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三代 春×高千代 祐
【出会い】春、到来。(1)
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「好き。俺と付き合って」
「…………あ?」
仕事場からの帰宅ついでにライブハウスにクソ生意気な従弟を迎えに来たのは良いが、たまたま目が合った、それだけの野郎にいきなり告白された。
「好き! 一目惚れ! だから俺と付き合って」
「一目惚れって……いつしたんだよ」
一方的に俺のこと知ってるのか? もしかしてストーカーとか? と疑って訊いてみる。
「今さっき!! 目、合ったとき!! ビビッときたの!!」
ストーカーじゃねぇのか。まぁ、なんか陽キャって感じでそういう類じゃなさそうだな。
つか、面倒くせぇ。
「あー……悪ぃな。俺には嫁がいるんだよ。諦めろ」
テレビやパソコンのモニタの中にだがな。いや、ゲームディスクの中っつった方がいいのか?
心の中で付け足しながら奴に告げる。さっさと家に帰ってゲームやりてぇ。
「ナンパなら他の奴にしとけ。じゃあな」
どうせすぐに諦めるだろ、と駐車場まで戻ろうと硬直してるそいつに背を向ける。しかし変な奴に絡まれた。
いつも使う駐車場じゃねぇから分かりにくいかもな、とライブハウスの前まで来たのが間違いだったか。つかなんであのクソ従弟なんぞに配慮とかしてんだ俺。
あいつに配慮とか必要ねぇだろ、と心の中で悪態をついていたら背後から腕を掴まれたので顔だけそちらを向ける。
ものすごく嫌そうな顔してんだろな、俺。
腕を掴まれたことに戸惑いはしたが、傷ついたような顔をしてる一目惚れ告白野郎に『この嫌そうな顔はお前のせいじゃないから安心しろ』と心の中で言っておく。
この顔はあいつに対する苛立ちのせいだ。
んなことわざわざ口には出さねぇがな。
とりあえず、なんのつもりか聞いとくか。腕、痛ぇし。
「おい、なん、」
「やだ、やだ! 俺、あきらめない! 絶っ対あきらめない!! 奥さんがいてもあきらめない!! だってだってだって、お兄さん、きっと……いや、絶対! 俺の運命の人だし!」
「奥さん? 俺、けっこ……あ、ぁあ、そうか……いや、つか諦めろよ」
奥さんなんて単語、俺には馴染みねぇから『結婚なんかしてねぇよ。それ以前にしたくてもできねぇよ』とか返しそうになったがあれか。
俺が言った『嫁』っつー言葉のせいだと気付いた。良かった。墓穴掘るとこだったな。
が、
「何か言いかけたよね!? そうかって何!? やっぱ結婚してなかったんだ! だって結婚指輪してないし!」
こいつは鋭かった。
「う、嘘は言ってねぇよ。嫁はちゃんといんぞ」
「それはちゃんと現実にいるの?」
「ッな!?」
バレてる。思いきりバレてる。つか女と遊びまくってますみたいな顔と服装と喋り方しといて、そういう発想が出てくる程度にはオタク系の話もいけんのかよ。
「現実にはいないお嫁さんなんだ! じゃあ、俺がお兄さんの恋人になったらお兄さんがお嫁さんになれるね! 俺の!」
「はぁ? 俺が嫁になってどうすんだよ」
「いや、だって俺、お兄さん抱きたいし」
「っぶは!!」
今の『っぶは!!』は俺じゃない。
俺は唖然としてて声なんか出なかったからな。
「おいコラ、俺に気づいてたんならさっさと声かけやがれ。んでさっさと帰っぞ」
「最初から全部見てたんだけどよォ、すっげー面白そうだったから放置しといた」
とクソ生意気な俺の従弟――駿河 駿は満面の笑顔で言い放ってくださいました。クソボケが。
「ぁア!?」
「なー、アンタ。こんな視線で人殺せそうっつーか、もう既に殺ってますみたい顔してっけど、こんなでもヒロのこと好きなわけ?」
「…………。……お前、誰?」
それはもう低い低い地を這うような声だった。
俺に対する態度と、駿に対するそれと、温度差ありすぎねぇか、こいつ。
「っはは!! もしかして嫉妬してんの? でもザーンネン。俺とヒロは、」
「…………」
「ちょ、ヒロさん! この人、ちょー怖いんですけど!! こっちも睨みだけで人殺せそうなんですけど!! つか今まさに俺が殺されかけてるんですけど!!」
駿の場合、この台詞を全て笑顔で言ってるから質が悪い。面白がってるだけなのが丸わかりだ。
あー、ほら、相手、眉間のシワがすげぇことなってんぞ。
仕方ねぇ。駿と俺がこいつの中でどういう関係になってんのか分かっちまって悪寒するから訂正しとくか。
「おい」
「! なにっ!? なになにっ!?」
「っぶは!! ご主人さまに忠実な犬ころみてぇ!! 尻尾あったらブンブン振ってそう! 面白ぇ!」
「ぁ?」
今のは俺じゃないから。俺の『ぁ?』はこいつみたいに周囲の温度、下げたりとかできねぇから。
「あー、もう。そいつの相手すんな。それよりもお前、気色の悪い勘違いしてんだろ。この発想ピンク野郎が。あのな、俺とそこのクソガキは従兄弟ってだけだ。ただの従兄弟だ。分かったか?」
「わかった!! 違ってて良かったー! そうだよね!! こんなくそチビ野郎、お兄さんに似合わないもんね!! ね、ね、お兄さんヒロって言うの? 俺はね、俺はねー。みしろ、あずまって言うのー。数字の三に、代返の代でミシロ。季節のー、春夏秋冬の春っていう漢字でアズマ。祐ちゃんって呼ぶね! 祐ちゃんだったら俺のこと名前で呼んでもいいよ! っていうか呼ばれたい! ね、呼んで! 呼んで?」
……うぜぇ。
「…………あ?」
仕事場からの帰宅ついでにライブハウスにクソ生意気な従弟を迎えに来たのは良いが、たまたま目が合った、それだけの野郎にいきなり告白された。
「好き! 一目惚れ! だから俺と付き合って」
「一目惚れって……いつしたんだよ」
一方的に俺のこと知ってるのか? もしかしてストーカーとか? と疑って訊いてみる。
「今さっき!! 目、合ったとき!! ビビッときたの!!」
ストーカーじゃねぇのか。まぁ、なんか陽キャって感じでそういう類じゃなさそうだな。
つか、面倒くせぇ。
「あー……悪ぃな。俺には嫁がいるんだよ。諦めろ」
テレビやパソコンのモニタの中にだがな。いや、ゲームディスクの中っつった方がいいのか?
心の中で付け足しながら奴に告げる。さっさと家に帰ってゲームやりてぇ。
「ナンパなら他の奴にしとけ。じゃあな」
どうせすぐに諦めるだろ、と駐車場まで戻ろうと硬直してるそいつに背を向ける。しかし変な奴に絡まれた。
いつも使う駐車場じゃねぇから分かりにくいかもな、とライブハウスの前まで来たのが間違いだったか。つかなんであのクソ従弟なんぞに配慮とかしてんだ俺。
あいつに配慮とか必要ねぇだろ、と心の中で悪態をついていたら背後から腕を掴まれたので顔だけそちらを向ける。
ものすごく嫌そうな顔してんだろな、俺。
腕を掴まれたことに戸惑いはしたが、傷ついたような顔をしてる一目惚れ告白野郎に『この嫌そうな顔はお前のせいじゃないから安心しろ』と心の中で言っておく。
この顔はあいつに対する苛立ちのせいだ。
んなことわざわざ口には出さねぇがな。
とりあえず、なんのつもりか聞いとくか。腕、痛ぇし。
「おい、なん、」
「やだ、やだ! 俺、あきらめない! 絶っ対あきらめない!! 奥さんがいてもあきらめない!! だってだってだって、お兄さん、きっと……いや、絶対! 俺の運命の人だし!」
「奥さん? 俺、けっこ……あ、ぁあ、そうか……いや、つか諦めろよ」
奥さんなんて単語、俺には馴染みねぇから『結婚なんかしてねぇよ。それ以前にしたくてもできねぇよ』とか返しそうになったがあれか。
俺が言った『嫁』っつー言葉のせいだと気付いた。良かった。墓穴掘るとこだったな。
が、
「何か言いかけたよね!? そうかって何!? やっぱ結婚してなかったんだ! だって結婚指輪してないし!」
こいつは鋭かった。
「う、嘘は言ってねぇよ。嫁はちゃんといんぞ」
「それはちゃんと現実にいるの?」
「ッな!?」
バレてる。思いきりバレてる。つか女と遊びまくってますみたいな顔と服装と喋り方しといて、そういう発想が出てくる程度にはオタク系の話もいけんのかよ。
「現実にはいないお嫁さんなんだ! じゃあ、俺がお兄さんの恋人になったらお兄さんがお嫁さんになれるね! 俺の!」
「はぁ? 俺が嫁になってどうすんだよ」
「いや、だって俺、お兄さん抱きたいし」
「っぶは!!」
今の『っぶは!!』は俺じゃない。
俺は唖然としてて声なんか出なかったからな。
「おいコラ、俺に気づいてたんならさっさと声かけやがれ。んでさっさと帰っぞ」
「最初から全部見てたんだけどよォ、すっげー面白そうだったから放置しといた」
とクソ生意気な俺の従弟――駿河 駿は満面の笑顔で言い放ってくださいました。クソボケが。
「ぁア!?」
「なー、アンタ。こんな視線で人殺せそうっつーか、もう既に殺ってますみたい顔してっけど、こんなでもヒロのこと好きなわけ?」
「…………。……お前、誰?」
それはもう低い低い地を這うような声だった。
俺に対する態度と、駿に対するそれと、温度差ありすぎねぇか、こいつ。
「っはは!! もしかして嫉妬してんの? でもザーンネン。俺とヒロは、」
「…………」
「ちょ、ヒロさん! この人、ちょー怖いんですけど!! こっちも睨みだけで人殺せそうなんですけど!! つか今まさに俺が殺されかけてるんですけど!!」
駿の場合、この台詞を全て笑顔で言ってるから質が悪い。面白がってるだけなのが丸わかりだ。
あー、ほら、相手、眉間のシワがすげぇことなってんぞ。
仕方ねぇ。駿と俺がこいつの中でどういう関係になってんのか分かっちまって悪寒するから訂正しとくか。
「おい」
「! なにっ!? なになにっ!?」
「っぶは!! ご主人さまに忠実な犬ころみてぇ!! 尻尾あったらブンブン振ってそう! 面白ぇ!」
「ぁ?」
今のは俺じゃないから。俺の『ぁ?』はこいつみたいに周囲の温度、下げたりとかできねぇから。
「あー、もう。そいつの相手すんな。それよりもお前、気色の悪い勘違いしてんだろ。この発想ピンク野郎が。あのな、俺とそこのクソガキは従兄弟ってだけだ。ただの従兄弟だ。分かったか?」
「わかった!! 違ってて良かったー! そうだよね!! こんなくそチビ野郎、お兄さんに似合わないもんね!! ね、ね、お兄さんヒロって言うの? 俺はね、俺はねー。みしろ、あずまって言うのー。数字の三に、代返の代でミシロ。季節のー、春夏秋冬の春っていう漢字でアズマ。祐ちゃんって呼ぶね! 祐ちゃんだったら俺のこと名前で呼んでもいいよ! っていうか呼ばれたい! ね、呼んで! 呼んで?」
……うぜぇ。
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