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第1章 白銀の龍と漆黒の剣──交わる二色の光──
3 怪しい求婚
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「この度は急な話にも関わらずこの場を設けてくださりありがとうございます、フランクス伯爵」
「は、はい。こちらこそご足労いただきありがとうございます。……きょ、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「いきなりで申し訳ありませんが、リーシャ嬢に話がありますので少し外してはいただけないでしょうか?」
先日のこの若き公爵アルヴィン・フェルリア様からのお手紙に書いてあったのは、わたしと会ってあることを話したいというものだった。お偉いさんが小娘に一体なんの用なんだか。こっちは日々仕事で忙しいというのに、あなた暇なんですか? ……なんて、そう言えたら良いけど、相手は公爵なので絶対に無理です。
それにしても、偉そうな方だよね。敬語ではあるけどすごく強引。まあこちらは格下だもんね。
「分かりました。ですが、」
「未婚の男女が密室に二人きりというのも些か問題がありますので、そこの侍女には残ってもらいます。それで良いでしょう?」
「はい。ではごゆっくりどうぞ」
余計なことは言うなよとわたしのことを睨み、お父様はすぐに部屋から出て行った。そのような心配はいらないですよ。たぶんね。
部屋に残ったのはわたしとリジー、それからフェルリア公爵様の三人だけ。
他の人に聞かれると困る話なのかな? なんだか怪しいよね、この公爵様。
誰もが話したい、関わりたい、あわよくば結婚を───と思うような相手だけど、正直わたしが思ったのはそれだけだった。お父様が部屋から出て行った途端に輝かしい笑顔を投げ捨てたこの方は、さっさと話を終わらせようとでも言わんばかりにこちらを見てくる。変わり身が早いね。感心するわ。
「はじめまして、フェルリア公爵様。わたくし、リーシャ・フランクスと申します。お会いできて光栄です」
「ああ。アルヴィン・フェルリアだ。早速本題に入るが、リーシャ嬢。私と結婚してくれないか?」
わぁ……なにを言い出すかと思えばいきなりプロポーズ? 何の目的があって借金まみれの家の令嬢に結婚を申し込むのでしょう?
「…………」
「…………」
「……ムードも何もありませんね。なぜわたしなのですか?」
裏があるとしか思えないよね。それにもう少しまともなプロポーズはできないの?
怪しさ満載とはいえ、仮にも筆頭公爵から結婚を申し込まれたわたしだけど、偉そうな公爵様が口にしたのは思いもよらぬことだった。
「君には私と契約結婚をしてもらいたい。契約内容はこの後相談したいと思っている」
「契約結婚!?」
「ああ。君のような令嬢は恋愛結婚をしたいと言うかもしれないが、」
「その話、お受け致します! あ、でもちゃんとお話を聞いてからにはなりますが」
『契約結婚したい』。それは今、わたしが一番欲しい言葉だった。領地を守るためにある程度お金がある家と縁を結びたい。だけど絶対に外せない条件を考えると、ちょうど良い人が全然見つからなかった。そんな時に持ち掛けられた契約結婚。これで条件が悪くなければ受けようと思う。
それにしてもこのタイミングで……公爵家が家の事情を知らないはずがないのに……契約と言うからにはお互いに利がある内容なのでしょうけど。
「は……受けるのか? いや、私はその方が助かるが……まあ良い。私が求めるのは公爵夫人として振る舞うことだけだ。実は他国の王女から縁談が来ているのだが、それを断る正当な口実がほしい」
「なるほど。わたしの要求は我が家の借金を一時的に全て返していただくこと、わたしの自由を保障していただくこと、それから三年経ったら離婚してほしいということです」
この条件は外せない。これらがすべて受け入れられたなら、結婚している間にこれから生きていくための資金を準備する時間ができる。恋愛結婚をしたいわけではないけど、目的以上のことをしてもらうつもりも、するつもりもわたしにはない。
「一時的に、というのはどういうことだ?」
「わたしがいずれその分の金額をお返ししますのでわたしに貸し出す形で、ということです。わたしの方が求めているものが多くて申し訳ないのですが……わたしはお母様に似ているので、ちゃんとすれば割と綺麗になるはずです。ご希望でしたら夜のお相手もしますし、こちらの要求を呑んでいただけないでしょうか」
こちらが下手に出てでも要求を呑んでいただきたい。『公爵夫人として振る舞うこと』。公爵様の要求がこれだけなら、これ以上の好条件はないと思うので絶対に逃したくない。わたしが夜のお相手をすることに需要があるのかは分かりませんけどね。なにせこの容姿ですし。
「そうか。……いや、返す必要はない。夜の相手もしなくて良い。借金返済は今から話すことの口止め料とでも思ってくれ。とりあえず契約成立で良いか?」
「はい」
良かった。自分で言ったけど、正直夜のお相手はしたくなかったので。でも何を聞かされるのかな。わたしはさっきから嫌な予感しかしていない。
「そこの侍女は信用できるか?」
「ええ」
この家で、いや今この世界でリジー以上に信用できる人はいない。わたしの侍女は優秀だし色々とすごいんですよ。
───この時のわたしは、目の前にいる憎っくき公爵様があれ程のことを口にするとは思っていなかった。そしてそれはわたしにも直接関わっていることであり、わたしの最大とも言える秘密を暴露されたようなものだった。
この発言により、何があっても契約を破棄することは叶わなくなったのである。
別に契約破棄するつもりはなかったが、それでもなんとなく気に食わない。借金を返す必要がなくなったとしても、プラスマイナスゼロだと思ってしまうくらいには、とんでもないことを暴露されたのだ。
「は、はい。こちらこそご足労いただきありがとうございます。……きょ、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「いきなりで申し訳ありませんが、リーシャ嬢に話がありますので少し外してはいただけないでしょうか?」
先日のこの若き公爵アルヴィン・フェルリア様からのお手紙に書いてあったのは、わたしと会ってあることを話したいというものだった。お偉いさんが小娘に一体なんの用なんだか。こっちは日々仕事で忙しいというのに、あなた暇なんですか? ……なんて、そう言えたら良いけど、相手は公爵なので絶対に無理です。
それにしても、偉そうな方だよね。敬語ではあるけどすごく強引。まあこちらは格下だもんね。
「分かりました。ですが、」
「未婚の男女が密室に二人きりというのも些か問題がありますので、そこの侍女には残ってもらいます。それで良いでしょう?」
「はい。ではごゆっくりどうぞ」
余計なことは言うなよとわたしのことを睨み、お父様はすぐに部屋から出て行った。そのような心配はいらないですよ。たぶんね。
部屋に残ったのはわたしとリジー、それからフェルリア公爵様の三人だけ。
他の人に聞かれると困る話なのかな? なんだか怪しいよね、この公爵様。
誰もが話したい、関わりたい、あわよくば結婚を───と思うような相手だけど、正直わたしが思ったのはそれだけだった。お父様が部屋から出て行った途端に輝かしい笑顔を投げ捨てたこの方は、さっさと話を終わらせようとでも言わんばかりにこちらを見てくる。変わり身が早いね。感心するわ。
「はじめまして、フェルリア公爵様。わたくし、リーシャ・フランクスと申します。お会いできて光栄です」
「ああ。アルヴィン・フェルリアだ。早速本題に入るが、リーシャ嬢。私と結婚してくれないか?」
わぁ……なにを言い出すかと思えばいきなりプロポーズ? 何の目的があって借金まみれの家の令嬢に結婚を申し込むのでしょう?
「…………」
「…………」
「……ムードも何もありませんね。なぜわたしなのですか?」
裏があるとしか思えないよね。それにもう少しまともなプロポーズはできないの?
怪しさ満載とはいえ、仮にも筆頭公爵から結婚を申し込まれたわたしだけど、偉そうな公爵様が口にしたのは思いもよらぬことだった。
「君には私と契約結婚をしてもらいたい。契約内容はこの後相談したいと思っている」
「契約結婚!?」
「ああ。君のような令嬢は恋愛結婚をしたいと言うかもしれないが、」
「その話、お受け致します! あ、でもちゃんとお話を聞いてからにはなりますが」
『契約結婚したい』。それは今、わたしが一番欲しい言葉だった。領地を守るためにある程度お金がある家と縁を結びたい。だけど絶対に外せない条件を考えると、ちょうど良い人が全然見つからなかった。そんな時に持ち掛けられた契約結婚。これで条件が悪くなければ受けようと思う。
それにしてもこのタイミングで……公爵家が家の事情を知らないはずがないのに……契約と言うからにはお互いに利がある内容なのでしょうけど。
「は……受けるのか? いや、私はその方が助かるが……まあ良い。私が求めるのは公爵夫人として振る舞うことだけだ。実は他国の王女から縁談が来ているのだが、それを断る正当な口実がほしい」
「なるほど。わたしの要求は我が家の借金を一時的に全て返していただくこと、わたしの自由を保障していただくこと、それから三年経ったら離婚してほしいということです」
この条件は外せない。これらがすべて受け入れられたなら、結婚している間にこれから生きていくための資金を準備する時間ができる。恋愛結婚をしたいわけではないけど、目的以上のことをしてもらうつもりも、するつもりもわたしにはない。
「一時的に、というのはどういうことだ?」
「わたしがいずれその分の金額をお返ししますのでわたしに貸し出す形で、ということです。わたしの方が求めているものが多くて申し訳ないのですが……わたしはお母様に似ているので、ちゃんとすれば割と綺麗になるはずです。ご希望でしたら夜のお相手もしますし、こちらの要求を呑んでいただけないでしょうか」
こちらが下手に出てでも要求を呑んでいただきたい。『公爵夫人として振る舞うこと』。公爵様の要求がこれだけなら、これ以上の好条件はないと思うので絶対に逃したくない。わたしが夜のお相手をすることに需要があるのかは分かりませんけどね。なにせこの容姿ですし。
「そうか。……いや、返す必要はない。夜の相手もしなくて良い。借金返済は今から話すことの口止め料とでも思ってくれ。とりあえず契約成立で良いか?」
「はい」
良かった。自分で言ったけど、正直夜のお相手はしたくなかったので。でも何を聞かされるのかな。わたしはさっきから嫌な予感しかしていない。
「そこの侍女は信用できるか?」
「ええ」
この家で、いや今この世界でリジー以上に信用できる人はいない。わたしの侍女は優秀だし色々とすごいんですよ。
───この時のわたしは、目の前にいる憎っくき公爵様があれ程のことを口にするとは思っていなかった。そしてそれはわたしにも直接関わっていることであり、わたしの最大とも言える秘密を暴露されたようなものだった。
この発言により、何があっても契約を破棄することは叶わなくなったのである。
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