3つの惑星を旅する俺が巡り合う11の恋の話

雑多のべる子

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第二幕 惑星アルメラードにて

10 アンビシオン船内会議

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 翌日、使節団は一度アンビシオンに戻り、今後の方針について話し合いを設けた。
 草原の民族を支援し、リビオが惑星を統一するために協力する――それが、彼らが一旦導き出した答えである。イルジニアとアルメラードが対等な交渉のテーブルにつくためには、それが必要最低限の条件だからだ。しかしそれも簡単なことではない。
 まだ散らかったままのマインドマップツールを面倒くさげに眺めていたチェリッシュは、やがて欠伸交じりに長椅子に体を伸ばした。

「ねえ、どうしてもあの子じゃなきゃダメ?」
「どういう意味ですか?」

 ファシリテーターを務めていたレイレンが問いかける。母星で天災と呼ばれた男は相変わらず口元に薄ら笑いを浮かべ、ごろんと寝返りを打った。

「別にあの坊やじゃなくたって、誰か適当にそそのかして星を統一させちゃえば?もっと楽ちんで便利な生活をしたいって思ってる奴はいくらでもいるはずだよ。一度統一させちゃえばこっちのもの。あとは<大議会>が舵取りをして適当にやってくれるでしょ。その方が話が早い」
「そんなことをしたら、この星がイルジニアの植民地になってしまう。確かに楽は楽だろうが、俺達は神様じゃない。俺達の都合でこの星を弄ぶようなことは許されない」

 子供を叱りつけるように言うアルフリードをチェリッシュは鼻で笑った。

「許されない、だって?神様じゃないから、責任なんて持たなくてよくな~い?ぼくたちはこの星に便利な文明を運んであげるだけ。勝手に恩を感じて勝手に膝を折ってくれる相手をたまたま選ぶだけ。あとのことは『この星の住人任せ』でいいじゃない。そこまで気にしてたらハゲちゃうよ」
「あんたはその無責任さで、この星も滅ぼす気なのか?……イルジニアと同じように」

 バチリと火花が散ったのが見えたような気がした。
 チェリッシュはゆっくり身を起こすと、前髪の後ろの目を剣呑に細める。

「……聞き捨てならないね、口を慎めアルフリード・ナーギス。ぼくがなにをしたって・・・・・・・?」

 は、と息を吐いてアルフリードは目の前の男に視線をくれてやることもせずに肩を竦めた。

「傲慢な人間が星の資源を貪り続けた結果がコレだ。その代表が<機械工学会>であり、莫大なエネルギーを消費する<マザーシステム>……おまえが作ったあの鉄の塊だろう」
「自分だってその恩恵をたっぷり受けておきながら、偉そうなことをほざくじゃないか。反抗期かい坊やBabeパパぼくの仕事を理解できもしない低能猿めdumb shitおうちに帰ってママのおっぱいしゃぶってなFuck your mam
「なんだと面白いじゃねえか鶏がら野郎が。その”ご機嫌”Great選民思想Elitismを軽く捻って修正してやろうか?」

 低く威圧するような声を発してアルフリードは立ち上がる。釣られて腰を上げたチェリッシュは煽るようににやにやと彼の顔を覗き込んだ。一触即発の嫌な空気がピリピリと広がる。
 それを破ったのは意外にもフォルニスであった。

「チェリッシュ、アルフリード、あなた方は愚かなのですか?」

 他の者が口にしたならば、恐らくは二人もさらに喧嘩を売られたと認識し激高しただろう。だが、相手はフォルニスだ。彼は心の底から不思議そうに首を傾げたまま、二人の様子を眺めている。

「あなた方が愚かなのであれば、意見するべきではありません。愚かでないものに従うべきです。そうですね、レイレン」
「え、あ、まあ、それはそうだけど」

 急に話を振られて、レイレンはつい口籠った。この場合、どちらも主義主張があるだけで本当に相手を馬鹿だなんだと罵っているわけではない。それを額面通りに受け取ってしまったらしいフォルニスに、一体どう説明するのが適切なのやら。言葉を選びまごついていると、その様子に毒気を抜かれたかアルフリードは深く一度溜息を吐き、自分の椅子に戻ってどさりと腰を落とした。

「……今のは俺が悪かった。所詮俺の専門は肉体労働だ。判断はおまえらに任せる」
「なにそれ。無責任はおまえも一緒じゃないか。逃げるくらいなら前言を撤回しろ、アルフリー……」
「そこまでです、ドクター」

 見兼ねた伽乱がとうとう割り入ると、チェリッシュを長椅子へと押し遣った。チェリッシュは助けを求めるようにレイレンを見たが、彼が首を振るのを見ると自分の味方はいないと悟ったのだろう。大きく頬を膨らませて長椅子にまたごろりと転がり、クッションに顔を埋める。
 とりあえず今これ以上の会話は無意味だと見て取り、伽乱は口を開いた。

「なんにせよまだ材料が足りていないのは確かです。私は現状を<大議会>に報告しなくてはなりません。本日の残り時間は、各自必要と判断した作業を進めるということで如何ですか?」
「じゃ、ぼくは集落をぶらついてくるよ。カワイコちゃんがいるかもしれないし、ついでに何か面白い噂話も聞けるかもしれないしね」

 ここにいたくない、という顔を隠しもせずチェリッシュは立ち上がった。
 フォルニスは忠実な犬のように指示を待っていたが、地質と生態系の再調査をと命じられると素直に頷く。

「御身のご命令のままに、キャプテン・ファーラ」
「……俺はあの岩の部族ってのが気になる。少し様子を探ってみよう。体を使うのは俺の仕事だからな。一応、コールはいつでも受けられるようにしておいてくれ」

 先ほどの余韻かぶっきらぼうにそう告げて、アルフリードは部屋を出ていこうとしていた。
 
「じゃあ、俺は……」

 レイレンが向かった先は――
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