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最終章 白雪姫
161話 エピローグ 奇跡
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目を覚ますとそこは見覚えのある場所だった。
お城から逃げてたどり着いた温かくも優しい小さな一軒家。
そこは愛おしい仲間たちと心優しい少年が待っている一番の幸せが詰まった居場所。
これは夢かと頬をつねってみるが痛みを感じる。どうやら夢ではないようだった。
ゆっくりと寝ていた体を起こしてみるとやけに視線が低く感じた。それどころかよくよく見てみると手も足も普通の人間よりも明らかに小さい。
その生き物が何なのか、知っていた。
「…………嘘でしょ」
その姿は人間ではなかった。彼女は小人に生まれ変わっていた。
あれからしばらくの時が流れた。どうやらこの世界は以前の世界とは異なる全く別の、それでいて全く同じ物語の世界だった。
不思議なことに前世の記憶が全て残っていた。
小人の仲間たちに話をしても誰一人として信じてはくれなかった。当然だった。転生した人間は以前の記憶がなくなるのが通説だった。
そもそも以前の世界は完結を迎えていない。それなのにどうして自分は新しい生を持って転生したのか、わからなかった。
皮肉にも依然と同じ物語の中で今度は主役ではなく、小人に生まれ変わるとは思ってもいなかった。それが前世で二役をこなそうとした自身への報いであり罰なのかと考えたが、転生した時点でこれはそういう類ではなく、むしろ幸運だと思わなければいけないような気もした。
このまま何事もなく物語が終われば新しい生を受ける。そうすれば頭の中に残り続けている生前の記憶もなくなるかもしれない、そう考えてこの世界で与えられた役割をこなそうと決めた。
それからしばらくして世界に異変が起きた。また主要な役有を持った人間が二人消えたのである。小人や城の人々はうろたえていた。以前とは異なり今度は主役が消えてしまったのだ。さすがの彼女も動揺した。
「この世界も……だめなのかしら」
空を見上げてそうつぶやいた。これは自身に与えられた呪いなのかとさえ思えた。
更に時が過ぎて思いもしない事態が起きた。彼がこの世界にやってきたのである。
一目見てすぐに彼だと理解した。少しだけ顔つきが大人になっていた。目つきは相変わらず良いとはいいきれないが、それでも優しそうな顔つきは変わっていなかった。
視線が合うと同時にその場から逃げ出した。どうして逃げてしまったのかわからなかった。
本当は今すぐにでも自分の正体を言いたかった。信じてもらえないかもしれない、それでもかまわなかった。
決意を決めて彼に話そうと決めた時、事件が起きた。
彼が殺されかけたのである。
慌てて彼を縛っていた縄を解き、助けた。気を失ってはいるが息もしている。無事を確認して安堵した。
「…………」
その場で倒れている彼を見て生前の記憶と約束が蘇った。白雪姫として果たされなかった願い。彼と交わしたたった一つの甘い約束。
それは目覚めの王子様の口づけだった。
あたりを見回す。自分と彼以外そこには誰もいなかった。
「…………」
無言で彼と唇を重ねた。
「…………な、なにをするんだ?」
意識を取り戻したグリムが警戒する様に話しかけてくる。今の自分はお姫様ではない。
小さな人形のような生き物である小人だった。彼の反応は自然なものだった。
この時、彼女は決意した。自分のたった一つのわがままは誰に知られるまでもなく自分勝手に叶えてしまった。
それならばこれ以上臨むべきではない。彼を困らせるわけにはいかない。
彼の為に出来ることをしよう。たとえそれが世界を滅ぼすことになったとしても。
それは以前の世界で彼が願った行為そのものだった。今になって彼女は彼の気持ちを知ったのである。
これは誰にも知られない。たった一人の少女の奇跡の物語、その断片である。
◆◆◆
「灰被り姫」
ある日、白雪姫と隣の国の王子様の姿がいなくなってしまいました。
人々は必死に二人を探しましたが、見つかることはありませんでした。
それからすぐに空からは灰色の雪が降るようになりました。
ある時一人の男がお城に現れました。
「私がお姫様と王子様を見つけてきますよ」
そして男はしばらくしてから一人の男性と二人の女性を連れてきました。
二人の女性のうち一人が白雪姫になることを受け入れました。
しかし、その日、男によってお妃様は殺されました。
そして白雪姫になるはずだった女性は代わりにお妃様になりました。
それからまた少しの時が過ぎたころ、一人の男が森の中に現れました。
小人たちはその姿を見ていなくなったはずの王子様が現れたと喜びます。
男は森の中で一人の女性を見つけます。その女性を追いかけるとやがて罠のように仕掛けられていたロープによって締め付けられて殺されかけました。
間一髪のところで小人に男は助けられました。
ある日男が小人たちの家に向かうとそこには一人の女性がいました。その女性は男が探していた人間です。しかし、女性は男を見るなり殺そうとしてきました。
なんとか女性を撃退した男でしたが、城に出入りしている男によって女性は連れ去られてしまいます。
傷を負った男は小人に介護されながらも探していた女性ともう一度会う為、お城に向かいました。城で出会った女性は変わらず男を殺そうとしました。
そこで男は自分が王子様ではなく白雪姫として、王妃となった女性に殺されかけているのだと気が付きます。
王妃となった女性の攻撃によって白雪姫の男は刺されました。
一命をとりとめた白雪姫の男は王妃となった女を救う為にもう一度お城に向かいます。
そこでは火に焼かれて熱したガラスの靴を履いて殺されそうになっていた女がいました。
男は危険を顧みずに女のいる炎の中に飛び込みました。
王妃になった女に男は約束のガラスの靴を差し出しました。
「さぁ、物語を始めよう」
男がそう言うと炎はなくなり、女は以前の姿にも戻りました。
女は炎を自在に操るとこの世界をかき乱した男を燃やして困っている人々を救って見せました。
「あなたを決して許さない」
赤髪の女性は物語をかき乱した男を炎に包んで焼失させました。
そして世界は崩壊を迎えます。間一髪のところで外の世界から来た4人は助かりました。
◆◆◆
物語は無事完結を迎えた。
二人は再開を果たし、赤髪の女性は主役となって世界を救ってみせた。
これは役割を与えられなかった者の物語。
その序章に過ぎなかった。
舞台は楽園とよばれる永遠の都。
主役を担ったものだけがたどり着けるその場所に選ばれし者達は集う。
彼らは世界に役割を与えられたのではなく、役割を与える側の存在
彼と同じく世界に役割を与えられなかった者たち
「さぁ、物語を始めよう」
新しい物語が始まろうとしていた。
お城から逃げてたどり着いた温かくも優しい小さな一軒家。
そこは愛おしい仲間たちと心優しい少年が待っている一番の幸せが詰まった居場所。
これは夢かと頬をつねってみるが痛みを感じる。どうやら夢ではないようだった。
ゆっくりと寝ていた体を起こしてみるとやけに視線が低く感じた。それどころかよくよく見てみると手も足も普通の人間よりも明らかに小さい。
その生き物が何なのか、知っていた。
「…………嘘でしょ」
その姿は人間ではなかった。彼女は小人に生まれ変わっていた。
あれからしばらくの時が流れた。どうやらこの世界は以前の世界とは異なる全く別の、それでいて全く同じ物語の世界だった。
不思議なことに前世の記憶が全て残っていた。
小人の仲間たちに話をしても誰一人として信じてはくれなかった。当然だった。転生した人間は以前の記憶がなくなるのが通説だった。
そもそも以前の世界は完結を迎えていない。それなのにどうして自分は新しい生を持って転生したのか、わからなかった。
皮肉にも依然と同じ物語の中で今度は主役ではなく、小人に生まれ変わるとは思ってもいなかった。それが前世で二役をこなそうとした自身への報いであり罰なのかと考えたが、転生した時点でこれはそういう類ではなく、むしろ幸運だと思わなければいけないような気もした。
このまま何事もなく物語が終われば新しい生を受ける。そうすれば頭の中に残り続けている生前の記憶もなくなるかもしれない、そう考えてこの世界で与えられた役割をこなそうと決めた。
それからしばらくして世界に異変が起きた。また主要な役有を持った人間が二人消えたのである。小人や城の人々はうろたえていた。以前とは異なり今度は主役が消えてしまったのだ。さすがの彼女も動揺した。
「この世界も……だめなのかしら」
空を見上げてそうつぶやいた。これは自身に与えられた呪いなのかとさえ思えた。
更に時が過ぎて思いもしない事態が起きた。彼がこの世界にやってきたのである。
一目見てすぐに彼だと理解した。少しだけ顔つきが大人になっていた。目つきは相変わらず良いとはいいきれないが、それでも優しそうな顔つきは変わっていなかった。
視線が合うと同時にその場から逃げ出した。どうして逃げてしまったのかわからなかった。
本当は今すぐにでも自分の正体を言いたかった。信じてもらえないかもしれない、それでもかまわなかった。
決意を決めて彼に話そうと決めた時、事件が起きた。
彼が殺されかけたのである。
慌てて彼を縛っていた縄を解き、助けた。気を失ってはいるが息もしている。無事を確認して安堵した。
「…………」
その場で倒れている彼を見て生前の記憶と約束が蘇った。白雪姫として果たされなかった願い。彼と交わしたたった一つの甘い約束。
それは目覚めの王子様の口づけだった。
あたりを見回す。自分と彼以外そこには誰もいなかった。
「…………」
無言で彼と唇を重ねた。
「…………な、なにをするんだ?」
意識を取り戻したグリムが警戒する様に話しかけてくる。今の自分はお姫様ではない。
小さな人形のような生き物である小人だった。彼の反応は自然なものだった。
この時、彼女は決意した。自分のたった一つのわがままは誰に知られるまでもなく自分勝手に叶えてしまった。
それならばこれ以上臨むべきではない。彼を困らせるわけにはいかない。
彼の為に出来ることをしよう。たとえそれが世界を滅ぼすことになったとしても。
それは以前の世界で彼が願った行為そのものだった。今になって彼女は彼の気持ちを知ったのである。
これは誰にも知られない。たった一人の少女の奇跡の物語、その断片である。
◆◆◆
「灰被り姫」
ある日、白雪姫と隣の国の王子様の姿がいなくなってしまいました。
人々は必死に二人を探しましたが、見つかることはありませんでした。
それからすぐに空からは灰色の雪が降るようになりました。
ある時一人の男がお城に現れました。
「私がお姫様と王子様を見つけてきますよ」
そして男はしばらくしてから一人の男性と二人の女性を連れてきました。
二人の女性のうち一人が白雪姫になることを受け入れました。
しかし、その日、男によってお妃様は殺されました。
そして白雪姫になるはずだった女性は代わりにお妃様になりました。
それからまた少しの時が過ぎたころ、一人の男が森の中に現れました。
小人たちはその姿を見ていなくなったはずの王子様が現れたと喜びます。
男は森の中で一人の女性を見つけます。その女性を追いかけるとやがて罠のように仕掛けられていたロープによって締め付けられて殺されかけました。
間一髪のところで小人に男は助けられました。
ある日男が小人たちの家に向かうとそこには一人の女性がいました。その女性は男が探していた人間です。しかし、女性は男を見るなり殺そうとしてきました。
なんとか女性を撃退した男でしたが、城に出入りしている男によって女性は連れ去られてしまいます。
傷を負った男は小人に介護されながらも探していた女性ともう一度会う為、お城に向かいました。城で出会った女性は変わらず男を殺そうとしました。
そこで男は自分が王子様ではなく白雪姫として、王妃となった女性に殺されかけているのだと気が付きます。
王妃となった女性の攻撃によって白雪姫の男は刺されました。
一命をとりとめた白雪姫の男は王妃となった女を救う為にもう一度お城に向かいます。
そこでは火に焼かれて熱したガラスの靴を履いて殺されそうになっていた女がいました。
男は危険を顧みずに女のいる炎の中に飛び込みました。
王妃になった女に男は約束のガラスの靴を差し出しました。
「さぁ、物語を始めよう」
男がそう言うと炎はなくなり、女は以前の姿にも戻りました。
女は炎を自在に操るとこの世界をかき乱した男を燃やして困っている人々を救って見せました。
「あなたを決して許さない」
赤髪の女性は物語をかき乱した男を炎に包んで焼失させました。
そして世界は崩壊を迎えます。間一髪のところで外の世界から来た4人は助かりました。
◆◆◆
物語は無事完結を迎えた。
二人は再開を果たし、赤髪の女性は主役となって世界を救ってみせた。
これは役割を与えられなかった者の物語。
その序章に過ぎなかった。
舞台は楽園とよばれる永遠の都。
主役を担ったものだけがたどり着けるその場所に選ばれし者達は集う。
彼らは世界に役割を与えられたのではなく、役割を与える側の存在
彼と同じく世界に役割を与えられなかった者たち
「さぁ、物語を始めよう」
新しい物語が始まろうとしていた。
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