新お妃様は男の子

pope

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第一話 男の妃様

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第一話 男の妃様

「貴方は今日より、後宮の最高位妃嬪〈四華妃〉になってもらいます。」

「………………え?」

どうしてこうなってしまったのだろう、後宮の最高監督者室にて白然ハイネンは心の中でそう呟いた。
白然が今いる所は、この国で最も華やかで可憐でかつ、憎悪や謀略が渦巻いている金魚鉢の中である。

ここへ行き着いてしまう前は、いつも通り病弱な母や幼い兄弟達を養うために仕事をしに行っていたのだが、突如として宮廷の武官達によって取り押さえられてしまい、ここへと行き着いた。

最初は宦官にさせられて去勢してしまうのかと思ったのに、目の前の宦官…龍丹ロンタンから言われたのは「妃になって欲しい。」しかも、後宮の妃の中でも最高位である四人のお妃様〈四華妃〉の新しい妃になってくれと言って来たのだ。当然、断った。

「申し訳ありません‥僕には、家族がいるんです。母は病弱で、兄弟も食べ盛りだから、養わないといけないんです。」

「…事情は理解出来ました。ですが、お断りは受け入れられません。」

向こうもそう簡単には受け入れてはくれなかった。しかし白然としても、この提案を素直には受け入れることは出来なかった。

「それでも僕は家に帰りたいんです。」

「これが、帝からの勅命だと言ったら?」

「・・・・・っ。」

帝からの勅命。すなわちそれは天上の御言葉。拒否でもしたら一家揃って首が飛ぶだろう。もしこれが嘘だとしても、人間の脳は”もしかしたら”という可能性を捨てきれず、素直に受け入れざるを得ない。

「・・・ご家族のことは何も心配する必要はありません。貴方が〈四華妃〉になると言うことは、帝の庇護下に降ると言うことになります。そして貴方のご家族も自動的に帝の庇護下になります。」

「!」

「帝の庇護下になれば、今後の生活状況は生涯安泰となります。栄養の取れた食事、温かい寝床、そして地位、これら全てを保証できます。他にもご要望があるのであれば、我々後宮が全力で叶えさせて頂きます。」

確かに帝の庇護下に降るのは、喉から手が出るほどの好条件であった。白然の家はかなりの極貧であり、毎日長男である白然が難病の母と食べ盛りの兄弟達を養っていた。帝の庇護下になれば、今とは比べ物にならないほどの富を得られる。しかし、白然は龍丹の言葉に疑問を持っていた。

「・・・お聞きしたいことが、あるのですが。」

「何なりと。」

「・・なんで僕が・・〈四華妃〉の新しい妃に選ばれたんですか。」

〈四華妃〉に選ばれた妃といえば、同盟国の王族であったり、皇族に多大な貢献をした四つの名家〈守方の一族〉など高い位から、高い美貌に広い知見、かつ帝に一定以上の寵愛を受けている女性が選ばれる。それなのに平民、しかも極貧である白然が選ばれるのは、よほどの事情がない限りまずあり得ない。しかも、お手つきとして男が出るのは全くおかしくないのだが、後宮の妃にはなれない。

「申し訳ありません。それにはお答えができません。」

本人にも言えない事情があるのか、新しい妃に選ばれた答えは貰えなかった。

「・・じゃあ、なんでここまでして僕を後宮に入れさせたいんですか。」

ここまで来た方法は無理矢理そのものだったし、帝からの勅命だという脅しもかけられたものの、龍丹の「他にもご要望があるのであれば、我々後宮が全力で叶えさせて頂きます。」と言われた。〈四華妃〉と言えども、後宮を地涌自在に操ることはできないのだ。しかし先ほどの言葉には、まるで白然が後宮に命令できる立場であるかのように聞こえた。

「帝からの勅命で、貴方様を後宮に入れさせるよう。そして、後宮に入れる際条件、または要望があったら全て叶えるようご命令を頂きました。」

龍丹は白然の質問を上手く回避した。おそらく本当の答えは別だろうが、白然の質問にはちゃんと答えているし、答えも嘘ではない事実であるため、疑いも抱かない。

「急かすようで申し訳ありませんが、そろそろ、お答えをいただけないでしょうか。」

もうこれ以上は、不安要素も要望もないため、妃にならない理由も特には無かった。

「・・わかりました。僕、妃になります。」

「!・・ありがとうございます。ではこれから、あなた様の宮殿〈真珠宮〉へとご案内いたします。。」

想像できただろうか、今までずっと平民として質素な生活を送っていた少年が、ある日突然後宮の最高位妃嬪と成田なんて。しかしここは後宮、愛憎や謀略が渦巻く金魚鉢。何が起きても何も不思議でもない。

しかし、白然という少年は勅命といえどもこんな無理なお願いを聞いてしまう上に、自分よりも家族の心配をするほどのお人好し。齢十六の少年妃様は、この日を境に様々な慶事や災難に巻き込まれる。しかし白然は変わらない。その生まれついての道徳心と慈悲の心は、後宮を・・ひいては、国すら変えて行った。
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