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29話 犯人捜し
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「……どういう意味だ?」
「そのままの意味よ」
「私はシンデレラだけを見ていたわけでないのよ。この町すべての住人を観察したうえで魔女を演じているわ」
「そこまでする必要はないだろ」
なぜそこまでする必要があると魔女に問いかける。
「あなたが最初に言った通り、もともとは舞踏会が始まる前までは森の中でひっそりと暮らしていようと思っていたのだけれどね」
魔女の表情が険しくなる。それは意地悪な継母と姉の表情にそっくりだった。
「あの「意地悪な姉」はあまりにも動きすぎている。それこそ与えられた役割以上にね」
「それはいけない事なのか?」
「…………」
グリムの問いに魔女は何も答えなかった。時間もないとグリムは魔女に背を向けて歩き出そうとすると最後に魔女は言葉を発した。
「私は絶対にこの物語を完結させたいの……いいえ、させなければいけないのよ」
振り返って魔女の顔を見るとその顔つきは今までのどの表情よりも真剣で、演技ではなく心の底から本気であることが伝わってきた。
「急いでいるのでしょ?行きなさい」
またねと魔女はにこやかに笑って手を振る。その顔つきはいつもの演技慣れしている表情だった。
◇
魔女と別れた後、意地悪な継母と姉を探しに町の中を再開する。
朝の二人の会話から呉服屋にいると推察したグリムはリオンに付き合わされた店を回ると、数件目で二人を見つけることが出来た。
「さてと、どうするか」
いきなり二人と顔を合わせて「シンデレラの靴を知りませんか」というわけにもいかない。グリムは客を装って二人のそばに寄った。
「その服も大変似合っていますわお母様」
「あなたもそのドレス似合っているわよ」
会話だけを見れば中積むましいが、二人がシンデレラに行っていた行為を思うと素直にほほえましい光景として見ることはできなかった。
複雑な心情で二人の会話を盗み聞きしていると丁度ガラスの靴に関わりそうな話題が上がる。
「まったく、舞踏会ぐらい、私たちも少しは羽目を外したいわね」
「そうですね……損な役割を与えられたのですもの、せめて次の転生した世界では主役になりたいですわ」
「それは私も同じよ。あなたと違って今回は継母という見た目も役割も完全にハズレだったのですから」
継母は深いため息をつく。姉は継母を慰めるようにドレス選びを続け始めた。
二人とも会話を聞く限りでは転生論を信じているようだった
「転生論」というものは物語が無事完結したら新しい生を受けると言われているものである。例え主役ではない「頁」を持って生まれても世界から与えられた役割を全うすればいつかどこかの世界の主役として生まれ変われる。そして主役を演じた先には自由の楽園へと導かれる……そんな言い伝えだった。
転生論を信じているのならばシンデレラの靴を家の外に隠すという行為はかみ合っていない。
舞踏会が始まるだいぶ前に隠すなら二人の性格と役割から十分あり得た。しかし開催二日前に自ら燃えてなくなる危険を犯す必要はないはずだ。
確定ではないが、二人が靴を隠した可能性はないとみて良いかもしれない。
「そうなると……」
お店から出たグリムは魔女の言葉を思い出す。朝から姿が見えないもう一人の姉であるリオンが必然的に次の犯人候補に挙がってしまう。
今までの彼女を見る限り、彼女が物語を壊すような行為をするとは到底思えない。しかし消去法であの家に出入りが自由にでき、かつ燃えずに役割に沿っている行為を行えるのはもうリオンしかいなかった。
「あいつが行きそうな場所か……」
改めてもう一度これまで起きたことを振り返ってみる。
「……何か手掛かりがあるはずだ」
ガラスの靴が消えた理由はわからない。リオンを疑うわけではないが、彼女を探すことがガラスの靴の発見に繋がる可能性は高い。
いままで散々彼女に付き合わされた場所を思い出す。
「服屋、ダンス講習場、アクセサリーショップ、それから……」
考えて歩いているうちに昨日の事故現場にたどり着く。昨日のあの時に比べれば人数も少なくなってはいるが、舞踏会二日前ということもあって人の動きは盛んになっていた。
「おっと……」
馬車がこちら側に来ていたため、離れようとした所、地面に躓いて一瞬バランスを崩してしまう。少し慌てながらグリムは大通りから離れた。
「そういえば、昨日のシンデレラも同じように地面に足を引っかけていたな......」
よくよく見るとこの大通りは舗装が荒く、靴が引っかかりやすくなっていた。昨日のシンデレラはハイヒールのようなガラスの靴を履いていたのだから、足元に引っかかるのも当然だった。
「……待てよ」
昨日の出来事、シンデレラを守るような形でかばったリオン。その後シンデレラは何かを言いかけていた。それはいったい何だったのか……シンデレラが道端で転んで動けなかった理由は……
「そうか……」
そこまで思考を進めてある一つの仮説にたどり着く。それならば朝からリオンがいない理由も、ガラスの靴が消えた理由にも説明がついた。
「そのままの意味よ」
「私はシンデレラだけを見ていたわけでないのよ。この町すべての住人を観察したうえで魔女を演じているわ」
「そこまでする必要はないだろ」
なぜそこまでする必要があると魔女に問いかける。
「あなたが最初に言った通り、もともとは舞踏会が始まる前までは森の中でひっそりと暮らしていようと思っていたのだけれどね」
魔女の表情が険しくなる。それは意地悪な継母と姉の表情にそっくりだった。
「あの「意地悪な姉」はあまりにも動きすぎている。それこそ与えられた役割以上にね」
「それはいけない事なのか?」
「…………」
グリムの問いに魔女は何も答えなかった。時間もないとグリムは魔女に背を向けて歩き出そうとすると最後に魔女は言葉を発した。
「私は絶対にこの物語を完結させたいの……いいえ、させなければいけないのよ」
振り返って魔女の顔を見るとその顔つきは今までのどの表情よりも真剣で、演技ではなく心の底から本気であることが伝わってきた。
「急いでいるのでしょ?行きなさい」
またねと魔女はにこやかに笑って手を振る。その顔つきはいつもの演技慣れしている表情だった。
◇
魔女と別れた後、意地悪な継母と姉を探しに町の中を再開する。
朝の二人の会話から呉服屋にいると推察したグリムはリオンに付き合わされた店を回ると、数件目で二人を見つけることが出来た。
「さてと、どうするか」
いきなり二人と顔を合わせて「シンデレラの靴を知りませんか」というわけにもいかない。グリムは客を装って二人のそばに寄った。
「その服も大変似合っていますわお母様」
「あなたもそのドレス似合っているわよ」
会話だけを見れば中積むましいが、二人がシンデレラに行っていた行為を思うと素直にほほえましい光景として見ることはできなかった。
複雑な心情で二人の会話を盗み聞きしていると丁度ガラスの靴に関わりそうな話題が上がる。
「まったく、舞踏会ぐらい、私たちも少しは羽目を外したいわね」
「そうですね……損な役割を与えられたのですもの、せめて次の転生した世界では主役になりたいですわ」
「それは私も同じよ。あなたと違って今回は継母という見た目も役割も完全にハズレだったのですから」
継母は深いため息をつく。姉は継母を慰めるようにドレス選びを続け始めた。
二人とも会話を聞く限りでは転生論を信じているようだった
「転生論」というものは物語が無事完結したら新しい生を受けると言われているものである。例え主役ではない「頁」を持って生まれても世界から与えられた役割を全うすればいつかどこかの世界の主役として生まれ変われる。そして主役を演じた先には自由の楽園へと導かれる……そんな言い伝えだった。
転生論を信じているのならばシンデレラの靴を家の外に隠すという行為はかみ合っていない。
舞踏会が始まるだいぶ前に隠すなら二人の性格と役割から十分あり得た。しかし開催二日前に自ら燃えてなくなる危険を犯す必要はないはずだ。
確定ではないが、二人が靴を隠した可能性はないとみて良いかもしれない。
「そうなると……」
お店から出たグリムは魔女の言葉を思い出す。朝から姿が見えないもう一人の姉であるリオンが必然的に次の犯人候補に挙がってしまう。
今までの彼女を見る限り、彼女が物語を壊すような行為をするとは到底思えない。しかし消去法であの家に出入りが自由にでき、かつ燃えずに役割に沿っている行為を行えるのはもうリオンしかいなかった。
「あいつが行きそうな場所か……」
改めてもう一度これまで起きたことを振り返ってみる。
「……何か手掛かりがあるはずだ」
ガラスの靴が消えた理由はわからない。リオンを疑うわけではないが、彼女を探すことがガラスの靴の発見に繋がる可能性は高い。
いままで散々彼女に付き合わされた場所を思い出す。
「服屋、ダンス講習場、アクセサリーショップ、それから……」
考えて歩いているうちに昨日の事故現場にたどり着く。昨日のあの時に比べれば人数も少なくなってはいるが、舞踏会二日前ということもあって人の動きは盛んになっていた。
「おっと……」
馬車がこちら側に来ていたため、離れようとした所、地面に躓いて一瞬バランスを崩してしまう。少し慌てながらグリムは大通りから離れた。
「そういえば、昨日のシンデレラも同じように地面に足を引っかけていたな......」
よくよく見るとこの大通りは舗装が荒く、靴が引っかかりやすくなっていた。昨日のシンデレラはハイヒールのようなガラスの靴を履いていたのだから、足元に引っかかるのも当然だった。
「……待てよ」
昨日の出来事、シンデレラを守るような形でかばったリオン。その後シンデレラは何かを言いかけていた。それはいったい何だったのか……シンデレラが道端で転んで動けなかった理由は……
「そうか……」
そこまで思考を進めてある一つの仮説にたどり着く。それならば朝からリオンがいない理由も、ガラスの靴が消えた理由にも説明がついた。
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