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最終章 白雪姫
153話 大切な人の言葉
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◇◇◇
夢を見た。大切な人が泣いていた。
どうして涙を流しているのか、あの時のグリムは理解しきれていなかった。
その涙は誰のために、誰を思って泣いていたのかグリムには理解することが出来なかった。グリムはあの時、過ちを犯したグリムを責めているからと、そう思っていた。
『あなたは最悪の人間よ』
大切な人に言われたその言葉を忘れる日はなかった。
その言葉はそのままの意味だとグリムは認識していた。
あの世界を救う手段を持っていた人間が自分勝手に動いたせいで世界を滅ぼした。
世界を救う為に動いていた彼女に言われて当然の台詞だとグリムは理解していた。
「あなたは最悪の人間よ」
夢の中で大切な人がそう言った。グリムは視線を下ろしかける。その時だった。
「あなたは世界にとって最悪の人間よ……でも私にとっては……」
彼女の口から聞いたことのない言葉が加えられていた。
最後まで聞くことはかなわなかった。
なぜならグリムはそこで目を覚ましたからだった。
◇
体を起こすと激痛が走った。その元を見ると胸元に傷青砥が残っている。自分に何が起きたのかその傷を見てようやく現実を理解し始める。
「俺は……」
ガシャンと何かが落ちる音が聞こえる。音のなった先を見ると白色帽子の小人が手に持ってた治療道具を落としてこちらを見ていた。
「……た」
グリムが言葉を発するよりも先に小人はグリムの手を握ってきた。突然の行動にグリムは動揺する。
「お、おい……」
「良かった……良かった!」
今までの小人らしくない言動と行動にグリムは戸惑う。身を案じてくれていたのは分かるがまさかここまで思われているのは意外だった。
「……目を覚ましたか」
下の階から銀髪の騎士が上がってくる。小人がたてた音でグリムが目を覚ましたことに気が付いたようだった。
「俺は気を失っていたのか」
「3日ほどな」
銀髪の騎士はベッドに座り込んでいるグリムの前までくると近くの椅子に腰を掛ける。
「その小人は三日三晩お前の面倒をみていた」
「……そうなのか」
「…………」
小人は無言のままだった。お腹に巻かれた包帯は清潔なものがまかれている。先ほど小人が落とした器具の中には血の付いた包帯が入っていた。彼が取り替えてくれていたのは明白だった。
「ありがとう」
「…………今、食事を用意する」
涙をぬぐった小人はそういうと下に降りて行った。
「あの小人は……いやなんでもない」
銀髪の騎士は何かを言いかけて口をつぐんだ。グリムは首をかしげるが騎士は特に気にもせずに会話を始める。
「外を見ろ」
そう言うと騎士は覆われていたカーテンを開いて窓の外を見せてくる。
「……灰色の雪が積もり始めている」
グリムはその光景を見てつぶやく。小屋の前にあった切り株も見えなくなるほどに地面はすでに灰色の雪で覆われていた。
「ローズの言葉通りなら王子の役割は今も空いている……このままでは物語が完結する前に世界が滅びかねない」
「あいつはこの世界を完結させることを誰よりも望んでいる……それはないだろう」
銀髪の騎士はグリムの言葉を否定すると立ち上がった。
「……完結はするが、ほとんどの人間は焼失するだろう」
「それは……」
間違っている、と言おうとしたグリムは夢の記憶が呼び起こされる。生まれ育った白雪姫の世界でグリム自身が何をしたのか。自分自身の意思で世界を滅ぼしたグリムに果たして人々を犠牲にするローズに物申す権利はあるのだろうか。
「何しに来た!」
下の階から小人の叫び声が聞こえてくる。何事かと思いグリムと騎士は下へと向かった。
小人と対峙するように部屋の中にはローズが立っていた。
「おや、やはり生きていましたか……」
ローズはグリムを見るなり笑い、小人は近くに置いてあった包丁を手に持ちローズに向けて身構えた。
「目を覚ましていたのは想定外でしたが……今日の目的はあなたではない」
グリムから視線を銀髪の騎士に移したローズは再び口を開く。
「マロリーを開放してほしければ今日の夜、白雪姫のお城にきなさい」
「……何を企んでいる」
銀髪の騎士の問いにローズはにやりと笑いながら「もったいぶる必要もないですね」と一言付け加えながら驚愕の条件を出してくる。
「あなたがこの世界の王子様の役割を担うのです……」
「……な」
声を漏らしたのはグリムだった。
「お前は友にこの世界で人生を終えろというのか」
「物語を完結させるためには仕方がありません」
グリムの叫びにローズは演技じみた悲しんだ姿勢を見せる。
「今すぐにでもこの世界から離れて彼女を見捨てるのもあなたの自由ですよ」
ローズの挑発に対する銀髪の騎士の答えは初めから決まっているようなものだった。
銀髪の騎士がマロリーを見捨ててこの世界から離れるなどありえない。
「お前は……いったいどれだけこの世界と人間をかき乱せば気が済むんだ!」
小人が鬼気迫る表情でローズに迫った。
細柄な騎士の胸元目指して突き刺そうとしていた包丁はローズに届くことはなかった。
小人の攻撃をひらりと躱したローズは体制を崩した小人を踏みつけた。
「…………その手はなんのつもりですか」
ローズが冷めた声でグリムをにらみつける。グリムは無意識の内にローズに詰め寄り、彼の胸元に手を伸ばしていた。
「その足をどけろ」
「…………」
ローズはグリムに言われたとおりに小人を踏みつけていた足をどかして、一歩下がる。
「それでは、私はこれで失礼します」
扉から出ていくローズを気にも留めず、グリムは小人の身を案じた。
夢を見た。大切な人が泣いていた。
どうして涙を流しているのか、あの時のグリムは理解しきれていなかった。
その涙は誰のために、誰を思って泣いていたのかグリムには理解することが出来なかった。グリムはあの時、過ちを犯したグリムを責めているからと、そう思っていた。
『あなたは最悪の人間よ』
大切な人に言われたその言葉を忘れる日はなかった。
その言葉はそのままの意味だとグリムは認識していた。
あの世界を救う手段を持っていた人間が自分勝手に動いたせいで世界を滅ぼした。
世界を救う為に動いていた彼女に言われて当然の台詞だとグリムは理解していた。
「あなたは最悪の人間よ」
夢の中で大切な人がそう言った。グリムは視線を下ろしかける。その時だった。
「あなたは世界にとって最悪の人間よ……でも私にとっては……」
彼女の口から聞いたことのない言葉が加えられていた。
最後まで聞くことはかなわなかった。
なぜならグリムはそこで目を覚ましたからだった。
◇
体を起こすと激痛が走った。その元を見ると胸元に傷青砥が残っている。自分に何が起きたのかその傷を見てようやく現実を理解し始める。
「俺は……」
ガシャンと何かが落ちる音が聞こえる。音のなった先を見ると白色帽子の小人が手に持ってた治療道具を落としてこちらを見ていた。
「……た」
グリムが言葉を発するよりも先に小人はグリムの手を握ってきた。突然の行動にグリムは動揺する。
「お、おい……」
「良かった……良かった!」
今までの小人らしくない言動と行動にグリムは戸惑う。身を案じてくれていたのは分かるがまさかここまで思われているのは意外だった。
「……目を覚ましたか」
下の階から銀髪の騎士が上がってくる。小人がたてた音でグリムが目を覚ましたことに気が付いたようだった。
「俺は気を失っていたのか」
「3日ほどな」
銀髪の騎士はベッドに座り込んでいるグリムの前までくると近くの椅子に腰を掛ける。
「その小人は三日三晩お前の面倒をみていた」
「……そうなのか」
「…………」
小人は無言のままだった。お腹に巻かれた包帯は清潔なものがまかれている。先ほど小人が落とした器具の中には血の付いた包帯が入っていた。彼が取り替えてくれていたのは明白だった。
「ありがとう」
「…………今、食事を用意する」
涙をぬぐった小人はそういうと下に降りて行った。
「あの小人は……いやなんでもない」
銀髪の騎士は何かを言いかけて口をつぐんだ。グリムは首をかしげるが騎士は特に気にもせずに会話を始める。
「外を見ろ」
そう言うと騎士は覆われていたカーテンを開いて窓の外を見せてくる。
「……灰色の雪が積もり始めている」
グリムはその光景を見てつぶやく。小屋の前にあった切り株も見えなくなるほどに地面はすでに灰色の雪で覆われていた。
「ローズの言葉通りなら王子の役割は今も空いている……このままでは物語が完結する前に世界が滅びかねない」
「あいつはこの世界を完結させることを誰よりも望んでいる……それはないだろう」
銀髪の騎士はグリムの言葉を否定すると立ち上がった。
「……完結はするが、ほとんどの人間は焼失するだろう」
「それは……」
間違っている、と言おうとしたグリムは夢の記憶が呼び起こされる。生まれ育った白雪姫の世界でグリム自身が何をしたのか。自分自身の意思で世界を滅ぼしたグリムに果たして人々を犠牲にするローズに物申す権利はあるのだろうか。
「何しに来た!」
下の階から小人の叫び声が聞こえてくる。何事かと思いグリムと騎士は下へと向かった。
小人と対峙するように部屋の中にはローズが立っていた。
「おや、やはり生きていましたか……」
ローズはグリムを見るなり笑い、小人は近くに置いてあった包丁を手に持ちローズに向けて身構えた。
「目を覚ましていたのは想定外でしたが……今日の目的はあなたではない」
グリムから視線を銀髪の騎士に移したローズは再び口を開く。
「マロリーを開放してほしければ今日の夜、白雪姫のお城にきなさい」
「……何を企んでいる」
銀髪の騎士の問いにローズはにやりと笑いながら「もったいぶる必要もないですね」と一言付け加えながら驚愕の条件を出してくる。
「あなたがこの世界の王子様の役割を担うのです……」
「……な」
声を漏らしたのはグリムだった。
「お前は友にこの世界で人生を終えろというのか」
「物語を完結させるためには仕方がありません」
グリムの叫びにローズは演技じみた悲しんだ姿勢を見せる。
「今すぐにでもこの世界から離れて彼女を見捨てるのもあなたの自由ですよ」
ローズの挑発に対する銀髪の騎士の答えは初めから決まっているようなものだった。
銀髪の騎士がマロリーを見捨ててこの世界から離れるなどありえない。
「お前は……いったいどれだけこの世界と人間をかき乱せば気が済むんだ!」
小人が鬼気迫る表情でローズに迫った。
細柄な騎士の胸元目指して突き刺そうとしていた包丁はローズに届くことはなかった。
小人の攻撃をひらりと躱したローズは体制を崩した小人を踏みつけた。
「…………その手はなんのつもりですか」
ローズが冷めた声でグリムをにらみつける。グリムは無意識の内にローズに詰め寄り、彼の胸元に手を伸ばしていた。
「その足をどけろ」
「…………」
ローズはグリムに言われたとおりに小人を踏みつけていた足をどかして、一歩下がる。
「それでは、私はこれで失礼します」
扉から出ていくローズを気にも留めず、グリムは小人の身を案じた。
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