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第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──
7 姉のようになれるかな?
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「ではお嬢様、お元気で」
「ええ」
公爵様がわたしに契約結婚を申し込んできた翌朝、約束通り彼はわたしを屋敷まで迎えに来てくださった。フランクス伯爵領と皇都はそんなに遠くない。馬車で数時間程の移動距離はこの広い帝国だと近い方。到着は今日の夕方くらいになるらしい。
だけどこの偉そうな公爵、略して『えら公爵』と数時間も一緒にいなければならない……面倒な予感しかしませんね。
ちなみに使用人は数名見送りに来てくれたけど、当然のようにお父様とお継母様はいない。お姉様は来てくださったので少し意外。
「おはようございます、公爵様。わざわざ迎えに来てくださってありがとうございます」
「荷物はそれだけか?」
「はい」
元々物が多いのは好きではないし、そんな余裕もなかったので数着のドレスとお母様の形見、その他仕事で必要なものと数冊の本。読書は好きだし、新しいことを知るのは楽しいから勉強も好きなんだけど、今までは忙しくてできなかったから公爵家では好きにさせてもらおうと思ってる。
「はじめまして、フェルリア公爵様。ソフィア・フランクスと申します。あなた様のお噂は良く聞いておりますわ」
「はじめまして。アルヴィン・フェルリアです。これからは義家族としてよろしくお願いします」
「ええ。ところで公爵様、少しだけ二人で話をしたいのですが、よろしいですよね? リーシャ、あなたは先に馬車に乗っていなさい」
あれ? なんでわたしだけ仲間外れなの? しかもお姉様、かなり強引な誘い方だったのに公爵様も了承してるし。別に不倫されるのは構わないんだけど……姉妹でそれはちょっと嫌だ。
こういう不倫のこととか、跡継ぎのことは後で話しておかなければなりませんね。どうせ三年後に離婚する契約なんだから好きなだけ愛人を作れば良いと思いますけど、修羅場にだけは絶対にしないでいただきたい。面倒極まりないので。……というのは冗談で、お姉様には仲の良い婚約者がいるから旦那様と不倫することはないと思います。
馬車の前で話しておられるけど、扉も窓も閉まっているから何も聞こえない。ただ、お姉様がえら公爵の耳元で何やら囁いている姿はバッチリ見えた。こういう時に読唇術の心得とかあったら面白かったのにと後悔したので、色々と身の回りが落ち着いたらまずは読唇術の勉強をしようと思う。このことを覚えていたら、だけど。
「待たせたな」
「もうよろしいのですか?」
たった数分で戻ってきた公爵様に聞くと、少々脅されただけだと返された。お姉様はあの綺麗な笑顔で人を脅していたんですね。感心すると同時にわたしもできるようになるかな、と考えてみる。綺麗な笑顔かは置いておくとしまして、このえら公爵を脅せるようにはなりたい。立場で言うなら同じロードだから対等だけど、脅すネタがないからとりあえず弱みを握れるように頑張ろう。
公爵様が御者に出発するよう命じるために口を開きかけた時、馬車の窓をお姉様がノックした。
「どうかなさいましたか、お姉様?」
「……リーシャはまだ私のことを姉と呼ぶのね」
「え?」
なんと言ったか聞こえなかったので聞き返すと何でもないと首を振られた。
「……あなた、フランクス伯爵家に帰ってきたら許さないわよ。捨てられたら働くでもすることね。そんなボロボロの姿で嫁げるのだからメンタルは強いでしょう」
「そうですね。捨てられぬよう努力しますよ。お元気で、お姉様」
今度こそ馬車は公爵家へと出発し、空いた窓からは晴れやかな顔をしたお姉様が屋敷へと戻っていく姿が見えたのだった。
「ええ」
公爵様がわたしに契約結婚を申し込んできた翌朝、約束通り彼はわたしを屋敷まで迎えに来てくださった。フランクス伯爵領と皇都はそんなに遠くない。馬車で数時間程の移動距離はこの広い帝国だと近い方。到着は今日の夕方くらいになるらしい。
だけどこの偉そうな公爵、略して『えら公爵』と数時間も一緒にいなければならない……面倒な予感しかしませんね。
ちなみに使用人は数名見送りに来てくれたけど、当然のようにお父様とお継母様はいない。お姉様は来てくださったので少し意外。
「おはようございます、公爵様。わざわざ迎えに来てくださってありがとうございます」
「荷物はそれだけか?」
「はい」
元々物が多いのは好きではないし、そんな余裕もなかったので数着のドレスとお母様の形見、その他仕事で必要なものと数冊の本。読書は好きだし、新しいことを知るのは楽しいから勉強も好きなんだけど、今までは忙しくてできなかったから公爵家では好きにさせてもらおうと思ってる。
「はじめまして、フェルリア公爵様。ソフィア・フランクスと申します。あなた様のお噂は良く聞いておりますわ」
「はじめまして。アルヴィン・フェルリアです。これからは義家族としてよろしくお願いします」
「ええ。ところで公爵様、少しだけ二人で話をしたいのですが、よろしいですよね? リーシャ、あなたは先に馬車に乗っていなさい」
あれ? なんでわたしだけ仲間外れなの? しかもお姉様、かなり強引な誘い方だったのに公爵様も了承してるし。別に不倫されるのは構わないんだけど……姉妹でそれはちょっと嫌だ。
こういう不倫のこととか、跡継ぎのことは後で話しておかなければなりませんね。どうせ三年後に離婚する契約なんだから好きなだけ愛人を作れば良いと思いますけど、修羅場にだけは絶対にしないでいただきたい。面倒極まりないので。……というのは冗談で、お姉様には仲の良い婚約者がいるから旦那様と不倫することはないと思います。
馬車の前で話しておられるけど、扉も窓も閉まっているから何も聞こえない。ただ、お姉様がえら公爵の耳元で何やら囁いている姿はバッチリ見えた。こういう時に読唇術の心得とかあったら面白かったのにと後悔したので、色々と身の回りが落ち着いたらまずは読唇術の勉強をしようと思う。このことを覚えていたら、だけど。
「待たせたな」
「もうよろしいのですか?」
たった数分で戻ってきた公爵様に聞くと、少々脅されただけだと返された。お姉様はあの綺麗な笑顔で人を脅していたんですね。感心すると同時にわたしもできるようになるかな、と考えてみる。綺麗な笑顔かは置いておくとしまして、このえら公爵を脅せるようにはなりたい。立場で言うなら同じロードだから対等だけど、脅すネタがないからとりあえず弱みを握れるように頑張ろう。
公爵様が御者に出発するよう命じるために口を開きかけた時、馬車の窓をお姉様がノックした。
「どうかなさいましたか、お姉様?」
「……リーシャはまだ私のことを姉と呼ぶのね」
「え?」
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「……あなた、フランクス伯爵家に帰ってきたら許さないわよ。捨てられたら働くでもすることね。そんなボロボロの姿で嫁げるのだからメンタルは強いでしょう」
「そうですね。捨てられぬよう努力しますよ。お元気で、お姉様」
今度こそ馬車は公爵家へと出発し、空いた窓からは晴れやかな顔をしたお姉様が屋敷へと戻っていく姿が見えたのだった。
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