リリオ

蓮見ぴよ子

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始まりの小さな花 / 全10話

06 答えを出した日のこと

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 友梨ちゃんと友だちになって半年近く経った二月のある日。
 いつもみたいに歌ったり、
 なんでもないようなことを話したり。

 そんな中で思い出したように友梨ちゃんが言った。
「直にいちゃんはバンドで歌ったりしないの?」
 少し悩んだあと苦笑いして首を横に振った。
「どうして? もったいないよ」
 不思議そうな顔で更に言葉を続ける友梨ちゃん。
「直にいちゃんの歌は素敵なのに。もったいないよ」
 
 俺は自分でも思ってなかったほどに単純だった。
 たった一人の女の子の言葉で、友梨ちゃんの言葉一つで、
 たった一つの言葉で、俺の世界は変わっていくんだから。

 友梨ちゃんが好きって言ってくれたから、
 友梨ちゃんが素敵だって言ってくれたから、
 俺は自分に自信が持てるようになったんだ。

 それからずっと俺は悩んでた。
 最初は自分にそんなことできるのかって。
 考えてみても答えは分からない。
 だから今度は自分の心に訊いてみた。
 やりたいのか、やりたくないのかって。

 そう考えてみると答えはすぐに出た。
 ああ。俺はやってみたい。歌いたい。
 もっとたくさん歌いたい。
 そして聴いてほしいんだ。
 俺が自信をもって好きだと言える歌を。

 それから俺は前に声をかけてくれたイサカに相談してみた。
 前回の誘いから時間が経ってるのにあいつは笑顔で言い放った。
「じゃあ、俺たちと一緒にやろう」
 って。

 当時のメンバーは三人。
 この三人は今も一緒にやってる三人だ。

 ボーカル、瀬戸井 直。
 ギター、伊坂 隼人。
 ベース、倖 修之。

 この三人でバイト、練習、残りのメンバー探しをする日々。
 そんな忙しい毎日が俺には全て輝いてた。

 俺はそんな日々のことをいつもの場所で友梨ちゃんに話してた。
 あの子はそれをいつも楽しそうに、そして嬉しそうに聞いてくれた。
 そしてドラム、サポートメンバーのキーボードも見つかり幅が広がる。
 ここから俺たちのバンド生活が本格的に始まった。

 これまでとは全く違う世界。
 これまでの俺とは全く違う俺。

 あの子がいたから俺は変わることができた。
 だから俺はきっかけを与えてくれた友梨ちゃんが笑ってくれてたら嬉しい。
 友梨ちゃんが好きだと言ってくれた俺の歌をずっと聴かせてあげたい。

 ――違う。

 俺が聴いて欲しいんだ。
 友梨ちゃんに。

 そう思ってた。
 今だってそう思ってる。
 それはずっと変わらない。
 
 三月。あの子は『もうすぐ中学生になるんだよ』って、
 それがすごく待ち遠しいんだって俺に何度も話してくれた。
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