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第3章 アーサー王伝説編
98話 王の「頁」
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「来たな」
マーリンの魔法陣を使い、指定された場所にたどり着いた二人を見て座っていたランスロットが立ち上がった。
「なんだ、グリムもついてきたのか」
「一応アーサー王の側近になったからな」
グリムの言葉にランスロットは「なるほどな」と言いながら笑う。
「王妃はどこだ」
兜で顔を隠しているサンドリオンがランスロットに問いかける。
「安心しな、王妃は近くの町の宿屋だ」
「どうしてこんな事をしたんだ」
「悪いね……よその世界から来たあんたには応える義務はないかな」
ランスロットは飄々とした態度でグリムの言葉を流そうとする。
「ここまで物語が進んだのならもう後戻りは出来ない。後はモードレッドが城で反乱を起こすだけだ」
「そうだな……あいつがちゃんとやれるか、それだけが心配だ」
ランスロットはモードレッドの事を思いやったのかキャメロットの方角を見て遠い目をした。
「けどな……今の物語の中心はここだ」
ランスロットは声のトーンを変えてこちらに向き直す。グリムはその様子に見覚えがあった。それは最初に出会ったとき、グリムを捉えようとした時に向けられた静かな敵意だった。
「なぁ……王様、俺との約束、覚えているか?」
「…………」
ランスロットの言葉にサンドリオンは答えることが出来なかった。
「……覚えてないか、そうだよな……それなら……」
「……っ剣を抜け、アーサー!」
ランスロットは視線を手元の剣に向ける。次に何が起きるのか察したグリムはサンドリオンに向かって叫ぶ。
グリムの言葉を聞いて瞬時に剣を抜いたサンドリオンのもとへランスロットが一瞬で近づいて剣を振るった。互いの剣がぶつかり、衝撃が近くにいたグリムのもとにも伝わってくる。
「行動に移すだけだ」
口調は普段とかわらないが、それでも殺意に満ちていることはそばにいるグリムでもわかった。
「どうしてだ、ランスロット!」
二人の近くでグリムは叫ぶ。この場所で行われるのはあくまで和解のはずである。それが何故いきなり戦闘になるのか理解することが出来なかった。
「さっきも言ったよな、よそ者のあんたに答える必要はない」
剣をぶつけ合いながらランスロットはグリムに返答する。対してアーサー王を演じているサンドリオンは言葉を発する余裕がないほどに押し込まれている姿が見て取れた。
「どうした王様、真剣勝負はあんたのご所望のはずだろ」
「……っ」
挑発されたサンドリオンは相手の剣の軌道をずらすようにして攻撃をかわしきる。
距離を取ろうとして後ろに下がったサンドリオンに対してランスロットはすかさず距離を詰める。
攻撃を受け続けることが出来ないと判断した彼女は斜めに振り下ろされたランスロットの一撃に対して体をかがめる事でギリギリかわした。しかし……
「……がっ!」
強烈なランスロットの蹴りが大勢を低くした彼女に直撃する。全身に鎧をまとった彼女は転がりながらふきとばされる。
「……く」
何度か体を地面にたたきつけられた後、起き上がった彼女の目前まで迫ったランスロットの追撃の一振りが再び彼女に襲い掛かる。サンドリオンはそれをかわすことも受け切ることも出来ず、直撃して再び吹き飛ばされた。
いくらこの世界で一人の騎士として鍛錬を積んでいた彼女だとしてもその実力の差は歴然であり、傍から見ていたグリムでの大人と赤子ほどに差を感じ取れた。
◇
すでに何度も攻撃を食らい、彼女の鎧姿はぼろぼろになっていた。
「……もうやめろ、ここであんた達が戦う理由はないはずだ!」
グリムの言葉を聞いて猛攻を仕掛けていたランスロットの動きが止まる。サンドリオンはもう何度目かの攻撃を受けてグリムの目の前に吹き飛ばされてまともに動けなくなっていた。
「そうだな……俺とした事が……こうなることは分かり切っていたのにな」
ようやくグリムの言葉を聞き入れてくれたのかランスロットは剣を下に下げる。
グリムは安心しかけるが、彼から放たれる静かな殺意が消えていない事に気が付き、視線を離さないようにする。
「それなら最後に偽物の王様を殺して終わりにしようか」
「な…………」
ランスロットは言葉を言い終えると剣を振り上げる。地面に倒れて動けないサンドリオンへとどめを刺そうとする。
既に彼女は動く気配がないどころか意識があるのかも定かではなかった。
このままでは彼女が殺されてしまう、その事実だけは彼の言葉が言い終わるよりも先にグリムは本能的に察した。
通常であれば最初に出会った時と同じように「頁」を髪留めから取り出す事が間に合わないはずであるが、その時は無意識と言えるほどの速さでグリムは自身の髪留めから1枚の「頁」を取り出して体に当てはめていた。
「ギィン」と豪快な剣の交わる音が鳴ると同時に止まらない勢いが風となって地面の砂や意思を軽く吹き飛ばす。
ランスロットの振り下ろした一撃はすんでのところで剣によって防がれた。
「…………どういうことだ」
先に驚きの声を上げたのはランスロットの方だった。今まで見たことがない表情で彼はグリムを見て、睨んでいた。
「こいつは死なせない……死なせたくない」
ランスロットの一撃を剣で受けながら、振り絞るような声でグリムは言葉を放つ。
更に交わっていた剣をランスロットの方向に押し返すようにしてはじき返す。そしてグリムは地面に倒れているサンドリオンを庇うように前に出た。
「グリム、どうして……どうして貴様がアーサー王の姿になっている!」
ランスロットが叫ぶ。
彼の前に立ちはだかったのはこの世界の主人公にして最強の騎士であるアーサー王の姿をしたグリムだった。
マーリンの魔法陣を使い、指定された場所にたどり着いた二人を見て座っていたランスロットが立ち上がった。
「なんだ、グリムもついてきたのか」
「一応アーサー王の側近になったからな」
グリムの言葉にランスロットは「なるほどな」と言いながら笑う。
「王妃はどこだ」
兜で顔を隠しているサンドリオンがランスロットに問いかける。
「安心しな、王妃は近くの町の宿屋だ」
「どうしてこんな事をしたんだ」
「悪いね……よその世界から来たあんたには応える義務はないかな」
ランスロットは飄々とした態度でグリムの言葉を流そうとする。
「ここまで物語が進んだのならもう後戻りは出来ない。後はモードレッドが城で反乱を起こすだけだ」
「そうだな……あいつがちゃんとやれるか、それだけが心配だ」
ランスロットはモードレッドの事を思いやったのかキャメロットの方角を見て遠い目をした。
「けどな……今の物語の中心はここだ」
ランスロットは声のトーンを変えてこちらに向き直す。グリムはその様子に見覚えがあった。それは最初に出会ったとき、グリムを捉えようとした時に向けられた静かな敵意だった。
「なぁ……王様、俺との約束、覚えているか?」
「…………」
ランスロットの言葉にサンドリオンは答えることが出来なかった。
「……覚えてないか、そうだよな……それなら……」
「……っ剣を抜け、アーサー!」
ランスロットは視線を手元の剣に向ける。次に何が起きるのか察したグリムはサンドリオンに向かって叫ぶ。
グリムの言葉を聞いて瞬時に剣を抜いたサンドリオンのもとへランスロットが一瞬で近づいて剣を振るった。互いの剣がぶつかり、衝撃が近くにいたグリムのもとにも伝わってくる。
「行動に移すだけだ」
口調は普段とかわらないが、それでも殺意に満ちていることはそばにいるグリムでもわかった。
「どうしてだ、ランスロット!」
二人の近くでグリムは叫ぶ。この場所で行われるのはあくまで和解のはずである。それが何故いきなり戦闘になるのか理解することが出来なかった。
「さっきも言ったよな、よそ者のあんたに答える必要はない」
剣をぶつけ合いながらランスロットはグリムに返答する。対してアーサー王を演じているサンドリオンは言葉を発する余裕がないほどに押し込まれている姿が見て取れた。
「どうした王様、真剣勝負はあんたのご所望のはずだろ」
「……っ」
挑発されたサンドリオンは相手の剣の軌道をずらすようにして攻撃をかわしきる。
距離を取ろうとして後ろに下がったサンドリオンに対してランスロットはすかさず距離を詰める。
攻撃を受け続けることが出来ないと判断した彼女は斜めに振り下ろされたランスロットの一撃に対して体をかがめる事でギリギリかわした。しかし……
「……がっ!」
強烈なランスロットの蹴りが大勢を低くした彼女に直撃する。全身に鎧をまとった彼女は転がりながらふきとばされる。
「……く」
何度か体を地面にたたきつけられた後、起き上がった彼女の目前まで迫ったランスロットの追撃の一振りが再び彼女に襲い掛かる。サンドリオンはそれをかわすことも受け切ることも出来ず、直撃して再び吹き飛ばされた。
いくらこの世界で一人の騎士として鍛錬を積んでいた彼女だとしてもその実力の差は歴然であり、傍から見ていたグリムでの大人と赤子ほどに差を感じ取れた。
◇
すでに何度も攻撃を食らい、彼女の鎧姿はぼろぼろになっていた。
「……もうやめろ、ここであんた達が戦う理由はないはずだ!」
グリムの言葉を聞いて猛攻を仕掛けていたランスロットの動きが止まる。サンドリオンはもう何度目かの攻撃を受けてグリムの目の前に吹き飛ばされてまともに動けなくなっていた。
「そうだな……俺とした事が……こうなることは分かり切っていたのにな」
ようやくグリムの言葉を聞き入れてくれたのかランスロットは剣を下に下げる。
グリムは安心しかけるが、彼から放たれる静かな殺意が消えていない事に気が付き、視線を離さないようにする。
「それなら最後に偽物の王様を殺して終わりにしようか」
「な…………」
ランスロットは言葉を言い終えると剣を振り上げる。地面に倒れて動けないサンドリオンへとどめを刺そうとする。
既に彼女は動く気配がないどころか意識があるのかも定かではなかった。
このままでは彼女が殺されてしまう、その事実だけは彼の言葉が言い終わるよりも先にグリムは本能的に察した。
通常であれば最初に出会った時と同じように「頁」を髪留めから取り出す事が間に合わないはずであるが、その時は無意識と言えるほどの速さでグリムは自身の髪留めから1枚の「頁」を取り出して体に当てはめていた。
「ギィン」と豪快な剣の交わる音が鳴ると同時に止まらない勢いが風となって地面の砂や意思を軽く吹き飛ばす。
ランスロットの振り下ろした一撃はすんでのところで剣によって防がれた。
「…………どういうことだ」
先に驚きの声を上げたのはランスロットの方だった。今まで見たことがない表情で彼はグリムを見て、睨んでいた。
「こいつは死なせない……死なせたくない」
ランスロットの一撃を剣で受けながら、振り絞るような声でグリムは言葉を放つ。
更に交わっていた剣をランスロットの方向に押し返すようにしてはじき返す。そしてグリムは地面に倒れているサンドリオンを庇うように前に出た。
「グリム、どうして……どうして貴様がアーサー王の姿になっている!」
ランスロットが叫ぶ。
彼の前に立ちはだかったのはこの世界の主人公にして最強の騎士であるアーサー王の姿をしたグリムだった。
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