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第13話【収益】
しおりを挟むというわけで。僕は、初めての【魔獣狩り】を何とか無事に終えると――、
お姉さんたちと一緒に『街』へ帰ることになりました。
ちなみにお姉さんたちは、中型サイズの荷車と一緒に、荷車を牽引する【駆鳥】をちゃんと【馬車ギルド】から借りてまして。僕が引っ張っていたソリ型の運搬具も、一緒に牽引してもらえました。正直とても重かったので、すごく助かりました…。
ついでに説明しますと【駆鳥】とは、ダチョウやドードー鳥のような陸走鳥類で、見た目は完全に『デッカイひよこ』ですね。空が飛べない代わりに、凄まじい速さで地上を駆け抜ける巨鳥で。とても力持ちなのに、馬より飼育&繁殖が楽チンなので、こちらの異世界では定番の乗用家畜です。とても人懐っこい性格で、デカい嘴を撫でると『クエッ♪』と甘え鳴きします。かわええ…。
ちなみにロアナ姉ちゃんは、幼い頃から実家が経営する【馬車ギルド】を遊び場にしていたので、今でも【駆鳥】をお世話するのが大好きです。かわいい光景です。
さて、それから小一時間後……。
僕たちは無事に辺境伯領都【レミントブルグ】に到着しました。
まずは街の城門を警備する衛兵さんに挨拶して。次に身分証を提示します。
いつもは街の住民用の身分証のみで入場できますが。今回は武装や荷車もありますので【冒険者ギルド】の登録証である『首飾り型の認識票』も合わせて提示します。この【認識票】は冒険者登録すると貰えるもので、首から下げた小判型の純銀板には冒険者の識別情報が【魔術工房】で刻印されています。えへへ…かっこいいです…。
ちなみに【認識票】を提示すると、辺境伯領内のいろんな街の【入街税】が無料になります。領内の【魔獣狩り】を活発化させるための領営施策ですね。
さて数分後、通行手続きも無事に終わりまして――。
石造りの立派な城門を通り抜けると……僕が暮らす街並みが見えてきました。
ふぅ…やはり初めての【魔獣狩り】で緊張してたのか、何だかホッとしますね…。
「ほら何してんのよ。早く行かないと、夕方になると買取窓口が混んじゃうわよ!」
『クエッ♪』かぷ。
「……ねぇロアナ姉ちゃん。この子さ、僕の髪を小麦だと思ってない?」
「ぷくくっ」
「くすくす…」
頭を【駆鳥】に甘噛みされたり。ふたりのお姉さんに微笑まれながら。
手綱を握るロアナ姉ちゃんと【駆鳥】に先導されて。僕らが向かったのは――、
街の南側地区にある【冒険者ギルド】レミントブルグ支部の大きな建物です。
いえ、正確にはその隣りにある『買取所』と看板の掲げられた倉庫の方ですね。
ふたりのお姉さんの説明によると。ほとんどの冒険者が荷車を借りて狩りに出掛けるので、そのまま荷車で乗りつけ出来る倉庫が『買取所』になっているそうです。
いざ『買取所』の倉庫内に入ってみますと……。
わあ、なんだか前世で見た『F1サーキットのピット風景』みたいな感じですね!
倉庫の片側にズラッと『買取窓口』と『荷車の停車場』が設けられています。
今はまだ日暮れ前なので、買取を持ち込む冒険者の姿もあまりありません。
「こんちわー。マチさんいるー?」
さて倉庫内に入ると。手前側の買取窓口も空いているのに、なぜかお姉さんたちは一番奥の買取窓口に向かい。そして、黒ギャルのベロベティさんが陽気に声をかけました。すると…――
「おや、不良娘どもが『男連れ』とは珍しいじゃないか」
買取窓口の奥に座って、紙新聞を読みながら煙管を燻らせていた――、
灰銀髪を後結びに纏めたカッコイイ妙齢の女性がニヤッと笑いました。
見るからに『この道四十年の熟練者』という覇気を感じさせる解体屋さんです。
「やほー。お肉持ってきたよー。あとこの子もよろしく~♪」
ベロベティさんが軽めな口調でそう言うと、僕の肩を抱き寄せてピースします。
どうやらお姉さんたちと【買取所のマチさん】は気心の知れた間柄みたいですね。
「まったく、いきなり査定が厳しい高級買取窓口に連れ込まれるとは、ボウヤも災難だねぇ。まあいいさ、ついでに私が見てあげるから、そこに荷車を停めな。ボウヤの獲物は……蛙だね?」
買取所のマチさんは、僕の借りた運搬具に近づくと……にやりと微笑みました。
「どれも眉間を一撃か。ボウヤいい腕してるねぇ。ふむ…細剣のように細い射創傷だけど……弓じゃないねぇ。小型の投石弓でも、自前で作ったのかい?」
「えっ、あ…はい…そんな感じです……」
す、すごいです……。
初めて見るはずの『弾痕』から、僕が開発した【銃器】の存在を見抜くなんて…。
「きっひっひっ。これだけ獲物の外傷が軽微なら肉質も上等だね。特に蛙舌の部位がまったく痛んでないのは上出来だよ。合格だね。ボウヤも次からこの窓口においで」
僕がマチさんから及第点を貰えると、お姉さんたちが『やるじゃん♪』と褒めてくれました。でへへ…。
ちなみにマチさんの世間話によると――。
弓武器は、攻撃力不足で中型魔獣も満足に狩れないため。冒険者内では『女子供の武器』と揶揄され、大剣使いこそ『冒険者の花形』とされるとか…。ところが、二流以下の冒険者が大剣で狩ってくる魔獣は、裂傷&泥汚れで廃棄部位が多く、肉質もボロボロ…。肉屋ギルドからは、良質な食肉確保に貢献してくれる【弓師】の方が歓迎されるそうです。
マチさんに『腕のいいヤツは頑張んな』と、お尻をペチンと叩かれました。
「ところで、矢じりは回収してあんのかい?」
「あっ、まだ【拳闘蛙】の体内に残ってます。あの…回収したいんですけど……」
矢の先端部分である【矢じり】は、大きく損耗しない限り再利用するのが【弓師】の常識です。毎回使い捨てにしていたら大変ですからね。
もちろん僕が今回製造した【弾頭】も同様です。多少の損耗や変形は【魔術工房】で再整形できますので。可能な限り回収して【弾頭】は再利用したいところです。
「素人がやると獲物の肉質が悪くなる。日帰りの蛙狩りなら、自分で解体しないで、この状態で持ち込みな。私が取り出して、その場で渡してやるよ」
マチさんはそう言いながら、見事な手捌きで【拳闘蛙】四匹を解体すると――。
すぐさま四個の【弾頭】を取り出し、水でザッと綺麗に洗うと、僕に手渡してくれました。
ほおぉ…あざやかな解体作業に感動して、つい見入ってしまいました……。
「さて、お次は買取の査定だね。【拳闘蛙】の買取対象は、蛙舌部位を含む【蛙肉】のみ。蛙皮革は廃棄扱いだよ。心臓部にある【Fランク魔石】は、王国法に則って強制買取させてもらうさね。さて、気になる金額だが……今回は肉質が上等で蛙舌部位も丸ごと剥ぎ取れるからねぇ。通常は廃棄含みで一匹あたり銅板三枚だが、ボウヤの獲物なら一匹あたり銅板五枚で買い取るよ。それで良ければ、書類に署名しな」
ふむふむ。蛙一匹で銅板五枚(日本円で約五千円)ですか!
つまり今回は【拳闘蛙】四匹で、銀貨二枚(日本円で約二万円)の稼ぎですね。
対して出費は、運搬具の貸出料が銅板一枚と、消耗した銃弾四発分の【魔石火薬】が銅貨六枚なので。全部で銅貨十六枚(日本円で約千六百円)になりますから…――
初めての【魔獣狩り】の収益は、日本円で『約一万八千四百円』ですね!
わーい、やったぁー。
さて、僕がホクホク顔で買取書類に署名していると――。
僕の背中にむぎゅっと抱き寄りながら、ベロベティさんが陽気に言いました。
あ、あの…背中に…ぽ…ぽよん…って。
「ねぇねぇ~マチさん。この子、今日が初狩猟なんだって。だから蛙舌のいいとこ、ウチらが買い取りたいなぁー♪」
「ほう…そいつは縁起が良いねぇ。なら蛙舌の塊肉一匹分で……銅板一枚だね」
「えっ、ちと安くない? いいの?」
「きっひっひっ。私からの祝儀さ。お前たちが祝ってやるんだろ?」
マチさんはニヤリと微笑むと『しっかりやってやんな』と言いながら――。
蛙舌の塊肉を包んだ紙袋を、ベロベティさんに手渡しました。かっこいい…。
この時、僕は初めて…――
この人たちのような【冒険者】に僕もなりたいなぁ…と、心から思ったのでした。
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
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【稼ぎ】
△銀貨二枚(狩猟リザルト/【拳闘蛙】単価:銅板五枚を四体売却)
【出費】
▲銅板一枚(運搬具の貸出料/一日分)
▲銅貨八枚(Fランク魔石・八個を購入。消費弾薬四発分の補充)
【残金】
・銀貨二十枚、銅板八枚、銅貨二枚(日本円で二十万・八千・二百円)
【備品】
◆魔改造デリンジャー銃(二丁)
・魔獣骨 (バネ素材の余り)
・ネジ回し(一本)
◆弾丸 (三十発)
・試射台 (石製)
◆拳銃帯 (革製。拳銃鞘と弾薬盒二つ付属)
◆メリケンナイフ(黒銀鋼製)
・調理器具セット(黄道鋼製。平鍋と風防五徳と魔石焜炉の三点セット)
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