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第12話【不良少女】
しおりを挟む僕はお姉さんたちに地面から起こしてもらうと、お互いに自己紹介をしました。
まずは僕を助けてくれた、金髪&褐色肌の【黒ギャル】のお姉さん――。
お名前は【ベロベティ・ブローニング】さん。年齢は僕より五つ年上の十七歳。
レミントン辺境伯に仕える家臣団の重鎮で【弓師ギルド】や【弓工房】の運営権を持つ大身の陪臣【ブローニング家】の三女だそうです。
そして次に出会った、黒髪&白雪肌の【白ギャル】のお姉さん――。
お名前は【フェラーラ・ウィンチェスター】さん。年齢は同じく十七歳ですね。
レミントン辺境伯に仕える家臣団の筆頭で、諸侯軍の指揮権を持つ軍団長職と弓術指南役を歴任する大身の陪臣【ウィンチェスター家】の三女だそうです。
おふたりとも…すごい名家のお嬢様でした……。
何でもふたりは実家が近所同士の幼馴染で。陪臣家の三女という似た境遇から意気投合した【不良仲間】なのだそうです。
では、どうして【不良少女】になったのか――。
僕も陪臣家の六男なので理解できますが。この異世界は、男子血統を重視する貴族社会です。陪臣家の娘では、どれほど弓術に優れても家督は継げず。女性では諸侯軍の門戸も狭く。陪臣家の三女という肩書きでは、嫁入り先も高望みできず……むしろ『嫁より武芸下手』と噂されるのを嫌気され、嫁の貰い手も見つかるかどうか……。
そこでふたりは『ならば己で身を立てよう』と誓い合い。幼年学校の卒業と同時に実家を出奔すると――そのまま【冒険者】になったそうです。凄い行動力ですね!
そしてその後、持ち前の技量で頭角を現すと。同じ境遇で悩む『幼年学校の後輩』を徒弟制度で仲間にして。現在は、三人一緒に冒険者生活を楽しんでいるそうです。逞しいですねぇ…。ちなみにその仲間にした『幼年学校の後輩』というのが――
最後に登場した、蜜柑色の短髪&潤肌な【女子中学生】のお姉ちゃんですね。
彼女の名前は【ロアナプラ・ネッカーズルム】で、年齢は僕の二つ年上の十四歳。
レミントン辺境伯のお抱え御用商人で、王都と辺境伯領を結ぶ【駅馬車ギルド】の運営母体でもある政商【ネッカーズルム家】の五女ですね。僕の幼馴染になります。
幼年学校では、僕以外で【魔術工房】が行使できるただひとりの生徒だったので、よく一緒に勉強したものです。猫可愛がりイジリされながら……。
ちなみに平均身長が高めの異世界において、彼女は僕と同じくらい低身長なので。騎乗術は抜群でしたが、武術成績はだめだめです。
現在は【冒険者ギルド】の徒弟制度を利用して。ふたりのお姉さんと暮らしながら掃除洗濯などの雑用や【魔獣狩り】での荷物番をやっているそうです。要は僕と同じ【丁稚奉公】ですね。まあ…商家子女の嫁入りは『販路拡大への賄賂』という側面が強いので。どうやら『丁稚奉公を兼ねた家出』というのが真相みたいです。
「――なるほど。陪臣出身の子だったのか……」
「あはは…どうりで礼儀正しいと思ったよぉー…」
さて…ところで。なぜか不思議なことに……。
僕の自己紹介を聞いて……ふたりのお姉さんが、どこか寂しそうに微笑みました。
なんだか母親に叱られる幼い子供のような、気まずげな表情にも見えます。
あっ…そうか……。
ひとつ思い当たることがありました。
この異世界における貴族社会の常識だと。陪臣家の子女が、今まで畑仕事もせずに寝食に恵まれたのは家格のおかげであり、当主の勧めで婚姻を結び、御家発展に報いるのは陪臣子女の義務――。
それなのに、実家を出奔して【冒険者】をやっているふたりのお姉さんは、世間では『陪臣家の恥さらし』と蔑まれる存在なのでしょう。後で聞いた話ですが、実際にお姉さんたちは【不良少女】として領内では有名なのだとか……。
おそらく…あの寂しそうな笑顔は…――、
せっかく仲良くなったのに、嫌われちゃうのかな…という表情ですね……。
もう、そんなこと気にしなくて良いですよぉー。
【前世の記憶】を得たことで価値観が刷新された【僕】としては、お姉さんたちの『生き方』を応援したいぐらいです。
僕がなにも気にせずに、にこりと笑顔のままでいると……。
黒髪&白雪肌のフェラーラさんは『あれ?』と不思議そうな表情をしました。
一方、金髪&褐色肌のベロベティさんは、何だか嬉しそうに微笑んでますね。
で、そんなふたりを見ながら蜜柑色&短髪のロアナ姉ちゃんは……なぜか自慢げにドヤ顔しています。わぁ…これがウザ可愛いってやつですか……。
「それにしても、コルトは何であんな場所でご飯食べてたのよ?」
「えっと、その…いい天気だから…見晴らしの良い場所で…食べようかなって……」
ロアナ姉ちゃんの質問に対して、僕がモジモジと正直に答えると……。
「あははっ。この辺りで休憩する時は、小さな樹木の下がいいよぉ~。枝が邪魔するから猛禽類も襲いづらいんよー」
「ふふっ…上空で旋回する【盗賊鳶】は、冒険者が解体した魔獣の残肉漁りが狙いだけど。相手が女子供だと普通に襲ってくるんだよ。今度からは、たまに視線を上空に向けるといいね。【盗賊鳶】は警戒心が強いから、それだけで襲われなくなるよ?」
ふたりのお姉さんに、けらけらと明るく笑われちゃいました。ふぇーん…。
でもそんな新米冒険者の僕にも、ふたりのお姉さんは優しく助言してくれました。やっぱり優しいお姉さんたちです。ただ、あの…そんなに身体を寄せられると…いい匂いがして…ドキドキしちゃいます…。
「それにしても【冒険者ギルド】のヤツら、誰か助言してあげればいいのに……」
そんな僕らをよそに、小さな身体で仁王立ちしたロアナ姉ちゃんが、不機嫌そうにボヤきます。ちょいおこです…。
それを聞いたふたりのお姉さんは、やれやれと苦笑しながら、ロアナ姉ちゃんの蜜柑色髪を優しくぽんぽんと撫でました。あぁ仲良いなぁ…。
「まあ、庶民からすると貴族も陪臣も一緒だからね。変に不興を買いたくないから、私たちみたいな陪臣出身だと『腫れ物扱い』されちゃうんだよ……」
「ウチらも【冒険者】に成り立ての頃は、誰もなにも教えてくれないし。随分と苦労したよねぇ~フェラちゃん?」
ふたりのお姉さんは、僕を挟むように両側から肩に手を置くと、ちらっと僕の顔を見ながら苦笑いしました。おそらく僕に『同じ苦労するかも』と暗に教えてくれてるようです。本当に優しいお姉さんたちですね…。ただ、その…そんなに身体を寄せられると…胸が…ぽよんと…。よ…よくないですよぉ~!
「ところで、コルトくんは今日が初狩猟なんだよねぇ?」
「えっ、あの…そうです…けど…?」
僕の右隣りにいた黒ギャルのベロベティさんが、僕の右腕に絡みつきながら、僕の顔をジッと見つめてきます。あ…あの…顔がすごく近いです…。どきどき…。
「へぇ…そうなんだ。それなら今夜は、コルト君の【初矢祝い】だね…ふふっ」
「は、初矢祝い…ですか?」
僕の左隣りにいた白ギャルのフェラーラさんも、幾筋か金髪が混じる黒髪を指先でイジりながら、僕の瞳をジッと見つめてきます。わぁ…髪の毛から…いい匂いが…。
「えっと、あの…【初矢祝い】とは…なんでしょうか?」
「ふふーん。しょうがないわね。あたしがコルトに教えてあげるわ!」
僕が質問すると。僕の正面でデーンと仁王立ちしたロアナ姉ちゃんが、小さな胸をむんっと張りながら丁寧に説明してくれました。
何でも【初矢祝い】とは――、
初狩猟の少年が、初めて獲物を仕留めた時に催される猟師伝統の祝宴だそうです。初狩猟の少年が射た『初獲物』は、森の精霊の祝福が宿る縁起物とされ、その料理を猟師仲間に振る舞う事で、武運を祝して貰います。要するに『一人前の猟師』になる承認儀礼ですね。
「ちなみに、コルト君はまだ狩りしていくの?」
「あ…いえ、もう帰るつもりでしたけど……?」
僕がフェラーラさんの質問に答えると……三人のお姉さんがニヒッと微笑みます。
そして、向日葵のような笑顔を咲かせたベロベティさんが、僕の肩を抱き寄せながら元気に言いました。
「ならちょうどいいねぇ~。今夜は一緒にお祝いしよう!」
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
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