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第3話【銃器開発Ⅰ】
しおりを挟むさて、その日の夜――。
僕はいつものように工房内の雑用をこなし、夕飯を食べ終えると。三階にある住み込み部屋に戻りました。部屋にあるのは小さな机に箪笥とベッド。物置のような狭さですが、一応は個室です。
扉柱に掛けてあった角灯に明かりを灯して――、
僕は、小脇に抱えて大事に持っていた『紙包み』を机の上に置きました。
包み紐を解けば……そこには漆黒色の鉱物が!
はい。今朝がた、親方に頼んで購入した【魔鉱石】です。
うへへ。顔がニヤけちゃいますねぇー。
今回購入したのは――【黒銀鋼】――という魔鉱石です。
黒曜石のような光沢ある、前世の『鉄鋼石』と似た性質をもつ謎鉱物です。
ひと握りの【黒銀鋼】で、重さは約一キログラム。
お値段は銀貨五十枚。日本円で……およそ五十万円します。とても高価です。
異世界の庶民は、月に銀貨十五枚(日本円で約十五万円)程度あれば、大人ひとりは普通に生活できると言われています。やっぱり【黒銀鋼】は高価ですね……。
ちなみに【石工ギルド】で『見習い徒弟』をしている僕ですが――、
じつは毎月、銀貨五枚の『お小遣い』を貰えています。だから支払えました。
あっ。本来の徒弟制度であれば、見習いは無給ですよ?
親方が、見習いに職業訓練を施しながら、その衣食住も世話するからです。
その代わりに見習いは、親方のもとで、住み込みで丁稚奉公するわけですね。
貧家からの丁稚であれば、ご飯が食えるだけ『御の字』と言ったところです。
では、なぜ僕は給金を貰えるかと言えば――僕が【魔術師】だからです。
僕が構築する【魔術工房】は、まだ熟練度が足らず、大物石工はできません。でも小物細工に関しては、親方から『筋がいいぜ』と認定されています。
そこで【石工ギルド】の工房長が、十五歳未満の子供だけど、半人前の職工として『定額制の小遣い』を支給する――と裁定してくれたのです。太っぱらです。
まーこの裁定は、僕が陪臣家の出身である事や、貴重な【魔術師】を囲い込む意味合いもありそうですが。
とにもかくにも。十歳の頃から丁稚奉公に勤め、今年の春で三年目……。
毎月コツコツと貯金していたので、僕には手元資金が銀貨九十枚ほどあります。
今回の【黒銀鋼】購入で、開発資金の半分をつぎ込んでしまいましたけど。
我が貯金に一片の悔いなし、ですね。
さあ、いよいよ【銃器開発】の始まりです――!!
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
と、めいっぱい意気込みはしましたが……。
僕はまだ半人前の【魔術師】です。僕が構築する【魔術工房】では、一度にできる加工量も少ないです。ちなみに、血液中の【魔素】を一度に使い過ぎると、酸欠ならぬ『魔力切れ』を起こして倒れてしまうので注意しましょう。
さらに言いますと……。
僕の【魔術工房】で錬成できる対象物の質量は、約二〇〇グラムまでが限界です。
まあ、どのみち【銃器】は内部構造が複雑なので。結論として、完成品の【銃器】丸ごとを、いきなり【魔術工房】でポンッと造形するのは不可能なのです。
そこで今回は――【銃器】を部品単位で造形して、組立式にする必要があります。
そのためにも、まずは『ネジ』を作りましょう。
『ネジ』とは、別個の部材を締結する固着具です。
前世では『ねじ構造』の普及により、部材に互換性が生まれ、加工技術が飛躍的に発展しました。産業革命の礎にして『産業の塩』と呼ばれる基幹技術です。
もちろん組立式の【銃器】にも、必須の部材となります。がんばるぞー。
僕は、机上に羽根ペンと定規と紙を置くと――まずは『設計図』を書き始めました。対象物の具体的な錬成結果を、図面に書き起こすのは【魔術工房】の基本です。
数十分後、いい感じに『ネジ』の図面を書き終えました。
それでは次に【魔術工房】で造形してみましょう。ワクワクしますね。
僕は体内の【魔素】を練り上げると――【魔術工房】の魔法陣を構築します。
直径二〇センチメートル程の、幾何学模様の円陣が淡く輝きだすと――、
机上に置かれた【黒銀鋼】から、数グラムが削り取られ……虚空に浮かびます。
さあ、ここからが重要です……。
【魔術工房】とは、『術者が作業の実現性を確信できる範囲の事象』を再現するものです。つまり脳内で『製造工法』をしっかりイメージする必要があります。
そして多くの石工職人は、自身が石彫りした経験から『切削』術式を【魔術工房】に転用して、ガリガリと削りながら石材を加工します。
でも……想像してみて下さい。前世で見たあの小さな『ネジ』部品。
あの綺麗な均一の間隔と深さで刻まれた『螺旋状の溝』を、ちまちま石彫りで再現したくないですよね……。
そこで僕が今回やりたいのが――『積層造形法』です。
ずばり、前世で憧れた『3Dプリンター』の製造工法をマネする作戦ですね。
うまく出来れば『設計図』と術式を転用して、量産体制も作れちゃいますよー。
僕の構築した【魔術工房】の魔法陣内で――、
粘土状になった【黒銀鋼】が層状に敷き詰められ、立体を象り始めます。
造形開始から約五分後……。
最後に組織全体を『結合』術式で硬化させれば……。
――――――チャリン。
「わっ。思ったより上手に出来ました!」
コロコロと机上で転がる――漆黒の金属製ネジ。
僕はそれを指先で摘まむと、しげしげと眺めてしまいます。にやにや。
耐久試験として、木槌でドコッと叩きつけて――うん。欠損なし。完璧です!
その後、嬉しくなって『ネジ』を何本か『複製』しちゃいました。
あ、頭がふらふらします。もう魔力残量が限界です……。
「うへへ。この調子なら…すぐに【リボルバー銃】も完成しそう…で……すやぁ」
僕は、のそのそとベッドに潜り込むと――そのまま眠りに落ちるのでした。
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【稼ぎ】
・なし
【出費】
▲銀貨五十枚(黒銀鋼を購入)
【残金】
・銀貨四十枚
【備品】
・黒銀鋼(ひと握り)
・ネジ(数本)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■おまけ■
異世界の貨幣について!
・銅貨1枚 (日本円で 100円)
・銅板1枚 (日本円で 1000円)
・銀貨1枚 (日本円で 1万円)
・銀板1枚 (日本円で 10万円)
・金貨1枚 (日本円で 100万円)
・金板1枚 (日本円で1000万円)
・白金貨1枚 (日本円で 1億円)
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