というのは伊達ではありません。長期のお仕事を一日で終わらせて来ると言えるのはきっとリーシャ様くらいのものでしょう。

「無理はしないでくださいね」
「もちろん。わたしは別に仕事人間ってわけではないし、今回はあの子に手伝ってもらうつもり」
「あの子は有能ですよねえ……リーシャ様が手懐けたと言うだけで、元は普通のインコですのに」

 リーシャ様の特殊能力のひとつ。これは副産物のようなものですが、動物と会話をすることが出来ます。会話と言ってもリーシャ様は普通に話し、インコの方も鳴き声ですがお互いに理解できるそうなのです。なんとも不思議ですけで、それが特殊能力と言うものですからね。

 使役獣、伝書鳩のようなものでしょうか?人間だと困難な仕事でも動物だと逆にやりやすい、などという仕事が多いですからリーシャ様たちの血筋の家系の方にとっては便利な能力と言えるかもしれません。傍から見れば変人に見えなくもないですけど。

「それでは、行ってくるわね。もしわたしより先に公爵様が帰ってきても部屋で寝ているから絶対に入ってくるなと言っておいて」
「はい。いってらっしゃいませ。どうかご無事で」

 私のご無事で、と言う言葉には微笑むだけで何も言わず、そのまま一瞬で消えて行きました。

 リーシャ様はいつ命を落とされるか分かりません。ロードの中でも恐らく一番危険なお仕事ですから。そのため、ご無事でと言う言葉に返事が返ってきたことはただの一度もありません。

 どうか、どうかご無事で帰られますよう、私はお祈りすることしか出来ないのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の姉に階段から突き落とされました。婚約破棄させていただきます。

十条沙良
恋愛
聖女の私を嫌いな婚約者の姉に階段から突き落とされました。それでも姉をかばうの?

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
幼い頃から厳しい教育に耐え、国の良き母であろうとしたジェニエルは完璧な皇后として第一王子セオドールと結婚した。そんな幸せな結婚から3年の月日がたったある日の事。彼を助けた事で怪我を負ったという庶民のオリヴィアが現れた事でジェニエルとセオドールの歯車は狂い始めてしまう。 セオドールの事を信じていたジェニエルだったが、オリヴィアの願いをかなえようとするばっかりでジェニエルだけでは留まらず国の事まで疎かにするセオドール。結婚当時に約束した3つの約束が破られた時。ジェニエルは静かに鉄槌を下す決意をする。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】夫の健康を気遣ったら余計なことだと言われ、離婚を告げられました

紫崎 藍華
恋愛
モーリスの健康を気遣う妻のグロリア。 それを疎ましく感じたモーリスは脅しのために離婚を口にする。 両者とも退けなくなり離婚することが決まった。 これによりモーリスは自分の言動の報いを受けることになる。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった        君を選んだ事が間違いだ」 子を産めない お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない 私を「愛している」と言った口で 別れを告げた 私を抱きしめた両手で 突き放した彼を忘れるはずがない…… 1年の月日が経ち ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客 私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは 謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。 「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」 そんな事を言われて……私は思う 貴方に返す返事はただ一つだと。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

処理中です...