リリオ

蓮見ぴよ子

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三代 春×高千代 祐

恋とはどんなものかしら(1) side.夏生

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「俺は、運命の人に、出逢ってしまいました」
 高一にして女遊びが激しい一つ下の後輩が悦に入った表情で口にした一言に『ひととせ』のドラム担当である俺を含むバンドメンバー三人が揃って『は?』と返す。

「一目惚れってさぁ、本当にあるんだねぇ。俺さぁ、あの人見た時さぁ、こう……遺伝子レベルでビビっときたんだよねぇ。それでさぁ分かったんだぁ。ああ、俺はこの人と出逢うために、結ばれるために、今まで人を本気で好きになれなかったんだなぁ、って」

 こいつの口から飛び出した言葉に瞬間、鳥肌が立って、こいつをどうにかしてくれ、と他力本願な想いを込めて周りを見ると他の奴らも微妙そうな顔になっていた。

 そんな中で最初に我に返ったのがリーダーの秋さんだった。彼氏持ちの余裕というやつなのだろうか、とぼんやり思う。

「ちょ、え? ハルちゃん? あんた本当にハルちゃん? 昨日、恋愛とか超ダルい面倒くさいつかセックスするだけでいいじゃん気持ちよかったらそれでいいじゃんそれだけじゃだめなの? だめなんだじゃあ無理ごめんねー、って告ってきた女の子に言い放って泣かせたハルちゃん?」

 他のメンバーが人でなしと思われるのも嫌なので一応フォローしておくと、その台詞の直後に秋さんが間髪いれず三代の頭を叩いて、次に河嶋が奴を蹴倒したところを俺がその背中を踏みつけ、奴を除いた全員でその子に土下座する勢いで頭を下げた。

 あ、ちなみに『ハルちゃん』と言うのは秋さんのつけたあだ名で本来は『春』と書いて『あずま』だ。

 と。話を戻す。高校生バンドということで軽く見られがちだが、俺たちはそれなりに本気で活動しているので、三代の言動でバンドのイメージが悪くなることは避けたい。

 もちろんあいつに謝らせないと意味がないのは分かっているが、あいつは自分のどこが悪いのか全く分かっていなかったので口先だけで謝らせても無意味だ。

 あいつは謝りたくないのにそれをさせられた不満を隠せるほど器用じゃない。良くも悪くも自分に対して正直なんだろう。

「つか、マジで昨日の今日でどういう心境の変化なん? 運命の人? 一目惚れ? え、マジで何、言うてんの? 頭、沸いとるん? 大丈夫? 頭、叩いたろか? 叩いたら元に戻るかもしれんし」

 俺らメンバー以外から見たらキツい物言いに感じるかもしれないが、怒っているとか、責めているとかではなくて、これは素だ。

 俺は口が悪い。その上、皮肉屋だ。

 これが俺なので周りからどう言われようと直す気はない。
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