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第4章 いばら姫編
107話 与える者 奪う者
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「ワーストさん、いらっしゃい」
お城に隣接した東の塔、その一部屋の中で彼女は椅子に座っていた。
「早速で悪いが、教えてもらえるか」
「えぇ……でもその前に…見張りをお願いします」
マロリーは銀髪の騎士に言葉を向けるとそれを聞いた彼は無言のまま扉の外に出る。
「どうしてそこまでするんだ?」
「王様には好意的に接してもらっていますから、約束を破るわけにはいきません」
マロリーはそこで言葉を一区切りにしてグリムの元へと近づく。
「どのようにしてこの世界の崩壊を防ぐのか……ですよね」
マロリーの言葉にグリムは「あぁ」と短く相槌を打つ。少女は口から小さく息を吸うとその方法について語った。
「この世界ではいばら姫に呪いをかける魔法使いがいなくなった……なので魔法使いの代役を立てます」
「そんなことが可能なのか?」
マロリーはグリムの問いに「はい」と一言で肯定する。
白雪姫の世界で最初の白雪姫が王妃を担ったように、この世界で死んだ魔法使いの役割を他の誰かが演じるわけだ。
「でも、代わりに呪いをかけられる人間なんているのか?」
白雪姫の世界と異なるのはこの世界で死んだ人間は「魔法が使える」点だった。
他の魔法使いならもしかしたら可能かもしれないと考えたグリムだが、彼女の回答は想像をしていないものだった。
「いいえ、初めから役割を持っていない人間に「呪いをかける魔法使い」の役割を与えるのです」
「……すまん、言っている意味が理解できなかった」
グリムは聞き間違えたのか彼女の言葉を脳内で再確認するが、それでも言っている意味が分からなかった。
「なんて説明すればいいのでしょうか」
マロリーが手を顎に当てて考え込む。それとほぼ同時に閉じていた扉が開かれた。
扉を開けたのはもう一人の騎士、ローズだった。
「そのままの意味ですよ、グリム」
「聞こえていたのか」
一瞬サンドリオンの方を見るとローズはは驚いた様子を見せるがすぐに視線を切り替える。
細柄の騎士は早歩きでグリムの元へ距離を詰めた。
「あなたの奪う能力とは異なる……マロリーは与える能力を持っているのです」
「……何?」
ローズの言葉にグリムは引っ掛かった。彼は今「奪う」能力といった。それはおそらくグリムが持つ他人の「頁」を取り出す力の事を示している。
グリムが疑問に思ったのはその能力については彼には一度も見せてはいない事だった。更に言えばマロリーや銀髪の騎士にもその能力について開示した覚えはなかった。
それなのに目の前の細柄な騎士はグリムが他者から「頁」を抜き取れるのを知っているような口調だった。
その疑問を彼に問うよりも先にローズは話を続ける。
「マロリーは「白紙の頁」に役割を書くことが出来るのです」
ローズがグリムに体を近づけたまま先ほど説明した後半の部分について詳細を語った。
「それは……本当か?」
「えぇ、その通りです」
彼女の最初に発言した意味をグリムはそこで理解する。
その能力が本当ならば「呪いをかける魔法使い」の役割を「白紙の頁」を持った人間に言葉通りに与えることで世界の崩壊を防げるかもしれない。
「この力は「白紙の頁」にしか作用しません」
「初めから役割が書かれた「頁」はだめなのか」
マロリーの説明を聞いてグリムは彼女の能力について把握し始める。
赤ずきんの世界には「白紙の頁」の人間がいなかった。オオカミが現れない状況に対して彼女は何もしなかったわけではなく、何もできなかったということだ。
「異なる役割を持つことは出来ない……それが世界の理《ことわり》ですからね。「白紙の頁」限定とはいえ他者に役割を与える彼女はそれだけでも普通の人間とは別格の存在です」
ローズの言う通り、役割を与える力なんて聞いたこともなく、それだけでも彼女は特別な存在であることは明らかだった。
「……話を割るようですまない。その彼女の力で解決するということはつまり、シツジという少年に呪いをかける魔法使いという役割を与えるという事か」
「……そうなりますね」
マロリーがうつむきながら答える。今の彼女は食事をした会場でも見せた顔と同じだった。
「シツジは……「白紙の頁」を持っている彼はその事実を聞いていない」
マロリーの言葉に間髪入れずにグリムは返す。
「それが王様とお姫様の意志ですからね」
赤ずきんの世界を離れる前にみせた顔でローズは答える。
グリムは彼の顔を見て疑心が募った。
「なぜ本人に話さない……また何か企んでいるのか」
「また……?あなたがそれを言うのですか?」
グリムの言葉を聞いてローズの目つきが変わる。
「彼に伝えていないのはこの国の王様の命令です。私はあなたとは違う。自分勝手に物語を歪める、あなたにだけは……言われたくない!」
「なんだと……?」
今までの彼らしくない、荒々しさを伴った声でローズはぶつけるように言葉を目の前のグリムに言い放った。その言葉からグリムに対して敵意のような感情が伝わってくる。
「この世界の人々は全員が物語の完結を望んでいます。この世界で「白紙の頁」を持っているのはシツジという少年しかいません……彼に逃げられたら困ると思うのは当然の心理では?」
ローズは興奮した状態のまま部屋の机に置いてあった2冊の本を手に取るとそのうち1冊を開いてグリム達の前に乱雑に1ページを見せつける。
「これは……」
グリムはそこに描かれたものを見て驚いた。そこにはシンデレラのお城の庭で踊る王子の姿をしたグリムと魔法によってドレスに身を包んだリオンの姿が描かれていた。
お城に隣接した東の塔、その一部屋の中で彼女は椅子に座っていた。
「早速で悪いが、教えてもらえるか」
「えぇ……でもその前に…見張りをお願いします」
マロリーは銀髪の騎士に言葉を向けるとそれを聞いた彼は無言のまま扉の外に出る。
「どうしてそこまでするんだ?」
「王様には好意的に接してもらっていますから、約束を破るわけにはいきません」
マロリーはそこで言葉を一区切りにしてグリムの元へと近づく。
「どのようにしてこの世界の崩壊を防ぐのか……ですよね」
マロリーの言葉にグリムは「あぁ」と短く相槌を打つ。少女は口から小さく息を吸うとその方法について語った。
「この世界ではいばら姫に呪いをかける魔法使いがいなくなった……なので魔法使いの代役を立てます」
「そんなことが可能なのか?」
マロリーはグリムの問いに「はい」と一言で肯定する。
白雪姫の世界で最初の白雪姫が王妃を担ったように、この世界で死んだ魔法使いの役割を他の誰かが演じるわけだ。
「でも、代わりに呪いをかけられる人間なんているのか?」
白雪姫の世界と異なるのはこの世界で死んだ人間は「魔法が使える」点だった。
他の魔法使いならもしかしたら可能かもしれないと考えたグリムだが、彼女の回答は想像をしていないものだった。
「いいえ、初めから役割を持っていない人間に「呪いをかける魔法使い」の役割を与えるのです」
「……すまん、言っている意味が理解できなかった」
グリムは聞き間違えたのか彼女の言葉を脳内で再確認するが、それでも言っている意味が分からなかった。
「なんて説明すればいいのでしょうか」
マロリーが手を顎に当てて考え込む。それとほぼ同時に閉じていた扉が開かれた。
扉を開けたのはもう一人の騎士、ローズだった。
「そのままの意味ですよ、グリム」
「聞こえていたのか」
一瞬サンドリオンの方を見るとローズはは驚いた様子を見せるがすぐに視線を切り替える。
細柄の騎士は早歩きでグリムの元へ距離を詰めた。
「あなたの奪う能力とは異なる……マロリーは与える能力を持っているのです」
「……何?」
ローズの言葉にグリムは引っ掛かった。彼は今「奪う」能力といった。それはおそらくグリムが持つ他人の「頁」を取り出す力の事を示している。
グリムが疑問に思ったのはその能力については彼には一度も見せてはいない事だった。更に言えばマロリーや銀髪の騎士にもその能力について開示した覚えはなかった。
それなのに目の前の細柄な騎士はグリムが他者から「頁」を抜き取れるのを知っているような口調だった。
その疑問を彼に問うよりも先にローズは話を続ける。
「マロリーは「白紙の頁」に役割を書くことが出来るのです」
ローズがグリムに体を近づけたまま先ほど説明した後半の部分について詳細を語った。
「それは……本当か?」
「えぇ、その通りです」
彼女の最初に発言した意味をグリムはそこで理解する。
その能力が本当ならば「呪いをかける魔法使い」の役割を「白紙の頁」を持った人間に言葉通りに与えることで世界の崩壊を防げるかもしれない。
「この力は「白紙の頁」にしか作用しません」
「初めから役割が書かれた「頁」はだめなのか」
マロリーの説明を聞いてグリムは彼女の能力について把握し始める。
赤ずきんの世界には「白紙の頁」の人間がいなかった。オオカミが現れない状況に対して彼女は何もしなかったわけではなく、何もできなかったということだ。
「異なる役割を持つことは出来ない……それが世界の理《ことわり》ですからね。「白紙の頁」限定とはいえ他者に役割を与える彼女はそれだけでも普通の人間とは別格の存在です」
ローズの言う通り、役割を与える力なんて聞いたこともなく、それだけでも彼女は特別な存在であることは明らかだった。
「……話を割るようですまない。その彼女の力で解決するということはつまり、シツジという少年に呪いをかける魔法使いという役割を与えるという事か」
「……そうなりますね」
マロリーがうつむきながら答える。今の彼女は食事をした会場でも見せた顔と同じだった。
「シツジは……「白紙の頁」を持っている彼はその事実を聞いていない」
マロリーの言葉に間髪入れずにグリムは返す。
「それが王様とお姫様の意志ですからね」
赤ずきんの世界を離れる前にみせた顔でローズは答える。
グリムは彼の顔を見て疑心が募った。
「なぜ本人に話さない……また何か企んでいるのか」
「また……?あなたがそれを言うのですか?」
グリムの言葉を聞いてローズの目つきが変わる。
「彼に伝えていないのはこの国の王様の命令です。私はあなたとは違う。自分勝手に物語を歪める、あなたにだけは……言われたくない!」
「なんだと……?」
今までの彼らしくない、荒々しさを伴った声でローズはぶつけるように言葉を目の前のグリムに言い放った。その言葉からグリムに対して敵意のような感情が伝わってくる。
「この世界の人々は全員が物語の完結を望んでいます。この世界で「白紙の頁」を持っているのはシツジという少年しかいません……彼に逃げられたら困ると思うのは当然の心理では?」
ローズは興奮した状態のまま部屋の机に置いてあった2冊の本を手に取るとそのうち1冊を開いてグリム達の前に乱雑に1ページを見せつける。
「これは……」
グリムはそこに描かれたものを見て驚いた。そこにはシンデレラのお城の庭で踊る王子の姿をしたグリムと魔法によってドレスに身を包んだリオンの姿が描かれていた。
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