新お妃様は男の子

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第六話 暗殺騒動:二

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第六話 暗殺騒動:二

「流園、大丈夫…?」

「私は平気です。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません。」

盛られた毒は茸毒だった。幸い、ある程度口から出して効果を軽減させていたが、意識が朦朧としていたため宮廷医局から嘔吐薬と解毒剤を飲ませてなんとか一命を取り留めた。

「ごめん…僕の立場のせいで、こんな酷い目に…。」

「お顔を上げてください、白然様。主人を身を挺して毒から守れる事、私にとってこれ以上ない名誉でございます。」

流園は嘘でもなんでもない本心を伝えて、白然が抱えた罪悪感を拭った。
しかしこの後、目が眩むほどの手当を与えようとして、従属達と流園は必死に説得して何とか折れさせる事は、毒混入よりも大変だったらしい。

○●○

宮廷医局から真珠宮へと戻ると、仁蓮から応接間にてお客が来ていると伝えられて、向かうとそこにはいつもの優美さがなく、緊迫した様子の龍丹がいた。
こちらを見ると、少し緊張が解けた様子で事情を説明した。

「…現在、後宮では白然妃の他にも、櫻草妃、露明妃、梨樹妃、計4名の最高位妃嬪に毒が盛られました。」

「僕以外にも、3人が……!?」

毒盛り事件は想像以上に規模が大きく、〈五華妃〉のうち4名が被害に遭っていた。
幸い、妃は一人も欠けずにみんな無事であった。

毒の元は河豚の卵巣が汁物に含まれていたものらしく、それを見逃した.もしくは混入した可能性がある厨房の人間は現在全員牢に入れられて、尋問が行われているとの事だった。

「なので、現在後宮では厳戒態勢が敷かれているので、〈五華妃〉の方々には北、南、西、東、そして中央にある皇帝直轄の宮殿へと移動してもらい、騒動が解決するまではそこで住まわれてもらいます。白然様には中央の宮殿へとお住みになられてください。」

四方角、そして中央にある宮殿はそれぞれ皇族と〈守方の一族〉の御用達として使われている宮殿であり、北は〈玄の一族〉、南は〈朱の一族〉、西は〈白の一族〉、東は〈龍の一族〉の管轄下である。

そして、白然がこの後住む中央にある宮殿というのは…

「……中央って、皇宮ですか。」

そう、中央にある宮殿は皇帝が住んでいるこの世で最も尊い場所であり、唯一の場所〈皇宮〉であった。

「でも、皇宮って帝や皇后とか皇族以外が入るのは、たとえどんな場合であっても立ち入りは禁止されているんじゃ…。」

「〈五華妃〉は次期皇后最有力候補〈正一品〉、分かりやすく言えば準皇族のようなものです。帝からお呼び出しもあるので、問題なく入れます。」

そんな事は白然は聞いたことがなかった事が無く、無論こんなルールは存在しない。
しかし白然は後宮に入ってからまだ浅いため、「まだ新人だから知らなくて当然だ。」として片付けられる。

それに白然が皇宮に入る事は、帝からの勅命であることは本当であるため、龍丹が言ったことは嘘でもあるし、本当でもあった。

「後日、お迎えが参りますので、その間ゆっくりお休みくださいませ。」

そういうと龍丹は真珠宮を後にした。





その日、白然は眠れなかった。

後宮に入るのならば、さまざまな策略や謀略に巻き込まれる事は覚悟していたが、自分が暗殺の対象になってしまうのは素直に怖かった。

何らかの謀略の達成のために、自分に殺意が向けられている。そう考えるととてもじゃないが、眠れなかった。


トントン


寝室のドアを誰かが叩いて、白然はその音にビクッとして驚いたが、叩いた者の正体は里士だった。
中に入れると里士は心配した様子で、失礼しますと言って入った。

「…白然様、大丈夫ですか。」

里士は優しい口調で聞いてきた。

「…うん、大丈夫だよ。ありがとう、里士。」

白然は不自然に口角が上がった作り笑いでそう言って誤魔化そうとしたが、里士は少し諭すかのような顔で「大丈夫ですか。」と聞いてきた。

そんなふう言われてしまっては、隠そうにも隠せれなかった。

「…こわ、かった。」

白然は涙は流さなかったが、とても震えた声でそう言うと、里士は何も言わずに抱きついた。

「大丈夫、大丈夫。」

里士は幼子を慰める兄のように、片手を背中をポンポンと優しく叩きながらもう片方の手を白然の頭に乗せて、優しく頭を撫でて、そのまま安心して眠りにつくまで白然の恐怖を拭い続けた。
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