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37話 緋色の髪の毛
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しばらくすると体を洗い終えたシンデレラが風呂場から魔女に声をかける。
「あの、洗い終えましたけど、どうすれば……」
「そしたらこちらへおいで」
「…………」
「何恥ずかしがっているんだい、ここにいるのは女二人だけだから恥ずかしがることはないだろう?」
シンデレラは魔女に言われた通りにタオルを巻いて風呂場から出てくる。
「うーん、綺麗な体だねぇ」
魔女はシンデレラの裸体をふむふむと満足そうに眺めた。
「あ、あの衣服はどこに?」
「そうだったね、見てなさい」
顔を赤くして恥ずかしがるシンデレラの言葉を聞いて本題を思い出したかのような言い方をすると、魔女は目の前にたたまれていたシンデレラのぼろぼろの衣服に魔法をかける。
「舞踏会にふさわしい純白のドレスになりなさい」
魔女が言った通りに汚れ切った衣服はたちまちにきらびやかな白のドレスに姿を変えた。
「す、すごい」
「さぁ、そのドレスに着替え終わったら外に出ておいで」
そういうと魔女は玄関から外へと出ていった。
◇
「おや、着替え終わったのかい」
シンデレラが家の外に出てくると座って待っていた魔女は立ち上がる。
「流石だね、見れば見るほど見とれてしまうよ」
シンデレラの姿を見て魔女は満足そうに笑う。
「そ、そうですか」
シンデレラは照れ臭そうにはにかむ。
「純白のドレスにガラスの靴を履いたその姿はシンデレラそのものだね」
魔女はうんうんと腕を組んで頷く。着替えるときにシンデレラも自身の姿を鏡で確認したが、今の自分の姿はこの物語の主人公であるシンデレラにふさわしいと感じていた。
「魔女様、ありがとうございます」
「お礼なんていらないさ」
魔女は手をふりふりと振って軽く断るような仕草をする。
魔女と出会ったのは今夜が初めてのシンデレラだったが、魔女は演技的な人という印象を持った。
一つ一つの行動に対して細かくアクションをするその行いは与えられた役割に意識的に没頭しているようにも見えた。
(それほどまでにこの方は魔女として、物語を完成させようとしているのですね)
魔女の思いに感化されたシンデレラは自身も役割を果たさなければいけないと改めて気持ちを奮い立たせる。
「魔女様、せっかく衣装を用意してくださったのですが、ここからお城まで歩いていくとなると舞踏会に間に合いません……」
「大丈夫さ、それじゃあ、最後の仕上げといこうかね」
シンデレラのセリフに対して魔女は自信ありげに切り返しつつ懐から何かを取り出す。
「ここにかぼちゃがあるだろう?」
魔女は手元に持ったかぼちゃをシンデレラに見せつけるとそれをそのまま宙に投げる。
「馬車になーれ」
かぼちゃを持っていた手と反対側に手にしていた杖から光が発せられる。
魔女が投げたかぼちゃは瞬く間に大きくなり、おしゃれな馬車へと変化した。
「さて、これに乗っていけば舞踏会にも参加できるね」
「す、すごい」
シンデレラは魔女の魔法に驚きの声を上げる。
「でも馬車をひくための肝心のお馬さんはどうするのですか?」
シンデレラの質問に対して魔女はこれもまた予期していたかのように、にやりと笑う。
「もちろん、すでに用意しているさ」
魔女はそういうと暗闇の向こう側を指さす。
「ほら、出ておいで」
魔女がそう言うと指をさした方向からパカパカと足音が聞こえてくる。見るとこちら側に一頭の馬が歩いてきた。
「馬も用意しているに決まっているじゃないか、なんていったって、私は願いを叶える魔女なんだからね」
ふふんと鼻を高くして魔女は笑う。
「…………」
「おや、どうしたんだい?」
「……このお馬さん、とても綺麗」
シンデレラの視線は魔女に用意されていた馬の姿にくぎ付けだった。
この世界の中でシンデレラは何度も馬を見たことがある。それこそ先日はひき殺されそうにもなった。
今シンデレラの前にいる馬は純白の毛並みに緋色の髪の毛をなびかせている。その姿は他の馬とは明らかに格が違った。
「……ふん、この日の為に私が用意した特別な馬だからね」
魔女は何故か不機嫌そうにそっぽをむいてしまう。
「なのに……なぜか悲しそう」
凛としたその姿はとても美しかった。けれどもその瞳は沈んでいるように見えた。
「気のせいだろう。さぁシンデレラ、馬車に乗りなさい」
魔女にせかされるようにしてシンデレラは無理やりかぼちゃの馬車の中に乗せられる。
「ほら、はやく行くんだよ」
シンデレラが乗った事を確認すると魔女は馬の手綱を片手で握り、もう片方の手に持った鞭で馬を叩いた。
白馬は力強く叩かれて悲鳴を上げた。
「……いいのかい、このままではシンデレラが舞踏会に間に合わないよ」
ぼそりと小さな声で魔女はつぶやいた。すると白馬はゆっくりとお城に向かって歩き始める。その様子を見て魔女は歪な笑みを浮かべた。
「ほら、スピードを上げるんだよ」
何度も何度も魔女は鞭をたたいて馬を走らせる。白馬は苦しそうな声を上げながら速度を上げて走り始めた。
「初めからそうしていればいいのさ……ひっひっひ」
しわがれた笑い声を響かせてシンデレラの乗ったかぼちゃの馬車は町の中を駆けて行った。
「あの、洗い終えましたけど、どうすれば……」
「そしたらこちらへおいで」
「…………」
「何恥ずかしがっているんだい、ここにいるのは女二人だけだから恥ずかしがることはないだろう?」
シンデレラは魔女に言われた通りにタオルを巻いて風呂場から出てくる。
「うーん、綺麗な体だねぇ」
魔女はシンデレラの裸体をふむふむと満足そうに眺めた。
「あ、あの衣服はどこに?」
「そうだったね、見てなさい」
顔を赤くして恥ずかしがるシンデレラの言葉を聞いて本題を思い出したかのような言い方をすると、魔女は目の前にたたまれていたシンデレラのぼろぼろの衣服に魔法をかける。
「舞踏会にふさわしい純白のドレスになりなさい」
魔女が言った通りに汚れ切った衣服はたちまちにきらびやかな白のドレスに姿を変えた。
「す、すごい」
「さぁ、そのドレスに着替え終わったら外に出ておいで」
そういうと魔女は玄関から外へと出ていった。
◇
「おや、着替え終わったのかい」
シンデレラが家の外に出てくると座って待っていた魔女は立ち上がる。
「流石だね、見れば見るほど見とれてしまうよ」
シンデレラの姿を見て魔女は満足そうに笑う。
「そ、そうですか」
シンデレラは照れ臭そうにはにかむ。
「純白のドレスにガラスの靴を履いたその姿はシンデレラそのものだね」
魔女はうんうんと腕を組んで頷く。着替えるときにシンデレラも自身の姿を鏡で確認したが、今の自分の姿はこの物語の主人公であるシンデレラにふさわしいと感じていた。
「魔女様、ありがとうございます」
「お礼なんていらないさ」
魔女は手をふりふりと振って軽く断るような仕草をする。
魔女と出会ったのは今夜が初めてのシンデレラだったが、魔女は演技的な人という印象を持った。
一つ一つの行動に対して細かくアクションをするその行いは与えられた役割に意識的に没頭しているようにも見えた。
(それほどまでにこの方は魔女として、物語を完成させようとしているのですね)
魔女の思いに感化されたシンデレラは自身も役割を果たさなければいけないと改めて気持ちを奮い立たせる。
「魔女様、せっかく衣装を用意してくださったのですが、ここからお城まで歩いていくとなると舞踏会に間に合いません……」
「大丈夫さ、それじゃあ、最後の仕上げといこうかね」
シンデレラのセリフに対して魔女は自信ありげに切り返しつつ懐から何かを取り出す。
「ここにかぼちゃがあるだろう?」
魔女は手元に持ったかぼちゃをシンデレラに見せつけるとそれをそのまま宙に投げる。
「馬車になーれ」
かぼちゃを持っていた手と反対側に手にしていた杖から光が発せられる。
魔女が投げたかぼちゃは瞬く間に大きくなり、おしゃれな馬車へと変化した。
「さて、これに乗っていけば舞踏会にも参加できるね」
「す、すごい」
シンデレラは魔女の魔法に驚きの声を上げる。
「でも馬車をひくための肝心のお馬さんはどうするのですか?」
シンデレラの質問に対して魔女はこれもまた予期していたかのように、にやりと笑う。
「もちろん、すでに用意しているさ」
魔女はそういうと暗闇の向こう側を指さす。
「ほら、出ておいで」
魔女がそう言うと指をさした方向からパカパカと足音が聞こえてくる。見るとこちら側に一頭の馬が歩いてきた。
「馬も用意しているに決まっているじゃないか、なんていったって、私は願いを叶える魔女なんだからね」
ふふんと鼻を高くして魔女は笑う。
「…………」
「おや、どうしたんだい?」
「……このお馬さん、とても綺麗」
シンデレラの視線は魔女に用意されていた馬の姿にくぎ付けだった。
この世界の中でシンデレラは何度も馬を見たことがある。それこそ先日はひき殺されそうにもなった。
今シンデレラの前にいる馬は純白の毛並みに緋色の髪の毛をなびかせている。その姿は他の馬とは明らかに格が違った。
「……ふん、この日の為に私が用意した特別な馬だからね」
魔女は何故か不機嫌そうにそっぽをむいてしまう。
「なのに……なぜか悲しそう」
凛としたその姿はとても美しかった。けれどもその瞳は沈んでいるように見えた。
「気のせいだろう。さぁシンデレラ、馬車に乗りなさい」
魔女にせかされるようにしてシンデレラは無理やりかぼちゃの馬車の中に乗せられる。
「ほら、はやく行くんだよ」
シンデレラが乗った事を確認すると魔女は馬の手綱を片手で握り、もう片方の手に持った鞭で馬を叩いた。
白馬は力強く叩かれて悲鳴を上げた。
「……いいのかい、このままではシンデレラが舞踏会に間に合わないよ」
ぼそりと小さな声で魔女はつぶやいた。すると白馬はゆっくりとお城に向かって歩き始める。その様子を見て魔女は歪な笑みを浮かべた。
「ほら、スピードを上げるんだよ」
何度も何度も魔女は鞭をたたいて馬を走らせる。白馬は苦しそうな声を上げながら速度を上げて走り始めた。
「初めからそうしていればいいのさ……ひっひっひ」
しわがれた笑い声を響かせてシンデレラの乗ったかぼちゃの馬車は町の中を駆けて行った。
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