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最終章 白雪姫
138話 白雪姫のお城へ
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小人たちの家で一晩を過ごしたのち、グリムは翌朝すぐにお城を目指すことにした。
「お城までの道のり大丈夫―?」
「あぁ、大丈夫だ」
小人の気遣いに感謝を述べつつグリムは家を出る。
基本的な世界の構造は以前育った白雪姫の世界と同じであり道中に迷うことはないとグリムは踏んでいた。
「……どうしてついてくるんだ?」
グリムの跡を無言のままついてきた白色帽子の小人にグリムは尋ねる。
「俺がどこに行こうとも勝手だろ、なんなら俺が先を行こうか?」
「……シロも城の方に向かうならいっしょに行くか」
「そうだな」
グリムと白色帽子の小人は横になって城を目指す。小人の歩幅は人間と比較すると短いため、グリムは意図的に歩く速度を落として小人に並んだ。
本当であれば一刻も早く城に向かい、サンドリオンを見つけたかったグリムだが、自身を助けてくれた小人をないがしろにいくわけにもいかなかった
お城へ向かう途中、小人の家に訪れた際にも視界に入ったブランコの場所につく。
「どうした?」
「あれはシロが作ったとほかの小人から聞いた」
「そうだ、本当は白雪姫の為に作ったんだがな」
「白雪姫の為……」
グリムはここではない白雪姫の世界の記憶が脳裏によぎる。その世界でも同じような場所に小人がブランコを作っていた。
白雪姫の世界では他に娯楽が少ないこともあって最初に白雪姫の役割を与えられた女性とグリムは子供の頃よくブランコを使って遊んでいた。
「……おい、何をやっている?」
前方から小人の声が聞こえてくる。気が付くとシロとの距離が離れていた。グリムは無意識のうちにその場に立ち止まっていたらしい。
「すまない」
グリムは走って小人の横に並ぶ。
「小人はあそこに遊具を作ることが役割として「頁」に書かれていたりするのか?」
「そういうわけではないが……何か気になったのか?」
「……昔、別の白雪姫の世界で同じ場所にブランコがあったんだ」
「……それがどうかしたのか」
「いや、その世界で俺はそのブランコに思い入れがあってな……今になって思えば大切な思い出だと、そう認識しただけだ」
「……そうか」
小人は素っ気なく答えると歩く足を速めた。この世界の小人にとっては興味のない内容だったのかもしれない。
「もうすぐお城が見えてくる」
小人がそう言った直後に二人は森を抜けた。視界には広大なこの世界の風景が広がり、その中心には白亜の城が立っていた。
「……いつみても奇麗だな」
生まれ育った世界の城と姿かたちが似ていたこともあり自然と感想がグリムの口から洩れた。
「……行くぞ」
小人の言葉に合わせて再び歩み始める。グリムはいよいよこの世界の中心地でもあるお城へと訪れようとしていた。
◇
「止まれ、いったい何者だ!」
城の入口で衛兵の役割を与えられた人間にグリムと白色帽子の小人は足止めされる。
「おい、待て……もしかしてこの人は……」
どうこたえるか迷っていたグリムよりも先に声をかけてきた衛兵の隣にいたもう一人の衛兵が口を開いて二人でひそひそと声をかけ始めた。
「し、失礼しました、どうぞお入りください!」
「いいのか?」
「もちろんです!」
兵士たちは態度を変えて道を譲った。小人は無言のまま城の中へと入り、グリムも彼に続いた。
「こんなにすんなり通れるとはな」
「お前の事を隣の国の王子様とでも思ったんだろ」
「俺に王子のような雰囲気があるとは思えないが……」
「姿を消した王子にお前は顔が似ているんだ」
「そうなのか」
小人の言葉を聞いてグリムはようやく人々が自身の事を王子と呼んでいる理由に納得する。
「お城に入ったはいいが、どこにいけばいいのか……」
グリムは城の中を見回す。お城の中は内装までほとんどグリムが生まれ育った白雪姫の世界と同じだった。いばら姫の世界のように城の周りに人が住む城下町のような場所はなく、このお城の中で一つの町のように完結していた。
「まずは王様や王妃に挨拶をした方がいいんじゃないか?」
「それもそうだな」
小人の提案を受け入れたグリムは王様達のいる3階へ向かう為に階段を上った。
◇
「よくぞ参った」
3階の玉座の間につくなり王様からグリムたちは歓迎された。
「そなたが王子様の代役を務めてくれるグリムという者か」
「いったいどこまで話は浸透しているんだ?」
「ローズ殿から話は聞いている、外の世界から白雪姫と王子様の代役を連れてきたとな」
グリムの独り言のような呟きに王様は言葉を返した。
「ローズ?」
見覚えのある言葉にグリムは反応する。
「二人が消え去ったときはどうなるかと思ったが……本当に助かった」
王様は安心するように深く息を吐いた。
王様の言動を聞く限りではグリムをこの世界の王子として招いたローズはもう一人別の誰かを白雪姫としてこの世界に用意したということになる。
そこまで考えたところでグリムは一つの仮説が浮かびあがった。
「白雪姫の代役は……赤い髪の女性か?」
可能性の話ではあるがローズが白雪姫の役割をサンドリオンに担わせようとしていと考えられた。
「いや、今の白雪姫は当然黒髪である」
王様はグリムの質問を即座に否定した。
王様が当然というのは白雪姫の容姿はあまりにも有名だからだとグリムは理解していた。真っ白な肌に対照的な黒髪、それこそが白雪姫の象徴する要素の一つである。サンドリオンも容姿は十分整っているが、その特徴とはかけ離れていた。
そうなるとサンドリオンがいる場所の可能性として残されているのは王子の住んでいる隣の国だけになった。
「王様、王妃様はどこに?」
白色帽子の小人が王様に尋ねた。グリムはサンドリオンを探すことに意識が向きすぎて気づいていなかったが、王様の隣の玉座は空席だった。
「せっかく白雪姫も王子も揃ったというのに彼女ならしばらく自室にこもったままだ……いや、王妃にとっては複雑な心境になるか」
王様は妃の思いをくみ取って言葉を濁す。
物語が進めば王妃は最終的にひどい仕打ちを受ける。
白雪姫と王子が揃った今の状況を王妃がどう思うのか、物語が進むことによって焼失を防げる点を素直に喜べるのか、それともこれから待ち受ける辛い現実に悲しむのかは本人にしかわからなかった。
「ローズはこの城にいるのか?」
「あなたはローズ殿のお知り合いでしたか……彼は一応この城に滞在していますが、ほとんど姿を現しません」
王様に詳しく聞いてみるとローズは城の一室を借りてはいるが王様やこの城に住む人を含めても本人を見たものはほとんどいないようだった。ローズを待ち伏せしてサンドリオンの居場所を聞くのは難しそうだった。
「それでは……王様、失礼します」
「うむ、次に出会うときは物語も終盤だな」
王様の言葉を後に背を向けてグリムは玉座のある部屋から離れた。
◇
「お前の探し人はここにはいなかったか」
「そうだな」
城から出たグリムと白色帽子の小人は来た道を引き返していた。
「探しているのはどんな奴なんだ?」
「……そうだな」
小人の質問にグリムは少しの間を置く。
「責任感が強くて、誰かの為に……それこそ世界の為なら自分の命も惜しまない人間だ」
「俺が聞いたのは容姿の話だ」
「…………っ」
グリムは勘違いしていたことを指摘されて一瞬言葉に詰まってしまう。
「……性別は女性、特徴としては長い髪に凛々しい瞳はともに目立つくらいの真っ赤な色、年齢は20歳に満たない程度、身長は俺よりも少し低いくらい、体格はすらりとしてはいるが女性としてほどよい肉付きをしているな」
「……そこまで詳細に言われるとなんだかお前、気持ち悪いな」
「そっちが聞いてきたんだろ」
グリムの説明を聞いて若干引いた反応を見せた小人に突っ込みを入れる。
「そこまで細かく言われたからこそ断言できるが……少なくとも俺は全て当てはまる人間は見ていないな」
「なら一部分は当てはまる人物は見たのか?」
グリムは聞き返す。
「赤色の髪と瞳以外の部分は全て当てはまる人物ならな」
「一番特徴的な部分じゃないか……」
グリムはため息をはく。
「……かえって良かったかもな」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ」
これ以上話すことはないといった様子で小人はそう言い終えると白色の帽子を深くかぶりなおした。
この時の小人の発言の真意はすぐ後になって明らかになる。
小人の家に着くとシロの言っていた人物とグリムは相対することになった。
そしてこの出会いは本来であればグリムが望むべき出会いのはずだった。
「お城までの道のり大丈夫―?」
「あぁ、大丈夫だ」
小人の気遣いに感謝を述べつつグリムは家を出る。
基本的な世界の構造は以前育った白雪姫の世界と同じであり道中に迷うことはないとグリムは踏んでいた。
「……どうしてついてくるんだ?」
グリムの跡を無言のままついてきた白色帽子の小人にグリムは尋ねる。
「俺がどこに行こうとも勝手だろ、なんなら俺が先を行こうか?」
「……シロも城の方に向かうならいっしょに行くか」
「そうだな」
グリムと白色帽子の小人は横になって城を目指す。小人の歩幅は人間と比較すると短いため、グリムは意図的に歩く速度を落として小人に並んだ。
本当であれば一刻も早く城に向かい、サンドリオンを見つけたかったグリムだが、自身を助けてくれた小人をないがしろにいくわけにもいかなかった
お城へ向かう途中、小人の家に訪れた際にも視界に入ったブランコの場所につく。
「どうした?」
「あれはシロが作ったとほかの小人から聞いた」
「そうだ、本当は白雪姫の為に作ったんだがな」
「白雪姫の為……」
グリムはここではない白雪姫の世界の記憶が脳裏によぎる。その世界でも同じような場所に小人がブランコを作っていた。
白雪姫の世界では他に娯楽が少ないこともあって最初に白雪姫の役割を与えられた女性とグリムは子供の頃よくブランコを使って遊んでいた。
「……おい、何をやっている?」
前方から小人の声が聞こえてくる。気が付くとシロとの距離が離れていた。グリムは無意識のうちにその場に立ち止まっていたらしい。
「すまない」
グリムは走って小人の横に並ぶ。
「小人はあそこに遊具を作ることが役割として「頁」に書かれていたりするのか?」
「そういうわけではないが……何か気になったのか?」
「……昔、別の白雪姫の世界で同じ場所にブランコがあったんだ」
「……それがどうかしたのか」
「いや、その世界で俺はそのブランコに思い入れがあってな……今になって思えば大切な思い出だと、そう認識しただけだ」
「……そうか」
小人は素っ気なく答えると歩く足を速めた。この世界の小人にとっては興味のない内容だったのかもしれない。
「もうすぐお城が見えてくる」
小人がそう言った直後に二人は森を抜けた。視界には広大なこの世界の風景が広がり、その中心には白亜の城が立っていた。
「……いつみても奇麗だな」
生まれ育った世界の城と姿かたちが似ていたこともあり自然と感想がグリムの口から洩れた。
「……行くぞ」
小人の言葉に合わせて再び歩み始める。グリムはいよいよこの世界の中心地でもあるお城へと訪れようとしていた。
◇
「止まれ、いったい何者だ!」
城の入口で衛兵の役割を与えられた人間にグリムと白色帽子の小人は足止めされる。
「おい、待て……もしかしてこの人は……」
どうこたえるか迷っていたグリムよりも先に声をかけてきた衛兵の隣にいたもう一人の衛兵が口を開いて二人でひそひそと声をかけ始めた。
「し、失礼しました、どうぞお入りください!」
「いいのか?」
「もちろんです!」
兵士たちは態度を変えて道を譲った。小人は無言のまま城の中へと入り、グリムも彼に続いた。
「こんなにすんなり通れるとはな」
「お前の事を隣の国の王子様とでも思ったんだろ」
「俺に王子のような雰囲気があるとは思えないが……」
「姿を消した王子にお前は顔が似ているんだ」
「そうなのか」
小人の言葉を聞いてグリムはようやく人々が自身の事を王子と呼んでいる理由に納得する。
「お城に入ったはいいが、どこにいけばいいのか……」
グリムは城の中を見回す。お城の中は内装までほとんどグリムが生まれ育った白雪姫の世界と同じだった。いばら姫の世界のように城の周りに人が住む城下町のような場所はなく、このお城の中で一つの町のように完結していた。
「まずは王様や王妃に挨拶をした方がいいんじゃないか?」
「それもそうだな」
小人の提案を受け入れたグリムは王様達のいる3階へ向かう為に階段を上った。
◇
「よくぞ参った」
3階の玉座の間につくなり王様からグリムたちは歓迎された。
「そなたが王子様の代役を務めてくれるグリムという者か」
「いったいどこまで話は浸透しているんだ?」
「ローズ殿から話は聞いている、外の世界から白雪姫と王子様の代役を連れてきたとな」
グリムの独り言のような呟きに王様は言葉を返した。
「ローズ?」
見覚えのある言葉にグリムは反応する。
「二人が消え去ったときはどうなるかと思ったが……本当に助かった」
王様は安心するように深く息を吐いた。
王様の言動を聞く限りではグリムをこの世界の王子として招いたローズはもう一人別の誰かを白雪姫としてこの世界に用意したということになる。
そこまで考えたところでグリムは一つの仮説が浮かびあがった。
「白雪姫の代役は……赤い髪の女性か?」
可能性の話ではあるがローズが白雪姫の役割をサンドリオンに担わせようとしていと考えられた。
「いや、今の白雪姫は当然黒髪である」
王様はグリムの質問を即座に否定した。
王様が当然というのは白雪姫の容姿はあまりにも有名だからだとグリムは理解していた。真っ白な肌に対照的な黒髪、それこそが白雪姫の象徴する要素の一つである。サンドリオンも容姿は十分整っているが、その特徴とはかけ離れていた。
そうなるとサンドリオンがいる場所の可能性として残されているのは王子の住んでいる隣の国だけになった。
「王様、王妃様はどこに?」
白色帽子の小人が王様に尋ねた。グリムはサンドリオンを探すことに意識が向きすぎて気づいていなかったが、王様の隣の玉座は空席だった。
「せっかく白雪姫も王子も揃ったというのに彼女ならしばらく自室にこもったままだ……いや、王妃にとっては複雑な心境になるか」
王様は妃の思いをくみ取って言葉を濁す。
物語が進めば王妃は最終的にひどい仕打ちを受ける。
白雪姫と王子が揃った今の状況を王妃がどう思うのか、物語が進むことによって焼失を防げる点を素直に喜べるのか、それともこれから待ち受ける辛い現実に悲しむのかは本人にしかわからなかった。
「ローズはこの城にいるのか?」
「あなたはローズ殿のお知り合いでしたか……彼は一応この城に滞在していますが、ほとんど姿を現しません」
王様に詳しく聞いてみるとローズは城の一室を借りてはいるが王様やこの城に住む人を含めても本人を見たものはほとんどいないようだった。ローズを待ち伏せしてサンドリオンの居場所を聞くのは難しそうだった。
「それでは……王様、失礼します」
「うむ、次に出会うときは物語も終盤だな」
王様の言葉を後に背を向けてグリムは玉座のある部屋から離れた。
◇
「お前の探し人はここにはいなかったか」
「そうだな」
城から出たグリムと白色帽子の小人は来た道を引き返していた。
「探しているのはどんな奴なんだ?」
「……そうだな」
小人の質問にグリムは少しの間を置く。
「責任感が強くて、誰かの為に……それこそ世界の為なら自分の命も惜しまない人間だ」
「俺が聞いたのは容姿の話だ」
「…………っ」
グリムは勘違いしていたことを指摘されて一瞬言葉に詰まってしまう。
「……性別は女性、特徴としては長い髪に凛々しい瞳はともに目立つくらいの真っ赤な色、年齢は20歳に満たない程度、身長は俺よりも少し低いくらい、体格はすらりとしてはいるが女性としてほどよい肉付きをしているな」
「……そこまで詳細に言われるとなんだかお前、気持ち悪いな」
「そっちが聞いてきたんだろ」
グリムの説明を聞いて若干引いた反応を見せた小人に突っ込みを入れる。
「そこまで細かく言われたからこそ断言できるが……少なくとも俺は全て当てはまる人間は見ていないな」
「なら一部分は当てはまる人物は見たのか?」
グリムは聞き返す。
「赤色の髪と瞳以外の部分は全て当てはまる人物ならな」
「一番特徴的な部分じゃないか……」
グリムはため息をはく。
「……かえって良かったかもな」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ」
これ以上話すことはないといった様子で小人はそう言い終えると白色の帽子を深くかぶりなおした。
この時の小人の発言の真意はすぐ後になって明らかになる。
小人の家に着くとシロの言っていた人物とグリムは相対することになった。
そしてこの出会いは本来であればグリムが望むべき出会いのはずだった。
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