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第4章 いばら姫編
105話 王様
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「なんだと……?」
「……12番目の魔法使い?」
グリムは驚くが、サンドリオンは魔法使いが消えた事実にいまいちピンときていない様子だった。
「12番目の魔法使いは、いばら姫が15歳の誕生日の日に100年の眠りにつく呪いをかける役割を持った人間だ」
12番目の魔法使いと聞くとわかりにくいかもしれない。グリムからその人間に与えられた役割を聞くことでサンドリオンは状況を理解する。
「いなくなったというのは……何かしら役割に反したのか」
「いいえ……彼は与えられた役割に耐えきれずに……自ら命を絶ちました」
「え……」
グリムの質問にシツジは答える。それを聞いたサンドリオンは声が漏れた。
「耐えきれないというのはどういう意味だ」
「そのままの意味です……12番目の魔法使いは普段は一人で過ごし、姫が15歳になるまで待ち続けました……しかし、彼は待てなかったのです」
「待てなかったというのは?」
「魔法使いは王様の命令で徹底的に迫害され続けました。彼はそれが耐え切れなかった」
迫害を受けていたという事実を聞いてグリムは何故魔法使いが自殺したのか理解する。
「頁」を持った人間は与えられた役割をこなすためにふさわしい容姿で生まれてくる。ただ役割をこなすだけならば問題は生まれない。しかし……
『感情と与えられた役割は別物だ、時として感情がその役割に伴わないことは存在する』
シンデレラの世界でドワーフの男の言葉を思い出す。この世界の魔法使いは与えられた役割に対して人々から受けた仕打ちに耐え切れず、自殺したのだ。
「……いばら姫は今何歳だ?」
死に追い込むほどの仕打ちをした王様の存在も気になったが、それよりも優先するべき話の話題をグリムは少年に尋ねた。
「今年で15歳です……誕生日まで10日もありません」
「ほとんど時間も残されていないじゃないか」
シツジの言葉を聞いてサンドリオンが焦りの声を上げる。
「……さっき君は外の世界から来た者の接し方が分からなくなっていると言ったな。あれはどういう意味だ?」
少年は話すと長くなりますが、と前置きをする。グリムは構わないと言って彼の話に耳を傾けた。
「数日前に外の世界から二人の騎士がお城に来ました。そして片方の長身の騎士が王様に言ったのです『私の言う通りにすれば物語を無事に進めることが出来る』と」
「長身の騎士が?」
グリムはシツジの言葉を言いて眉をひそめる。それはローズに違いなかい。
しかし今までの世界の事を考慮すると嫌な予感がした。
「その男はどうやって物語を進めると言ったんだ?」
「それが……その時は数日待ってほしいと言ったんです」
「数日?」
「……もう一人の少女が来るまで待ってほしいと彼は言いました。なんでもその少女ならばこの世界を必ず救える……と」
少女というのはマロリーで間違いない。しかし、彼女がいればこの世界が救えるというのは意味かわからなかった。
「数日後、実際に少女がこの世界に現れました。最初は警戒をしていた王様も3人目の少女と出会ってから態度が大きく変わりました」
「結局、具体的にどうするといったんだ?」
サンドリオンがシツジに答えを求める。
「そ、それが……具体的な対応策を僕には教えてくれなかったのです」
「……ん?」
何を言っているのか分からないという反応をグリムとサンドリオンは示した。
「王様や姫は詳細を聞いているのですが、僕は席を外されたので聞けていません」
「……主要な役割を与えられた人間以外には教えていないってことか?」
かもしれません、とシツジは話す。ローズが計画しているのならグリムも問題視していたが、赤ずきんの世界で共に行動したマロリーが動いているというのならば信頼できるかもしれない。それでもシツジから聞く限りではまだ分からなかった。
「この世界の人達のほとんどは具体的な解決策を知らされていません。けれど王様からは外から来た人間によってこの世界は救われると言われました。それで城の中もこのような雰囲気になっているのです」
「なるほどな……だから「白紙の頁」を持った俺達を城まで案内したのか」
この世界の人々が怪訝な表情でグリムやサンドリオンを見ていたわけを理解すると同時になぜ少年がここまで素直にこの世界に着いて説明してくれたのか納得をする。
「僕はただ、いばら姫が無事でいてくれるのならそれでいいので」
少年はそう言うと大きな扉の前で立ち止まる。このいかにもという存在感を放つ扉はどの世界でもその先がどこに繋がっているかは大方想像がつくものだった。
両脇に立っていた兵士たちにシツジはグリム達の説明をすると扉をゆっくりと開いた。
「この先にいるのがこの世界の王様と、いばら姫です」
グリムの予想通り、扉の先は王様の部屋へとつながるものだった。
◇
「王様、失礼します」
「シツジか……後ろの者たちは?」
玉座に座る王様がグリム達に視線を送る。
「彼らは外の世界から来た「白紙の頁」の所有者です」
「なんと……そなた達もか」
「王様は驚いた様子を見せるがすぐに元の表情に戻る。
「彼……グリムはマロリーさんと面識があるようです。彼女たちは今どこに?」
「ほほう、彼女と知り合いなのか。マロリー殿なら東の塔の客室でお供と休んでいるよ」
マロリーという言葉を聞いて王様は笑顔になる。シツジの話の通りなら彼女のおかげでこの世界は救われるのだから、マロリーという名前を聞いて王様の機嫌がよくなるのも頷けた。
「もしよければそなたたちももてなそうと思うが……どうかね?」
「それは助かる」
王様の言葉にグリムは首を縦に振る。アーサー王の世界から来たばかりの二人だが、グリムはともかくサンドリオンは下着の上に皮のローブを羽織っただけの状態である。彼女の為にも王様の提案はありがたかった。
「では、案内します」
執事は誰に指図されるわけでもなく、自然にグリム達をもてなそうと誘導する。
「まて、わざわざお前にやってもらうことはない」
「いえ、これが私の役目ですので……」
「よいのだ、お前は決して無理に動く必要はない」
「わ、わかりました……」
王様の命令に従ってシツジは一歩下がる。執事として雇われている少年を引き下げた事にグリムは多少の疑問を持ちつつも代わりにそばにいた兵士に誘導されるようにその場を後にした。
◇◇
「こちらでございます。王様からはお好きなものをと言われております」
浴場にて体を清めた後、グリムとサンドリオンは洋服が大量に用意された部屋に案内される。気を使われたのか浴場から出ると絹のローブのような下着が用意されていた。彼女も同様に先ほどまで来ていた皮製の物とは異なる高級感のあるローブに身を包んでいた。
「私は向こうの方から選ばせてもらう」
サンドリオンはそういうとドレスが飾られている部屋の奥の方へと向かっていった。
心なしか少し声のトーンが明るく感じたのは選ぶことが楽しみなのかもしれない。
「俺も、選ぶか」
グリムは視界に映る服の中から適当に着替えるものを選ぶ。
今まで来ていた服は洗濯をして返すとメイドのような女性が言っていた。
洗濯が終わるまでは王様の好意に感謝して服を拝借する。
「これにするか」
着替える前とほとんど変わらない、似たようなタイプの服装を選んだグリムは一足先に部屋を出た。
◇
しばらくすると扉を開けてサンドリオンも姿を現した。
「グリムはそんなに変わらないな」
「…………」
「急に黙って一体どうした」
「あぁ……いや、似合っているな」
「そうか?ありがとう」
髪をポニーテールのような形で留めて赤色のドレスに身を纏った彼女は貴族と言われたら信じてしまいそうな高貴な雰囲気を纏っていた。
偶然なのか、その姿はシンデレラの世界で舞踏会に向けてリオンが選んだ服装ととても似ていた。
「……12番目の魔法使い?」
グリムは驚くが、サンドリオンは魔法使いが消えた事実にいまいちピンときていない様子だった。
「12番目の魔法使いは、いばら姫が15歳の誕生日の日に100年の眠りにつく呪いをかける役割を持った人間だ」
12番目の魔法使いと聞くとわかりにくいかもしれない。グリムからその人間に与えられた役割を聞くことでサンドリオンは状況を理解する。
「いなくなったというのは……何かしら役割に反したのか」
「いいえ……彼は与えられた役割に耐えきれずに……自ら命を絶ちました」
「え……」
グリムの質問にシツジは答える。それを聞いたサンドリオンは声が漏れた。
「耐えきれないというのはどういう意味だ」
「そのままの意味です……12番目の魔法使いは普段は一人で過ごし、姫が15歳になるまで待ち続けました……しかし、彼は待てなかったのです」
「待てなかったというのは?」
「魔法使いは王様の命令で徹底的に迫害され続けました。彼はそれが耐え切れなかった」
迫害を受けていたという事実を聞いてグリムは何故魔法使いが自殺したのか理解する。
「頁」を持った人間は与えられた役割をこなすためにふさわしい容姿で生まれてくる。ただ役割をこなすだけならば問題は生まれない。しかし……
『感情と与えられた役割は別物だ、時として感情がその役割に伴わないことは存在する』
シンデレラの世界でドワーフの男の言葉を思い出す。この世界の魔法使いは与えられた役割に対して人々から受けた仕打ちに耐え切れず、自殺したのだ。
「……いばら姫は今何歳だ?」
死に追い込むほどの仕打ちをした王様の存在も気になったが、それよりも優先するべき話の話題をグリムは少年に尋ねた。
「今年で15歳です……誕生日まで10日もありません」
「ほとんど時間も残されていないじゃないか」
シツジの言葉を聞いてサンドリオンが焦りの声を上げる。
「……さっき君は外の世界から来た者の接し方が分からなくなっていると言ったな。あれはどういう意味だ?」
少年は話すと長くなりますが、と前置きをする。グリムは構わないと言って彼の話に耳を傾けた。
「数日前に外の世界から二人の騎士がお城に来ました。そして片方の長身の騎士が王様に言ったのです『私の言う通りにすれば物語を無事に進めることが出来る』と」
「長身の騎士が?」
グリムはシツジの言葉を言いて眉をひそめる。それはローズに違いなかい。
しかし今までの世界の事を考慮すると嫌な予感がした。
「その男はどうやって物語を進めると言ったんだ?」
「それが……その時は数日待ってほしいと言ったんです」
「数日?」
「……もう一人の少女が来るまで待ってほしいと彼は言いました。なんでもその少女ならばこの世界を必ず救える……と」
少女というのはマロリーで間違いない。しかし、彼女がいればこの世界が救えるというのは意味かわからなかった。
「数日後、実際に少女がこの世界に現れました。最初は警戒をしていた王様も3人目の少女と出会ってから態度が大きく変わりました」
「結局、具体的にどうするといったんだ?」
サンドリオンがシツジに答えを求める。
「そ、それが……具体的な対応策を僕には教えてくれなかったのです」
「……ん?」
何を言っているのか分からないという反応をグリムとサンドリオンは示した。
「王様や姫は詳細を聞いているのですが、僕は席を外されたので聞けていません」
「……主要な役割を与えられた人間以外には教えていないってことか?」
かもしれません、とシツジは話す。ローズが計画しているのならグリムも問題視していたが、赤ずきんの世界で共に行動したマロリーが動いているというのならば信頼できるかもしれない。それでもシツジから聞く限りではまだ分からなかった。
「この世界の人達のほとんどは具体的な解決策を知らされていません。けれど王様からは外から来た人間によってこの世界は救われると言われました。それで城の中もこのような雰囲気になっているのです」
「なるほどな……だから「白紙の頁」を持った俺達を城まで案内したのか」
この世界の人々が怪訝な表情でグリムやサンドリオンを見ていたわけを理解すると同時になぜ少年がここまで素直にこの世界に着いて説明してくれたのか納得をする。
「僕はただ、いばら姫が無事でいてくれるのならそれでいいので」
少年はそう言うと大きな扉の前で立ち止まる。このいかにもという存在感を放つ扉はどの世界でもその先がどこに繋がっているかは大方想像がつくものだった。
両脇に立っていた兵士たちにシツジはグリム達の説明をすると扉をゆっくりと開いた。
「この先にいるのがこの世界の王様と、いばら姫です」
グリムの予想通り、扉の先は王様の部屋へとつながるものだった。
◇
「王様、失礼します」
「シツジか……後ろの者たちは?」
玉座に座る王様がグリム達に視線を送る。
「彼らは外の世界から来た「白紙の頁」の所有者です」
「なんと……そなた達もか」
「王様は驚いた様子を見せるがすぐに元の表情に戻る。
「彼……グリムはマロリーさんと面識があるようです。彼女たちは今どこに?」
「ほほう、彼女と知り合いなのか。マロリー殿なら東の塔の客室でお供と休んでいるよ」
マロリーという言葉を聞いて王様は笑顔になる。シツジの話の通りなら彼女のおかげでこの世界は救われるのだから、マロリーという名前を聞いて王様の機嫌がよくなるのも頷けた。
「もしよければそなたたちももてなそうと思うが……どうかね?」
「それは助かる」
王様の言葉にグリムは首を縦に振る。アーサー王の世界から来たばかりの二人だが、グリムはともかくサンドリオンは下着の上に皮のローブを羽織っただけの状態である。彼女の為にも王様の提案はありがたかった。
「では、案内します」
執事は誰に指図されるわけでもなく、自然にグリム達をもてなそうと誘導する。
「まて、わざわざお前にやってもらうことはない」
「いえ、これが私の役目ですので……」
「よいのだ、お前は決して無理に動く必要はない」
「わ、わかりました……」
王様の命令に従ってシツジは一歩下がる。執事として雇われている少年を引き下げた事にグリムは多少の疑問を持ちつつも代わりにそばにいた兵士に誘導されるようにその場を後にした。
◇◇
「こちらでございます。王様からはお好きなものをと言われております」
浴場にて体を清めた後、グリムとサンドリオンは洋服が大量に用意された部屋に案内される。気を使われたのか浴場から出ると絹のローブのような下着が用意されていた。彼女も同様に先ほどまで来ていた皮製の物とは異なる高級感のあるローブに身を包んでいた。
「私は向こうの方から選ばせてもらう」
サンドリオンはそういうとドレスが飾られている部屋の奥の方へと向かっていった。
心なしか少し声のトーンが明るく感じたのは選ぶことが楽しみなのかもしれない。
「俺も、選ぶか」
グリムは視界に映る服の中から適当に着替えるものを選ぶ。
今まで来ていた服は洗濯をして返すとメイドのような女性が言っていた。
洗濯が終わるまでは王様の好意に感謝して服を拝借する。
「これにするか」
着替える前とほとんど変わらない、似たようなタイプの服装を選んだグリムは一足先に部屋を出た。
◇
しばらくすると扉を開けてサンドリオンも姿を現した。
「グリムはそんなに変わらないな」
「…………」
「急に黙って一体どうした」
「あぁ……いや、似合っているな」
「そうか?ありがとう」
髪をポニーテールのような形で留めて赤色のドレスに身を纏った彼女は貴族と言われたら信じてしまいそうな高貴な雰囲気を纏っていた。
偶然なのか、その姿はシンデレラの世界で舞踏会に向けてリオンが選んだ服装ととても似ていた。
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