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第3章 アーサー王伝説編

89話 酒豪王決定戦

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 アーサー王を演じている彼女の命令でキャメロットにて盛大なパーティーが催された。
 告知は3日前だったというのに瞬く間に話は広がり、当日となった今では敷地内にいる人数は町中の全ての人間がいるのではないかと思えるぐらいの人だかりになっていた。

「さぁー始まりました、円卓名物酒豪王決定戦、司会は私、マーリンが務めます!」

 パーティーもいよいよ終わりが近づき始めた頃、騎士たちを囲うようにして町中の人間が城の中庭に集まった。

「今宵集まったのは5人の紹介をさせていただきます。まず初めは円卓の騎士の一人、ガウェイン。太陽の申し子は夜の舞台でもその力を発揮できるのでしょうか!」

 観客の黄色い声が上がる。一人の騎士が一歩民衆の前に出る。円卓の騎士一人、ガウェイン。つい先日グリムに強襲を仕掛けたその騎士は人々に笑顔で手を振って挨拶をしていた。

「続きまして円卓の騎士の一人、ランスロット。湖の騎士はその名に恥じず、お酒に溺れることなく勝者となりえるのか!」

 今度は円卓の騎士、ランスロットが一歩前に出る。先ほどのガウェインよりもいっそう大きな声援が彼を包んだ。

「続きまして円卓の騎士、モードレッド。前回の雪辱を果たし、優勝なるか!」

 円卓の騎士にしてアーサー王の息子であるモードレッドが前に出る。他の円卓の騎士に比べると若い女性の声援が多く感じるのはランスロットやガウェインに比べても彼が一回り若いからかもしれない。

「そして前回の優勝者である王妃、グィネヴィアが今回も参戦です。ここまでなんと驚異の3連覇!彼女の快進撃を止めることは出来るのでしょうか?」

 観客の声がこれまで以上に盛り上がりを見せる。マーリンの紹介にあわせて前に出たアーサー王の妃であるグィネヴィアは胸を張りながら堂々とした立ち振る舞いで観客たちに今宵の勝利を約束していた。

「マーリンのやつ、ノリノリじゃないか……」

 グリムは彼らに一番近い場所でマーリンの司会を聴きながらその様子に感心する。
 蝶々を巨大な魔法陣に介して人々に言葉を届けている魔術師は普段の会話のテンションと全く違った司会者としての役割を見事にこなしていた。

「そして最後は……なんと、なんとついに我らが王、アーサーが参戦します!過去に一度も参加していない為、実力は未知数ですが……今宵その真の強さが明かされます!」

 会場は最高潮の盛り上がりを見せた。アーサー王が出ると同時に下がったグィネヴィアは彼に対して明らかに対抗的な目をむけていた。



 当然あそこにいるアーサー王は本物ではない。グリムの魔女の「頁」の力によってアーサー王の顔に変えられた「白紙の頁」の所有者である彼女である。

 魔法が解けない様にグリムは自身に魔女の「頁」を当てはめた姿で彼らを観戦していた。パーティー会場は仮装や警備をする騎士がいたこともあり、グリムは魔法使いの姿でも自然とその場に溶け込んでいた。

「あらためましてルールの説明を、ルールは至って単純。制限時間内にお酒を一番多く飲んだ人間が勝者となり今宵1日限りが与えられます」

 マーリンが円卓酒豪王の内容を説明すると今度は円卓の中心に大きな時計が現れる。
 続いて空中にいくつもの似たような時計が浮遊した状態で出現した。
 会場にいる誰が見ても制限時間を確認できる配慮のようだ。

「相変わらずマーリンの魔法はなんでもありだな」

 その様子を見てグリムは感想を漏らす。魔術師と呼ばれるのは伊達ではなかった。

 グリムを含めた人々の視線は再び円卓にいる今宵の主役たちに戻っていく。
 グリムもアーサー王を模している彼女のほうを見つめた。

 アーサー王を演じている彼女が参加した理由はもちろんこの大会で優勝し、グィネヴィアの優勝を阻止する事だった。万が一王妃が優勝してしまえばアーサー王の正体がばれてしまい、最悪世界の崩壊に繋がりかねない。それを防ぐ為にも王妃の優勝を避けるのを絶対である。

「お酒は聖杯を模したグラスに注がれて参加者が飲みきるたびに新しいものが用意されますのでご安心を!」

 魔術師が言い終えると同時に円卓にグラスが用意される。グラスは願いを叶える願望器にかけて聖杯の形をしていた。いちいち細かいところまで凝っているなとグリムは軽く笑ってしまう。

「参加者の皆様は席に着きましたね、それでは円卓酒豪王用意……スタート」

 マーリンの掛け声とともに一斉に参加者たちは聖杯を手に取り始める。

 今宵の王様をかけた戦いが幕を開けた。


    ◇◇


「まさか……あなたが参加されるとはね」

 グィネヴィアがアーサー王に向かって声をかける。他の円卓の騎士たちも同じ意見を持っていたようで参加者全員の視線がアーサー王に集まった。

「お父様が……アーサー王がこのような場に直接出るのは初めてでは?」

「我もこの世界の主人公である以前に一人の人間である。皆がいつも楽しそうにしていたので……な?」

 アーサー王はウィンクを二人に向ける。グィネヴィアはその顔を見て乙女のような声を漏らして喜び、モードレッドは目をキラキラと輝かせた。

「普段から王をやっているんだから、この場くらいはその席を譲ったらどうですか?」

「ランスロット、貴様アーサー王に向かってその言葉遣いはなんだ!」

 ガウェインがランスロットの言葉を聞いてギロリと睨みながら言葉を返す。

「ガウェイン……よい、ここは酒を飲む場所、今宵は無礼講である」

「ア、アーサー王がそう言うのでしたら……」

 アーサー王の言葉を聞いてガウェインは噛みつきかけた態度を正した。

「言っておきますけど、いくらあなたといえど、今夜は私が勝たせてもらいますわ」

「受けて立とう」

 グィネヴィアとアーサー王、互いの視線が火花を散らした。



「……どうした?ランスロット」

「……む、いや」

 二人を見ていたランスロットに何かを感じ取ったモードレッドが訪ねるがランスロットは何でもないと言って視線を二人から外した。

「さては嫉妬しているな、ランスロット」

「それは鏡を見て言うセリフだな」

「なんだと?」

 今度はガウェインとランスロットが互いにバチバチと視線をかわし始める。その様子を見てモードレッドは呆れてため息を吐き、アーサー王とグィネヴィア王妃は笑っていた。

「参加者の皆様は席に着きましたね……」

 マーリンの声を聴いて参加者全員が席に座る。

「それでは、皆の健闘を祈る」

 アーサー王の言葉を聞いて騎士と王妃は各自集中を始める。

「それでは円卓酒豪王用意……スタート!」


    ◇◇


 マーリンの合図から時間が過ぎ、時計に表示される残り時間は30分をきっていた。

 円卓の上にはそれぞれが飲み干した聖杯が大量に重ねて置かれていた。

「あーっと、ここでガウェインがダウンだー、太陽の申し子はやはり夜には勝てなかった!」

 空の聖杯は地面に落ちてガシャンという音が鳴ると共にガウェインが机の上に突っ伏すように倒れこむ。

「これで残りは4名、現時点の順位はアーサー王とグィネヴィア王妃がほぼ同数の1位、少し離れてランスロット、更に離されてモードレットが続きます。さすがの前回の王者である王妃。モードレットはやや厳しそうか?」

 マーリンの解説を聞きながらグリムは円卓の上を眺める。すでに一人当たり30杯以上の空の聖杯が置かれている。注がれているお酒の濃さにもよるが、普通の人間ではつぶれて当然の量だった。

「おっと……ランスロットが手を挙げた、これは……降参です!現時点の順位的には3位をつけておりましたが、自ら棄権を申し出ました!」

 ランスロットが勝負から降りて残すはアーサー王とグィネヴィア王妃、モードレットの3人だけになった。王様と王妃は飲み干した数にほとんど差はないが、モードレットは明らかに後れを取っている。顔を見てもだいぶ赤くなり限界が近いように見えた。

「それでもモードレッド、挑み続けます。さすがは円卓の騎士、その姿勢は見事としかいいようがない!」

 マーリンの言葉と共に観客が歓声をあげる。時間は残り20分を切っていた。

    ◇

「ここで……モードレットがダウン、飲み干した聖杯の数はランスロットを超えております、モードレットの善戦に拍手を!」

 ガウェインと同じように顔を円卓に着けてモードレットが敗退する。しかし意地を見せてランスロットよりは多く飲みほした。優勝には届かなくとももしかしたら彼を意識していたのかもしれない。

「勝負はいよいよ大詰めとなりました。残るはアーサー王とグィネヴィア王妃の一騎打ち、一体だれがこの二人の戦いになる事を予想できたでしょうか?」

 観客が盛り上がる中二人の飲む速度は変わらず聖杯を次々と飲み干していた。

 残り時間は10分を切り、会場の熱気は高まっていた。
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