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第4章 いばら姫編
115話 いばら姫の思い
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「そう……やはり彼はそう言ったのね」
次の日いばら姫の部屋に訪れたグリムは昨日のシツジの決意をいばら姫に伝えた。
それを聞いて彼女は一瞬頬が緩んだのをグリムは見逃さなかった。
シツジが彼女の事を思っている事実を聞いて嬉しくもあり、同時に彼に自由になってほしい気持ちが相まって複雑な心境になっているのは見て取れた。
「彼が魔法使いにされてしまうまであと8日、それまでに彼をこの世界から逃がさないと……グリムさんは何か良い案ありますか?」
「……俺と俺と君だけでは厳しいかな」
昨日一日かけてこの国の中を歩いてみたグリムだが、人の眼をかいくぐってこの世界から出ることは難しいことがよく分かった。
シツジは今やこの世界において最重要人物であり、この世界の人間だけではなく、外から来たローズたちからも常に意識を向けられている。そんな少年を連れ出すのは容易ではなかった。
「グリムさんと共に来ている方はどうですか?」
「彼女にはまだ話せていない」
おそらくいばら姫は従者からグリムと共にこの世界に訪れた女性がいることを聞いたのだと把握する。
昨日もう一度彼女に会いに行ったが、まだ体調がすぐれていないように見えたのでこの件について触れていなかった。
「実行に移すならそのお方の体調が戻ってからですかね」
いばら姫は口に手を当てながら思案する。
「彼女の協力があればなんとかなるとは思う」
「本当ですか!」
顔を期待に膨らませていばら姫が近づいてくる。つい先ほどまでの考えている姿とは正反対の年相応の少女の反応だった。
「でも具体的にどうされるおつもりですか?」
「それはだな……まずは見た方が早いか」
グリムはいばら姫に作戦の詳細について説明を始めることにする。自身の髪留めから1枚の「頁」を取り出すと体内に当てはめる。光がグリムを包み終えると姿は魔女に変わった。
「早着替え……でしょうか?」
「俺は他者の役割を演じることが出来る……今なら姿や形を変える魔法が使えるんだ」
グリムはそういいながら視界に入ったネズミに杖を向ける。
「ウサギになれ」
杖の先から出た光がネズミに直撃し、みるみる大きさが変わり姿はウサギに変わった。
「こんな感じだ」
グリムはいばら姫の方に向き直って自身の能力を見せる。いばら姫にとっては衝撃的だったのか口をパクパクさせてこちらを見ていた。
「……この能力を使ってシツジを別の小さな生き物に変えて人の目を盗んでこの世界から離れさせるつもりだ」
「……その能力があればいけそうですね!」
グリムの説明を聞いて我を取り戻した彼女は称賛の声を上げる。
「ただし、魔法が続くのは俺がこの姿の時だけだ。この世界の人々だけならあざむけるが外から来た彼らがいる」
「グリムさんが魔法使いの姿では計画がばれてしまうと……ご自身に魔法をかけて別の姿になりながらシツジに魔法はかけられないのですか?」
「それは可能なんだが……おそらくローズの警戒は解けない」
シツジが消えた時点で間違いなく彼はグリムを疑うはずである。そうなれば通常の姿であろうともグリムに注視の矛先が向かうのは確実だった。
「だから……彼女に姿を変えたシツジを連れ出してもらう」
「……なるほど」
グリムの言いたいことを理解したいばら姫は両手を叩く。グリム一人では城を出る前に足止めを食らいかねない。しかしサンドリオンがシツジを連れ出せばその目をごまかせるかもしれない。それがグリムの作戦だった。
「でもこの作戦が成功したらグリムさんともう一人の方は離れ離れになってしまうのでは?」
いばら姫がこちらの事を案じて口を閉じる。境界線を越えてしまうと同じ場所にたどり着くことは出来ないという現象を彼女は気にかけていた。
「それなら問題ない」
グリムはそう言いながら胸元の内ポケットから一つの意思を取り出して彼女に見せる。
「これは?」
「羅針石と言ってこれと同じものを持っている人とは世界を隔ててもまた会える……らしい」
「らしい?」
「別の世界にいたときにマロリーから貰ったものなんだが……使った事無くてな」
この世界に訪れた際には彼女に肩を貸していた。結果的に互いに接触していた状態で境界線を越えていた為、同じ世界にたどり着いた。サンドリオンにはまだ石を割って渡していなかった。
「その石の効力があれば……大丈夫そうですね」
いばら姫はほっと胸をなでおろす。シツジをこの世界から逃がすことが最優先ではあるが、協力者であるこちら側の事を案じていることが彼女から伺えた。
「問題はまだある……シツジ本人がこの世界を離れるのに抵抗を持っている」
「私との約束を破るとは思えませんが……」
「彼の耳にもこの世界で君に呪いをかける魔法使いが消えたことは届いている。他の人々と同じようにこの世界が無事に完結する確信を持っていない彼はこの世界に残ることも考えていると言った」
会話が振出しに戻ってしまう。どんなに周りがうまくいったとしても最終的には本人の意思が影響する。グリムでもこればかりは解決策を見いだせていなかった。
「言う事を聞かないのなら気絶でもさせて境界線の外へと運べば……どうかしましたか?」
「いや……お姫様の口からずいぶんと物騒な解決策が出てきて驚いただけだ」
「私は……どんな手段を使ってでも私は彼に自由になってほしい」
いばら姫は本気で言っていた。それは後半の彼女の台詞からも明らかだった。
「……なんで君はそこまでして彼をこの世界から逃がそうとしているんだ?」
彼女がシツジの事を好きなことは分かっている。それでもシツジもいばら姫の事を思い、この世界で運命を遂げようとしていた。そんな彼をこの世界から離そうとしているのに対して疑問を持っていないといえば嘘になる。
「……少しだけ長い話になってしまうわ、それでもよろしいかしら?」
「構わない」
グリムの言葉を聞いていばら姫はベッドに腰を下ろす。そしてゆっくりとなぜ彼女が「白紙の頁」所有者であるシツジをこの世界から逃がそうとしているのか、その理由について語り始めた。
次の日いばら姫の部屋に訪れたグリムは昨日のシツジの決意をいばら姫に伝えた。
それを聞いて彼女は一瞬頬が緩んだのをグリムは見逃さなかった。
シツジが彼女の事を思っている事実を聞いて嬉しくもあり、同時に彼に自由になってほしい気持ちが相まって複雑な心境になっているのは見て取れた。
「彼が魔法使いにされてしまうまであと8日、それまでに彼をこの世界から逃がさないと……グリムさんは何か良い案ありますか?」
「……俺と俺と君だけでは厳しいかな」
昨日一日かけてこの国の中を歩いてみたグリムだが、人の眼をかいくぐってこの世界から出ることは難しいことがよく分かった。
シツジは今やこの世界において最重要人物であり、この世界の人間だけではなく、外から来たローズたちからも常に意識を向けられている。そんな少年を連れ出すのは容易ではなかった。
「グリムさんと共に来ている方はどうですか?」
「彼女にはまだ話せていない」
おそらくいばら姫は従者からグリムと共にこの世界に訪れた女性がいることを聞いたのだと把握する。
昨日もう一度彼女に会いに行ったが、まだ体調がすぐれていないように見えたのでこの件について触れていなかった。
「実行に移すならそのお方の体調が戻ってからですかね」
いばら姫は口に手を当てながら思案する。
「彼女の協力があればなんとかなるとは思う」
「本当ですか!」
顔を期待に膨らませていばら姫が近づいてくる。つい先ほどまでの考えている姿とは正反対の年相応の少女の反応だった。
「でも具体的にどうされるおつもりですか?」
「それはだな……まずは見た方が早いか」
グリムはいばら姫に作戦の詳細について説明を始めることにする。自身の髪留めから1枚の「頁」を取り出すと体内に当てはめる。光がグリムを包み終えると姿は魔女に変わった。
「早着替え……でしょうか?」
「俺は他者の役割を演じることが出来る……今なら姿や形を変える魔法が使えるんだ」
グリムはそういいながら視界に入ったネズミに杖を向ける。
「ウサギになれ」
杖の先から出た光がネズミに直撃し、みるみる大きさが変わり姿はウサギに変わった。
「こんな感じだ」
グリムはいばら姫の方に向き直って自身の能力を見せる。いばら姫にとっては衝撃的だったのか口をパクパクさせてこちらを見ていた。
「……この能力を使ってシツジを別の小さな生き物に変えて人の目を盗んでこの世界から離れさせるつもりだ」
「……その能力があればいけそうですね!」
グリムの説明を聞いて我を取り戻した彼女は称賛の声を上げる。
「ただし、魔法が続くのは俺がこの姿の時だけだ。この世界の人々だけならあざむけるが外から来た彼らがいる」
「グリムさんが魔法使いの姿では計画がばれてしまうと……ご自身に魔法をかけて別の姿になりながらシツジに魔法はかけられないのですか?」
「それは可能なんだが……おそらくローズの警戒は解けない」
シツジが消えた時点で間違いなく彼はグリムを疑うはずである。そうなれば通常の姿であろうともグリムに注視の矛先が向かうのは確実だった。
「だから……彼女に姿を変えたシツジを連れ出してもらう」
「……なるほど」
グリムの言いたいことを理解したいばら姫は両手を叩く。グリム一人では城を出る前に足止めを食らいかねない。しかしサンドリオンがシツジを連れ出せばその目をごまかせるかもしれない。それがグリムの作戦だった。
「でもこの作戦が成功したらグリムさんともう一人の方は離れ離れになってしまうのでは?」
いばら姫がこちらの事を案じて口を閉じる。境界線を越えてしまうと同じ場所にたどり着くことは出来ないという現象を彼女は気にかけていた。
「それなら問題ない」
グリムはそう言いながら胸元の内ポケットから一つの意思を取り出して彼女に見せる。
「これは?」
「羅針石と言ってこれと同じものを持っている人とは世界を隔ててもまた会える……らしい」
「らしい?」
「別の世界にいたときにマロリーから貰ったものなんだが……使った事無くてな」
この世界に訪れた際には彼女に肩を貸していた。結果的に互いに接触していた状態で境界線を越えていた為、同じ世界にたどり着いた。サンドリオンにはまだ石を割って渡していなかった。
「その石の効力があれば……大丈夫そうですね」
いばら姫はほっと胸をなでおろす。シツジをこの世界から逃がすことが最優先ではあるが、協力者であるこちら側の事を案じていることが彼女から伺えた。
「問題はまだある……シツジ本人がこの世界を離れるのに抵抗を持っている」
「私との約束を破るとは思えませんが……」
「彼の耳にもこの世界で君に呪いをかける魔法使いが消えたことは届いている。他の人々と同じようにこの世界が無事に完結する確信を持っていない彼はこの世界に残ることも考えていると言った」
会話が振出しに戻ってしまう。どんなに周りがうまくいったとしても最終的には本人の意思が影響する。グリムでもこればかりは解決策を見いだせていなかった。
「言う事を聞かないのなら気絶でもさせて境界線の外へと運べば……どうかしましたか?」
「いや……お姫様の口からずいぶんと物騒な解決策が出てきて驚いただけだ」
「私は……どんな手段を使ってでも私は彼に自由になってほしい」
いばら姫は本気で言っていた。それは後半の彼女の台詞からも明らかだった。
「……なんで君はそこまでして彼をこの世界から逃がそうとしているんだ?」
彼女がシツジの事を好きなことは分かっている。それでもシツジもいばら姫の事を思い、この世界で運命を遂げようとしていた。そんな彼をこの世界から離そうとしているのに対して疑問を持っていないといえば嘘になる。
「……少しだけ長い話になってしまうわ、それでもよろしいかしら?」
「構わない」
グリムの言葉を聞いていばら姫はベッドに腰を下ろす。そしてゆっくりとなぜ彼女が「白紙の頁」所有者であるシツジをこの世界から逃がそうとしているのか、その理由について語り始めた。
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