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25話 「頁」を持たぬ者
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「なんだ、お前か」
扉をノックした後、出てきたドワーフの男から開口一番に言われた台詞だった。
「リオンが怪我をしてな……代わりにお金を持ってきた」
「そういう事か」
ドワーフは差し出された袋を受け取ると中身を適当に確認してポケットにしまいこんだ。
「それじゃあな」
約束を果たしたグリムは扉を閉じて帰ろうとする。
「待て、グリムといったか。お前のその服の中に隠している物はなんだ」
ドワーフの男に閉めかけていた扉を止められる。
彼の指先はグリムの着ている上着の左胸の部分を指していた。
「……別に大したものじゃない」
「その気配は「頁」が放つものだ。お前が今隠しているのは「頁」だろ?」
「……なぜわかった?」
本当であれば決して見せたくないはずのものだった。隠している物の正体を当てられたグリムはおとなしく内側の胸ポケットに隠していた一枚の「頁」を手に取って見せた。
「どういうことだ、なぜお前が他者の「頁」を持っている?」
ドワーフの男は目を見開いて驚いた様子を見せる。そこでグリムは思い違いをしていた事に気が付き、後悔する。
ドワーフの男はグリムについて、リオンから「白紙の頁」を持っていない人間としか伝えられていない。そして彼はそれを冗談だと流していた。
彼はグリム自身が元から所持している「白紙の頁」を体内から取り出していたと思ったのである。
「お前は何者だ……どうやって他人の「頁」を持つことが出来ている?」
ドワーフの男は近くに置いてあった銃を手に取るとこちらに向けて構えた。
「黙っていて悪かった。騙すつもりはなかったんだ」
右手に「頁」を持ちながら両手を上げて敵意がない姿勢を見せるが、ドワーフの男は警戒を解こうとはしなかった。
「お前は「白紙の頁」の所有者なのか?」
「それは違う、俺は……」
「まだ俺の質問は終わっていない」
ドワーフの男は会話の主導権を譲ろうとはしなかった。グリムは「白紙の頁」を持った人間ではない。説明することをおざなりにした結果、現状の危機を招いてしまっていた。
「俺はお前という存在を知らない……そもそも「白紙の頁」の所有者は他人の「頁」を持つことなど出来ないはずだ」
全ての人間は世界に生を受けると同時に「頁」を与えられる。それは役割の与えられていない「白紙の頁」を持った人間も同様である。両者ともに「頁」はその所有者から離れることは決してありえない。
その事実に対して矛盾しているこの状況にドワーフの男は驚いているのだとグリムは把握する。
「答えろ、グリムと名乗ったな。お前はいったい何者だ?」
「俺は……自分自身の「頁」を持っていないんだ」
「何?」
ピクリと銃を構えていた手が少しだけ動く。まだ言葉を発しても問題はない事を確認しながらグリムは自身の存在について説明を続けた。
「俺は生まれた時から「頁」を持っていない。信じてもらえないかもしれないが......本当だ」
「頁」があれば胸の中から出すことで確認できる。しかし、生まれた時から「頁」を持っていないグリムはその事実を証明する方法がなかった。
「……お前の事はとりあえず分かった」
予想に反してドワーフの男はすんなりと説明を受け入れた。
「……だが、他者の「頁」を持っている理由には応えてもらう」
銃の照準は相変わらずグリムを定めていた。
命と同様の価値を持つ「頁」を持っていれば警戒するのは当然だった。
「俺は……他人の「頁」に触れることが出来る。そして「頁」を所有者から取り出せるんだ」
この世界では誰にも言っていなかったグリムの能力について開示した。
他人の胸元に触れるとグリムの手は相手の体内に入り込み、その者が持っている「頁」に触れることも、抜き取ることも出来る。それが「頁」を持たないグリムの持つ能力だった。
グリム自身何故このようなことができるのかはわからない。
他者の「頁」は見ることが出来ても触れることは出来ない。
それは変わらない世界の理ことわりとしてすべての人々が認識していた。
しかしグリムだけはその理ことわりから外れていたのである。
これまでいくつもの世界を旅してきた中で「白紙の頁」を持つ人間には何回か出会っている。しかし「頁」を持たない人間には一度も出会ったことがなかった。
確証はないが、グリムは「頁」を持たないが故に他者の「頁」に触れることが出来ると無理やり解釈していた。
「俺が聞いているのは「頁」を手に入れる能力についてじゃない。他者の「頁」を手に入れた理由だ。なぜお前はこの世界にいる馬の「頁」を持っている?」
「頁」に描かれた荷物を運ぶ馬の絵を見てドワーフの男はグリムに問い詰めてきた。
扉をノックした後、出てきたドワーフの男から開口一番に言われた台詞だった。
「リオンが怪我をしてな……代わりにお金を持ってきた」
「そういう事か」
ドワーフは差し出された袋を受け取ると中身を適当に確認してポケットにしまいこんだ。
「それじゃあな」
約束を果たしたグリムは扉を閉じて帰ろうとする。
「待て、グリムといったか。お前のその服の中に隠している物はなんだ」
ドワーフの男に閉めかけていた扉を止められる。
彼の指先はグリムの着ている上着の左胸の部分を指していた。
「……別に大したものじゃない」
「その気配は「頁」が放つものだ。お前が今隠しているのは「頁」だろ?」
「……なぜわかった?」
本当であれば決して見せたくないはずのものだった。隠している物の正体を当てられたグリムはおとなしく内側の胸ポケットに隠していた一枚の「頁」を手に取って見せた。
「どういうことだ、なぜお前が他者の「頁」を持っている?」
ドワーフの男は目を見開いて驚いた様子を見せる。そこでグリムは思い違いをしていた事に気が付き、後悔する。
ドワーフの男はグリムについて、リオンから「白紙の頁」を持っていない人間としか伝えられていない。そして彼はそれを冗談だと流していた。
彼はグリム自身が元から所持している「白紙の頁」を体内から取り出していたと思ったのである。
「お前は何者だ……どうやって他人の「頁」を持つことが出来ている?」
ドワーフの男は近くに置いてあった銃を手に取るとこちらに向けて構えた。
「黙っていて悪かった。騙すつもりはなかったんだ」
右手に「頁」を持ちながら両手を上げて敵意がない姿勢を見せるが、ドワーフの男は警戒を解こうとはしなかった。
「お前は「白紙の頁」の所有者なのか?」
「それは違う、俺は……」
「まだ俺の質問は終わっていない」
ドワーフの男は会話の主導権を譲ろうとはしなかった。グリムは「白紙の頁」を持った人間ではない。説明することをおざなりにした結果、現状の危機を招いてしまっていた。
「俺はお前という存在を知らない……そもそも「白紙の頁」の所有者は他人の「頁」を持つことなど出来ないはずだ」
全ての人間は世界に生を受けると同時に「頁」を与えられる。それは役割の与えられていない「白紙の頁」を持った人間も同様である。両者ともに「頁」はその所有者から離れることは決してありえない。
その事実に対して矛盾しているこの状況にドワーフの男は驚いているのだとグリムは把握する。
「答えろ、グリムと名乗ったな。お前はいったい何者だ?」
「俺は……自分自身の「頁」を持っていないんだ」
「何?」
ピクリと銃を構えていた手が少しだけ動く。まだ言葉を発しても問題はない事を確認しながらグリムは自身の存在について説明を続けた。
「俺は生まれた時から「頁」を持っていない。信じてもらえないかもしれないが......本当だ」
「頁」があれば胸の中から出すことで確認できる。しかし、生まれた時から「頁」を持っていないグリムはその事実を証明する方法がなかった。
「……お前の事はとりあえず分かった」
予想に反してドワーフの男はすんなりと説明を受け入れた。
「……だが、他者の「頁」を持っている理由には応えてもらう」
銃の照準は相変わらずグリムを定めていた。
命と同様の価値を持つ「頁」を持っていれば警戒するのは当然だった。
「俺は……他人の「頁」に触れることが出来る。そして「頁」を所有者から取り出せるんだ」
この世界では誰にも言っていなかったグリムの能力について開示した。
他人の胸元に触れるとグリムの手は相手の体内に入り込み、その者が持っている「頁」に触れることも、抜き取ることも出来る。それが「頁」を持たないグリムの持つ能力だった。
グリム自身何故このようなことができるのかはわからない。
他者の「頁」は見ることが出来ても触れることは出来ない。
それは変わらない世界の理ことわりとしてすべての人々が認識していた。
しかしグリムだけはその理ことわりから外れていたのである。
これまでいくつもの世界を旅してきた中で「白紙の頁」を持つ人間には何回か出会っている。しかし「頁」を持たない人間には一度も出会ったことがなかった。
確証はないが、グリムは「頁」を持たないが故に他者の「頁」に触れることが出来ると無理やり解釈していた。
「俺が聞いているのは「頁」を手に入れる能力についてじゃない。他者の「頁」を手に入れた理由だ。なぜお前はこの世界にいる馬の「頁」を持っている?」
「頁」に描かれた荷物を運ぶ馬の絵を見てドワーフの男はグリムに問い詰めてきた。
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