リリオ

蓮見ぴよ子

文字の大きさ
上 下
11 / 19
始まりの小さな花 / 全10話

08 あの子がいなくなった日のこと

しおりを挟む
 俺はできるだけ毎日、あの場所で友梨ちゃんを待ってた。
 ずっとずっと待ってた。だけどいくら待ってもあの子はこなかった。
 どうしたんだろう。なにかあったんだろうか。

 けど改めて思い返してみると俺はあの子のことをなにも知らない。
 俺が知ってるのはあの子の名前。
 そして少し前に中学生になったということだけ。
 だから俺には待ってることしかできなかった。

 それから数日後。

 ジャングルジムで歌ってる俺の前に友梨ちゃんの友だちが現れた。
 その子は友梨ちゃんから俺のことをよく聞かされてたと話し、俺に小さな包みを差し出した。
 その包みは前に友梨ちゃんに貰ったピックが入ってたのと同じ店の物。
 大きさも同じで中身はピックだってすぐに分かった。

 俺はその子から聞いた。友梨ちゃんのことを。
 どうして友梨ちゃんがここに来なくなったのかを。
 このピックを買いに行った帰りに信号無視の車に轢かれたことを。

 その後、どうなったのか。自分でも分かるくらいに震えた声で俺は聞いた。
 命に別状はないって聞かされて安堵の息を吐き出そうとした時に話されたこと。

 それを聞いて俺は声がでなかった。
 返す言葉が思いつかなかったんだ。

「友梨ちゃん、記憶なくしちゃったの」
 俺はその子から友梨ちゃんが入院している病院と病室を聞いた。
 この公園でしか接点のない行ってもいいのか迷った。
 でも、このままじゃダメだと俺はそこに行くことにした。

 病室に入ると友梨ちゃんがベッドの上で本を読んでた。
 前と変わった様子はない。

 ――だけど。

「友梨、ちゃん」
 と声をかけた俺に友梨ちゃんは言った。
「おにいちゃんは……誰?」
 と警戒の色を含ませて。

 頭の中が真っ白になった。
 なにかを思うよりも先にふらふらとした足どりでその場から離れて、
 病院を出ると当時に俺は走ってた。

 ただひたすら目指す場所もなく。

 俺があの時、ピックをもう一個頼まなければあの子はこんなことにはならなかった。

 だから俺のせいだと思った。
 俺が全部、悪いんだって。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

【好きと言えるまで】 -LIKEとLOVEの違い、分かる?-

悠里
BL
「LIKEとLOVEの違い、分かる?」 「オレがお前のこと、好きなのは、LOVEの方だよ」  告白されて。答えが出るまで何年でも待つと言われて。  4か月ずーっと、ふわふわ考え中…。  その快斗が、夏休みにすこしだけ帰ってくる。

処理中です...