異世界ガンスミス!

書記係K君

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第4話【素材探し】

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 僕は『ネジ』の開発に成功すると――、
 次の日から『バネ』の開発に着手しました。

 『バネ』とは、物体の弾性を利用した工業部材です。
 【銃器】の駆動に『バネ』は必須です。指先で引いた『引き金トリガー』が元の位置に戻るのも、起こした『撃鉄ハンマー』がトリガーを引いた事でカチンッと弾丸底プライマーを叩くのも――、すべては『バネ』の弾性を利用した内部構造だからです。


 ――――――ペキン。


 さて、いつものように昼日中は丁稚奉公に勤めて。
 夜の自由時間に『バネ』の研究開発を始めてから、四日目の夜です。


「うーん。また失敗ですか……」


 ビックリ箱に使うような『圧縮すると反発するバネ』が欲しいのですが……。
 僕の手元には、ポッキリ折れてしまった円筒コイル状の『バネ』の試作品。
 じつは現在、『バネ』の研究開発に難航しております……。

 開発初日、まずは普通に【黒銀鋼】で円筒コイル状の『バネ』を造形したところ。
 あまりの硬さに……少しも『バネ』が収縮しませんでした……。
 どうやら【黒銀鋼】は硬度が高過ぎたようです。

 この数日間は、弾力性を求めて【黒銀鋼】に『軟化』術式を付与した『バネ鋼』で試作中なのですが……。今度は脆弱すぎて、指先に力を入れると、そのままペキッと折れてしまいます。む、難しいです……。


「そういえば、僕は明日お休みでしたね……」


 こちらの異世界では、安息日として週一日は『お休み』が貰えます。
 お店は営業できるように、交代制のシフト勤務です。


「せっかくだから……なにか別の素材を、商店街で探してみますか?」


 何といっても、ここは【異世界】ですからね。
 どこかに使い勝手の良い『異世界産のバネ素材』が転がっているかも……。
 あぁ…いやいや、さすがにそんな都合良く見つかるわけが――


  ◆◇ ◆◇◆ ◇◆


 ありました。
 普通に売ってました。弓の素材として。


「まさか【魔獣】の骨とは……異世界って感じがしますねぇ…」


 僕は自分の部屋に戻ってくると。机の上に置いた【魔獣骨】を観察します。
 弓工房の店員さん曰く、小型の草食種から剥ぎ取れる【魔獣骨】は流通量も多く、値段がお手頃。それでいて、それなりに頑丈で加工もしやすく、合成弓コンポジットの素材などに人気なのだそうです。

 今回は実験も兼ねて、小ぶりな【魔獣骨】を数本購入。お値段は銀貨五枚でした。
 ちなみに高級素材の【竜骨】だと一軒家が買える値段になるとか。あわわ…。


 こ…こほん。それでは気を取り直して――、
 まずは早速、僕の【魔術工房マギクラフト】で【魔獣骨】を加工してみましょう。


 魔獣素材は【魔素マナ】を微量に含むので、天然素材よりも【魔術工房マギクラフト】との親和性が高いと聞きます。実際にやってみると……なるほど、これは加工しやすいですね。

 あっという間に【魔獣骨】を、何本かの板棒状スティックに加工できました。
 見た目は『アイスの棒』が真っ白になった感じ、ですかね。


 さて、僕は板棒の端を持ち、反対側の端を指先でグッとしならせて……離すと。



 ――――――ビイィ…ン!



 おおっ。ほどよい弾力性と復元力。これは理想的な『板バネ』ですね!
 これがあれば『引き金トリガー』や『撃鉄ハンマー』といった【銃器】の内部機構を作れますよ!

 ただ、残念ながら【魔獣骨】の材質だと、円筒コイル状の『コイルバネ』を造形するのは難しそうですね……。利便性が高くて省スペースな『コイルバネ』を造形できれば、僕の大好きな――ジャキッと『回転式弾倉シリンダー』を横に振り出す、あのカッコイイ【リボルバー銃】が作れたのですが……じゅるり。


「……いやいや。油断は禁物です」


 僕は両頬をぺちぺちと叩くと、気を引き締めます。
 最近は【銃器開発】が楽しくて、少し浮かれている自分がいますね……。
 前世の【ラノベ】では、主人公が調子に乗った時こそ『落とし穴』がありました。
 じつに示唆に富んだ『様式美テンプレ』ですね。良き教訓です。気をつけましょう。

 次弾装填や排莢を自動化した【オートマチック銃】は言うまでも無いですが――、
 『回転式弾倉シリンダー』による連射性能に加えて、銃本体フレームの堅牢性と装填時間リロードの短縮を両立させた【リボルバー銃】は、それなりに内部構造も複雑です。

 調子に乗って【銃器開発】を進めれば、暴発事故などで大怪我を負いかねません。
 全てにおいて【銃器開発】とは、慎重であるべきです。深呼吸しましょう。


「……そもそも十二歳の子供である僕に、重量一キログラム以上の【リボルバー銃】なんて使いこなせるのでしょうか?」


 …………はい。無理ですね。僕は『ちっこい』ですから。

 さらに言えば、素材である【黒銀鋼】の残量は少ないですし……。
 僕が構築する【魔術工房マギクラフト】には、錬成質量・約二〇〇グラムの上限もあります。
 そうすると、まずは子供でも扱える『小型拳銃』で、堅牢性を優先したシンプルな内部構造の【銃器】が良さそうですね……。


「よしっ決めました。僕が最初に作るのは……【デリンジャー】にします!」


  ◆◇ ◆◇◆ ◇◆

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【稼ぎ】
 ・なし
【出費】
 ▲銀貨五枚(魔獣骨を購入)
【残金】
 ・銀貨三十五枚
【備品】
 ・黒銀鋼(ひと握り)
 ・ネジ (数本)
 ・板バネ(数本。魔獣骨素材)
 ・魔獣骨(バネ素材の余り)
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