異世界ガンスミス!

書記係K君

文字の大きさ
上 下
11 / 20

幕間【門番兵の会話】

しおりを挟む
 

「どうもお疲れさまです」

「おう。ボウズも気をつけて行けよ」

 ……。
 あの少年、先週も来てたよな?

「はい。何でも街の外で、弓の練習してるらしいッスよ」

 弓の練習?
 それなら街中の【弓師ギ アーチャー ルド】で訓練場を借りれば良いものを……。

「そうなんスけどね。何でも、街中だと『音』が気になる…とか?」

 ああ……。
 周囲の視線やヒソヒソ声……。いわゆる『雑音』というヤツだな。

「雑音? どういう意味ッスか?」

 そうか、お前は庶民コモンズ出身だから、知らないよな。
 あの少年は、レミントン辺境伯家にお仕えする陪臣【マグナム家】の六男坊だよ。

「げぇ…いいとこの御曹司だったんスか。どうりで言葉使いが丁寧なわけだ……」

 むしろ問題なのは……母親の血統だな。
 レミントン辺境伯家の次期当主は、現当主ラアゼルフォン翁の御長男ライオネル様が継承予定なのは、さすがのお前も知ってるよな?
 その次期当主のライオネル様には、異母兄弟も多いが……同じ御母堂から生まれた妹君がおひとりいらっしゃるのだ。名をレライエ様と云う――。

「あっ、それは知ってますよ。たしか『レミントンの宝石』とか言われた姫君ッスよね? 酒場の吟遊詩人が唄う『駆け落ち恋愛』の人気演目ッスよ!…――え?」

 はぁ…。そのレライエ様だよ。あの唄は……二十年前のほぼ実話なんだ。
 当時のレライエ様は、その可憐な美貌と豊かな教養から『王家入り』も噂されていたんだが…。ライオネル様の幼年学校からの御学友である、マグナム家当主ウルト殿に一目惚れされてな。あの唄は、ご家族や家臣団に結婚を反対されたレライエ様が民衆を味方につけるために……わざと流したものだ。

「うわ、あの家臣団の狸オヤジを手玉に取る痛快劇は、ホンモノだったんスか!?」

 実際に、当時の家臣団は猛反対したらしいからな……。
 なにせ貴族社会は血統主義だ。貴族は貴族同士で婚姻縁組するのが普通で、配下の陪臣家に娘を降嫁させて『血を分ける』のは、家臣団にとって最上級の褒美渡しだ。それを…大身の陪臣家を差し置いて、あろうことか小身の貧乏陪臣【マグナム家】に次期当主のライオネル様が溺愛する妹君・レライエ様を嫁がせるときたら……。

 しかも、もともとウルト殿個人は優秀な方で、諸侯軍ではライオネル様の懐刀として有名でな。ライオネル様だけは婚姻話を喜ばれたらしい。これで血筋まで整えば、ライオネル様が当主の座を継承された際に【マグナム家】が要職に重用される可能性は高まる。そのシワ寄せで要職を外されかねない家臣団の重鎮としては……さぞ業腹だったのだろう。

「はぁ~それで『あの唄』みたく困難を乗り越えて、ふたりは結婚したんスねぇ……」

 うむ。その後は子宝にも恵まれ……しばらくは『運』も味方した。
 血統主義の貴族社会では『髪色』こそ血統証明とする風習がある。お前も知ってるだろうが【レミントン辺境伯家】は金髪碧眼の御一族だ。もちろんレライエ様も金髪碧眼で在らせられる。ところが生まれた五人の子息は……いずれもウルト殿の血筋が色濃い『赤髪』だった。このことで家臣団の連中も、ようやく溜飲を下げたらしい。

「あれ、でもさっきのボウズは…――?」

 ああ…そうだ……。
 今から十二年前――【マグナム家】に金髪碧眼の六男坊が生まれてしまった。
 陪臣家にとって『金髪の御子』とは、辺境伯家に血分けされた『誉れ』の証明だ。実際、過去に血分けされた大身の陪臣家では『金髪の御子』が生まれると、序列をイジッて当主に据える事さえあるらしい。それだけ陪臣家にとって『金髪の御子』とは権威を示す絶対的存在なんだ。実際に、領民の支持も得やすくなるしな。

「うひゃ~そんな子が生まれたら、また家臣団の内部で妬まれちゃうッスね!」

 それどころの騒ぎじゃない……血筋が良すぎるんだ。
 もし仮に、辺境伯家に御子断絶の惨事が起きた場合、本家出身のレライエ様の血筋にして『金髪』の血統証明を持つ六男坊には、辺境伯家へ養子入りして【レミントン辺境伯】を爵位継承する道筋も出てくるからな。

「ええっ、あのボウズ、辺境伯爵位の継承権があるんスか!?」

 まあ継承順位はかなり低いが、一縷にも在るのが問題だな。
 口さがない家臣の一部は、御家転覆の火種になりえると不安を煽ったり、謀反の兆しありと黒い噂を流布するなど、陰に陽に【マグナム家】の排斥を謀ったらしい……。

「うひぃ…お貴族様の政治はこわいッスねぇ……」

 貴族や陪臣は、それでメシを食ってるようなもんだからな……。
 もう二百年も大きな戦乱がないんだ。大身の陪臣家にしてみれば、家臣団の勢力調整がメシの種なのさ。

「はぁ~おっかねぇ……。あんな可愛らしい少年が、領内騒乱を招く問題児ッスか……」

 その可愛らしい見た目が災いしたのか、武芸者としては落ちこぼれらしいがな。
 ウルト殿が、あの少年の諸侯軍入りを早々に諦めて【職工人クラフターギルド】へ丁稚奉公に出して『平民落ち』を表明したことで、最近ようやく領内に平穏が戻ったわけだ……。

「つまり今日も平和なのは……あのボウズの背丈が、小っこいおかげッスね!」

 んぅ?…まあ…そんなとこだな……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

望まぬ世界で生きるには

10期
ファンタジー
沢渡佳乃、彼女は何処にでもいる凡人だ。唯一人とは違うことは狩猟を嗜む程度で、それ以外にこれといった特徴はない。 ありきたりの毎日を送っていた佳乃はある日、女子高生に巻き込まれて異界の地へと飛ばされてしまう。 少々甘えたな女子高生・美琴に壁にされる事が多いが、聖女ではない佳乃は唯々その世界で生きるため、最善の選択をするのであった。 2018/04/27

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...