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28話 魔女、再び
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「どこに行ったか……っ!」
表通りに出て歩き始めると一人の女性とぶつかってしまう。
「すまない、ケガはしてないか?」
「いえ、大丈夫です、あれ、あなたは……」
ぶつかった少女がグリムの顔を見て足を止める。グリムには全く見覚えがないが、向こう側はこちらを知っているような反応だった。
「えっと、すみません、こっちに来てくれませんか」
少女はグリムの服の袖をつかんで路地裏へと歩き始める。
「今急いでいるんだ。あんたに付き合っている暇は……」
「なにか困っているんですよね、グリム?」
彼女の指を振り払おうとした刹那、グリムは自身の名前を出されて驚く。少女は一瞬こちらをみると何も言わずに再び路地裏へと歩きだす。グリムは名前を言い当てた少女の後を追った。
「なんで俺の名前を?」
人込みから離れた路地裏の奥にたどり着くと少女はクルリとこちら側を向いてニコッと笑った。
「やだなぁ……私ですよ私ですよ私、分かりませんか?」
「……すまない、分からない」
グリムはこの数日の間に出会ってきた人々を思い出して目の前の少女と照らし合わせるが、やはり見覚えがない。
グリムと同じ旅人だとしたらこの世界とは別の世界で出会っていたのかもしれない……過去に出会った「白紙の頁」の人間を思い出すがそれでも分からなかった。
「酷いです、私と過ごしたあの長い一夜を忘れるなんて」
少女はしくしくとウソ泣きを始める。その意図的に作られた演技にグリムは見覚えがあった。
「お前……魔女か?」
「やっと気づいてくれましたね」
魔女と言われた少女はえっへんと腕を腰に当てて得意げなポーズをとる。
「なんで魔女がこんなところにいる?」
「ふふふ、実は私、よく自分に魔法をかけて町の中を歩いていたんですよ?」
シンデレラの物語の中で魔女が町の中を自由に歩いていたなどという話は聞いたことがない。魔女が本来現れるのは物語の終盤、シンデレラを舞踏会に導く時だけだった。
物語が本格的に始まりだした今、町の中を歩くという行為は正直危険だとグリムは考える。
「村人に魔女が日常の中にいるってばれたらまずいかもですね。でも今の私はただの少女よ。だれも魔女だと気づいていないのです」
「……なるほどな」
この世界の住人に魔女が出歩いている事実が知れ渡らない限り、世界から役割に反しているとみなされないと彼女は言いたいのだろう。
「あなたと接している間は例外だってことも知っていますよ」
少女に変身した魔女はそう告げる。シンデレラが靴をなくした事をグリムに話しても世界が崩壊を始めなかったように、外の世界の住人と接するだけならば物語に影響を与えることはない。魔女はその事実を知っていたらしい。
「実をいうと森の中であなたに会う前からあなたを知っていたわ、それこそこの世界に訪れたその日からね」
「どういうことだ?」
「私の本来の役割は何だと思う?」
「シンデレラを舞踏会へと連れていくことだろ?」
「半分正解、あなた、シンデレラの物語をちゃんと読み直したほうがいいわよ」
「もったいぶらないで教えてくれ。何が言いたいんだ?」
「魔女がシンデレラをお城へと導く理由、それは彼女が舞踏会に出るという夢を叶える為よね?」
魔女はどこから取り出したのか、眼鏡をかけて講義をするような口調でグリムに説明を始める。グリムがせかすような視線を送るとコホンと軽い咳払いをして話を続けた。
「魔女は決して誰にでも親切ではないわ。毎日継母達のいじめに耐えながら少女は舞踏会に夢を見る……そのけなげな姿に感銘を受けて願いを叶えるのよ」
「つまり、魔女は舞踏会が始まるまで、この世界の人々やシンデレラの行為を観測していたってことか」
そういうこと、とシンデレラはびしっと人差し指をグリムに向ける。
まとめると魔女はシンデレラの生活を普段から見ていた。その手段として魔女は別の姿に化けて定期的に町の中に訪れていた、そしてその中でグリムも見ていたというわけである。
「あなたが昨日シンデレラの家の前でのぞき見していた事も知っているわよ」
魔女はにやにやと笑いながら話す。昨日の出来事を指摘されてグリムは一体魔女はどこまで知っているだろうかと勘繰ってしまう。
「それで、今日はどうしてそんなに焦っているんだい?」
魔女は元々の姿のような口調で尋ねる。さすがの魔女でも今日起きた事件までは把握していないようだった。
「いや、ちょっと探し物を、な……」
物語の中心に関わる人物に伝えてしまうことは危険だということを思い出し、グリムはガラスの靴を探している事を伝えかけて言いよどむ。
「探し物? なんなら私が手伝ってあげようか?」
「大丈夫だ」
「なによ、せっかく人が親切にしてあげてるのに」
「お前はそれよりも物語に沿った行動をしたほうがいいんじゃないのか?」
言葉を言い終えてからグリムはしまったと後悔する。シンデレラは今現在家の中で必死にガラスの靴を探している。万が一、その姿を魔女に見られてガラスの靴をなくした事がばれてしまった場合、最悪この世界の崩壊に繋がりかねない。
「それもそうね、物語も本格的に始まった事だし、私は大人しくこのまま家に帰るとするわ」
その一言を聞いてグリムは一安心した。
「あぁ……そういえばあなたに一つ忠告するわ」
歩き出した魔女が立ち止まってこちら側を向く。
「シンデレラの姉、特に赤髪の長女のほうには気をつけな」
表通りに出て歩き始めると一人の女性とぶつかってしまう。
「すまない、ケガはしてないか?」
「いえ、大丈夫です、あれ、あなたは……」
ぶつかった少女がグリムの顔を見て足を止める。グリムには全く見覚えがないが、向こう側はこちらを知っているような反応だった。
「えっと、すみません、こっちに来てくれませんか」
少女はグリムの服の袖をつかんで路地裏へと歩き始める。
「今急いでいるんだ。あんたに付き合っている暇は……」
「なにか困っているんですよね、グリム?」
彼女の指を振り払おうとした刹那、グリムは自身の名前を出されて驚く。少女は一瞬こちらをみると何も言わずに再び路地裏へと歩きだす。グリムは名前を言い当てた少女の後を追った。
「なんで俺の名前を?」
人込みから離れた路地裏の奥にたどり着くと少女はクルリとこちら側を向いてニコッと笑った。
「やだなぁ……私ですよ私ですよ私、分かりませんか?」
「……すまない、分からない」
グリムはこの数日の間に出会ってきた人々を思い出して目の前の少女と照らし合わせるが、やはり見覚えがない。
グリムと同じ旅人だとしたらこの世界とは別の世界で出会っていたのかもしれない……過去に出会った「白紙の頁」の人間を思い出すがそれでも分からなかった。
「酷いです、私と過ごしたあの長い一夜を忘れるなんて」
少女はしくしくとウソ泣きを始める。その意図的に作られた演技にグリムは見覚えがあった。
「お前……魔女か?」
「やっと気づいてくれましたね」
魔女と言われた少女はえっへんと腕を腰に当てて得意げなポーズをとる。
「なんで魔女がこんなところにいる?」
「ふふふ、実は私、よく自分に魔法をかけて町の中を歩いていたんですよ?」
シンデレラの物語の中で魔女が町の中を自由に歩いていたなどという話は聞いたことがない。魔女が本来現れるのは物語の終盤、シンデレラを舞踏会に導く時だけだった。
物語が本格的に始まりだした今、町の中を歩くという行為は正直危険だとグリムは考える。
「村人に魔女が日常の中にいるってばれたらまずいかもですね。でも今の私はただの少女よ。だれも魔女だと気づいていないのです」
「……なるほどな」
この世界の住人に魔女が出歩いている事実が知れ渡らない限り、世界から役割に反しているとみなされないと彼女は言いたいのだろう。
「あなたと接している間は例外だってことも知っていますよ」
少女に変身した魔女はそう告げる。シンデレラが靴をなくした事をグリムに話しても世界が崩壊を始めなかったように、外の世界の住人と接するだけならば物語に影響を与えることはない。魔女はその事実を知っていたらしい。
「実をいうと森の中であなたに会う前からあなたを知っていたわ、それこそこの世界に訪れたその日からね」
「どういうことだ?」
「私の本来の役割は何だと思う?」
「シンデレラを舞踏会へと連れていくことだろ?」
「半分正解、あなた、シンデレラの物語をちゃんと読み直したほうがいいわよ」
「もったいぶらないで教えてくれ。何が言いたいんだ?」
「魔女がシンデレラをお城へと導く理由、それは彼女が舞踏会に出るという夢を叶える為よね?」
魔女はどこから取り出したのか、眼鏡をかけて講義をするような口調でグリムに説明を始める。グリムがせかすような視線を送るとコホンと軽い咳払いをして話を続けた。
「魔女は決して誰にでも親切ではないわ。毎日継母達のいじめに耐えながら少女は舞踏会に夢を見る……そのけなげな姿に感銘を受けて願いを叶えるのよ」
「つまり、魔女は舞踏会が始まるまで、この世界の人々やシンデレラの行為を観測していたってことか」
そういうこと、とシンデレラはびしっと人差し指をグリムに向ける。
まとめると魔女はシンデレラの生活を普段から見ていた。その手段として魔女は別の姿に化けて定期的に町の中に訪れていた、そしてその中でグリムも見ていたというわけである。
「あなたが昨日シンデレラの家の前でのぞき見していた事も知っているわよ」
魔女はにやにやと笑いながら話す。昨日の出来事を指摘されてグリムは一体魔女はどこまで知っているだろうかと勘繰ってしまう。
「それで、今日はどうしてそんなに焦っているんだい?」
魔女は元々の姿のような口調で尋ねる。さすがの魔女でも今日起きた事件までは把握していないようだった。
「いや、ちょっと探し物を、な……」
物語の中心に関わる人物に伝えてしまうことは危険だということを思い出し、グリムはガラスの靴を探している事を伝えかけて言いよどむ。
「探し物? なんなら私が手伝ってあげようか?」
「大丈夫だ」
「なによ、せっかく人が親切にしてあげてるのに」
「お前はそれよりも物語に沿った行動をしたほうがいいんじゃないのか?」
言葉を言い終えてからグリムはしまったと後悔する。シンデレラは今現在家の中で必死にガラスの靴を探している。万が一、その姿を魔女に見られてガラスの靴をなくした事がばれてしまった場合、最悪この世界の崩壊に繋がりかねない。
「それもそうね、物語も本格的に始まった事だし、私は大人しくこのまま家に帰るとするわ」
その一言を聞いてグリムは一安心した。
「あぁ……そういえばあなたに一つ忠告するわ」
歩き出した魔女が立ち止まってこちら側を向く。
「シンデレラの姉、特に赤髪の長女のほうには気をつけな」
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