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最終章 白雪姫

137話 目覚めのキス

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「………………」

 グリムが意識を取り戻すと目の前に小人の顔が迫っていた。

 迫っていたというよりもグリムの唇と小人の唇が重なっていた。

「…………!?」

 グリムは状況を飲み込めずに声にならないような悲鳴を上げる。その様子を見た口づけをしていた小人はグリムの顔から手を放して離れた。

「…………な、何をするんだ?」

 グリムは起き上がると同時に白色の帽子を被った小人から距離を取る。小人といえど性別はグリムと同じ男だった。その行為を理解できなかったグリムは小人に身構える。

「起きたか」

 小人はグリムの慌てた様子とは対照的に落ち着いていた。

「お前はここでどんな状態だったのか覚えていないのか?」

「どんな状態……?」

 小人に言われた言葉をこだましながらグリムはなぜ自身がここで横になっていたかを思い出そうとする。

「……確か俺は」

 言いかけた途中でグリムはロープによってつるされていたことを思い出す。あたりを見回すとちぎれたロープが横に置いてあった。

「お前は木につるされていたんだ」

「俺を助けてくれたのか?」

「そうだ」

 小人は一言そういうと木に食い込んでいた斧を引き離した。斧を投げてグリムをつるしていたロープを切り離してくれたのだとその状況からグリムは理解する。先ほど唇を重ねていたのは息をしていないグリムに対して人工呼吸をしてくれていたわけだった。

「……助かった、ありがとう」

 グリムの言葉を聞くと白色帽子を被った小人は背を向けた。

「……そうだ、あの女性は」

 落ち着きを取り戻したグリムはあたりを見回すが二人以外誰もいなかった。

「俺がここに来た時には死にかけのお前以外誰もいなかった」

「そうか……」

 小人の言葉を聞いてグリムは小さく息を吐く。

「……悪いことは言わない、お前は今すぐにこの世界から離れろ」

 小人はこちら側を向かずにそういった。

「何……?」

「お前はこの世界の人間ではないんだろ、ならば物語の主要な人物が消えたこの世界が崩壊するよりも前に一刻でも早く逃げるべきだ」

 小人の言い分は正しかった。ただし、それはグリム側の視点の正しさだった。

「ほかの小人たちが俺の事を王子様と言っていた……この世界に白雪姫の代理も現れたとも聞いている。それならば俺はいないとあんたは困るんじゃないのか?」

 もしこのままグリムがこの世界から離れてしまえば物語は完結せずにこの世界に住む人々は全員焼失してしまう。そうならない為にもグリムは本来であれば小人にとっては必要とされる存在であるはずだった。

「…………」

 白色帽子の小人はグリムの質問に対しては何も言葉を返さなかった。

「俺はこの世界で会わなければいけない人がいる……それまではこの世界を離れるつもりはない」

「そうか……それならそいつに会えたらすぐにでもこの世界から出ていくんだな」

 白色の小人はぶっきらぼうに言葉を言い終えると歩き始めた。

「ま、待ってくれ」

 小人が家の方角へ向かったのでグリムも追いかける。なぜ目の前の小人がそうまでしてグリムをこの世界から遠ざけようとするのかはわからなかった。

「あんたは……」

「シロでいい」

「シロはどうして最初に俺を見たときに逃げたんだ?」

「そうだったか?」

 自身をシロと呼ぶように促した小人はとぼけた様子でこたえる。

「見知らぬ人間が来たら誰でも警戒はするだろ」

 それもそうかとグリムは白い帽子の小人に納得する。

「ほかの小人たちは俺を見てすぐに受け入れていたけどな」

「あいつらは楽観的だからな」

「シロは違うのか?」

「さあ、どうだろうな」

 シロは会話の時折ではぐらかすような癖があった。それが理由なのかはわからないが、グリムにとってなぜだか白色帽子の小人との会話は心地良かった。

    ◇

「あ、王子様だー!」

 小人達の家の近くまでやってくると外にいた小人たちに声を掛けられる。

「王子様どこにいってたのー?」

「緑が急にいなくなって心配していたよー」

 赤色と黄色の帽子を被った小人の言葉を聞いてグリムは薪割の途中で小人を置いていってしまっていたことに気が付く。

「すまない、緑は……?」

「もう薪を運び終えて家の中で休んでいるよー」

「そうか……家に入ったら謝らないとな」

「そういえばついさっきがきてたよー」

「……白雪姫が?」

 赤色帽子の小人の言葉をグリムは聞き返す。

「いまはもういないけどねー」

「すぐにどっかに行っちゃたー」

「また戻ってくるのか?」

「うーん……わからないかなー」

 小人の回答にグリムは疑問を持つ。

「白雪姫はこの家を拠点にしているわけじゃないのか?」

「新しい白雪姫はほとんどこの家に来ないんだ」

 小人の言葉にグリムは首をかしげる。白雪姫の物語の中で主役である白雪姫が小人の家以外に住んでいるという話は聞いたことがない。これがまだ白雪姫がお城から出ていないのであれば納得できたが、話を聞く限りでは以前の白雪姫は既に小人たちと共にこの家で生活をしていた。

「……それなら白雪姫は普段どこにいるんだ?」

「わからないー」

「それでいいのか……」

 小人の簡単な返事にグリムは頭をかいて困り顔になる。

「だから言っただろ、こいつらは深くは考えていないんだ」

 白色帽子の小人はため息を吐きながらグリムの横に並ぶ。

「白雪姫が小人の家に滞在しなくて物語は無事に進むのか……?」

「さあな、ただ王子と呼ばれているお前がこの場所にいる時点で本来の物語とはかなりかけ離れていてもおかしくはないんじゃないか?」

「……それもそうか」

 小人の言葉を聞いてグリムは相槌を打つ。すでにこの世界は灰色の雪が降り始め、王子様と白雪姫は代役が担っている。この世界の白雪姫はとっくに正しいレールから外れているのだ。

「人を探しているんだったな」

「あぁ」

「この世界でまともに人が住んでいるのはこの場所と王妃のいるお城、それと隣国の王子のいる国しかない。今日はもう遅い……うちに泊まって明日にでもここから近い白雪姫のお城の方に向かうといい」

「…………」

「どうした?」

「いや、なんだかんだでシロは随分と面倒見がいいなと思ってな」

 この世界から出て行けという割には親切にグリムの目的を助けようとしてくれていた。その対応にグリムは驚いていた。

「目的の人間に会ったら出ていくんだろ、それなら何もおかしな話ではないはずだ」

「……それもそうだな」

 またしてもシロの言葉にグリムは納得する。

「王子様今日はうちに泊まっていくのー?」

「わーい、今日はパーティーだね!」

 赤色と黄色帽子を被った小人たちは喜んで家のドアを開けて中へと走っていった。その後を追うように白色帽子の小人とグリムは家の中に入っていった。
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