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第2話【魔術工房】
しおりを挟むどうもこんにちは。僕の名前はコルトと申します。
ここで少しだけ、僕が暮らすこの異世界について確認してみましょう。
僕が暮らす異世界は、中世欧州風のファンタジー世界になります。
社会制度は、王侯貴族が領地領民を統治する封建制です。ラノベのお約束ですね。
こちらの異世界の人々は、血液に含まれる【魔素】の影響で、体格もデカくて筋肉ムキムキです。街を歩けば、筋骨隆々の大男だらけです。筋肉です。
そしてこの【魔素】含有量には遺伝性があり、貴族社会はかなりの血統主義です。
ただの【庶民】は体格が恵まれる程度ですが。領土防衛を司る良血統の【貴族】になると、素手で猛獣と殴り合える程に身体能力が強化されます。マジ筋肉です。
しかもさらに、数十人に一人の割合で――【魔術師】――が生まれます。
この【魔術師】とは、【魔素】を体外放出できる特異体質者の事を言います。
血統や魔力量は関係ありません。ただの『体質』なのだそうです。
さて【魔術師】と聞けば、胸がトキめくものですが……。
火球を飛ばす『ファイアーボール』とか。そんな魔法っぽいモノはありません。
どちらかと言えば、等価交換を原則とする『錬金術』の方がイメージに合うかもしれませんね。『無』から『有』は生み出せません。思ったより異世界はケチです。
【魔術師】は、血液中の【魔素】を消費する事で――【魔術工房】――を構築できます。魔法陣みたいなモノですね。あとは材料を用意すれば、道具が無くても貴金属や秘薬を錬成できます。基本的には『術者が作業の実現性を確信できる範囲の事象』を省エネで再現できる……そんな感じのシロモノです。
戦場で華々しく武勲を立てる【騎士】に対して、裏方で生産技術職を務めるのが【魔術師】です。すごく地味です。やっぱり筋肉ですよ。
さて斯くも【魔素】は、多くの恩恵を人間に与えましたが――、
その恩恵は、なにも人間以外の『野生動物』だって例外ではありません。
前世と比較して、この異世界の野生動物は……とてもデカくて凶暴です。
特に【魔素】含有量が多くて凶暴な野生動物は――【魔獣】――と呼称されます。
【魔獣】とは、本当に厄介な存在です……。
街間の物資輸送を脅かし、領土や農耕地を拡張する妨げとなります。領民が増えても、農耕地は狭いまま……。異世界の人類は、常に食糧問題を抱えているのです。
さあ、そこで異世界の人類は考えました。
『魔獣がジャマで麦が足りないなら、魔獣を喰えばいいんじゃない?』
現在、異世界の人々は食糧調達を【魔獣】の肉に頼っています。
農家のオジサンが『夕飯の肉を狩ってくる』と言いながら、デカイ棍棒を掲げて、鼻歌まじりに【魔獣】が生息する森に出掛けて行く。それが異世界生活における日常の風景なのです。筋肉ですねぇ。
というわけで。僕が暮らす世界は――、
魔獣素材の大剣や鎧を装備した【冒険者】が、食糧調達のために【魔獣】を狩る。
モンスターハンティングな【異世界】なのです。
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
翌朝。僕は治療院を無事に退院すると――、
僕が所属している【石工ギルド】の工房に向かいました。
レミントン辺境伯家が統治する南部最大の領都【レミントブルグ】の街中は、朝の活気でとても賑やかです。軽食の露店屋がいい匂いですねぇ……。
さて、中央広場の露店市場を通り過ぎると【職工地区】に到着です。
この地区は、いろんな【職工人ギルド】が集まるエリアです。
どこの工房も、街道に面した長方形の敷地に、木造三階建ての建築物です。
中世ヨーロッパって感じの光景ですね。
ほとんどの場合、一階部分が作業場となる工房で。二階と三階部分は、職人たち用の住居になっています。僕も、今は【石工ギルド】に住み込みで修業中の身です。
ちなみに、どうして陪臣家出身の僕が【石工ギルド】で丁稚奉公しているのか。
その理由は、いくら領内では半貴族扱いの陪臣家でも、子供全員に家督や要職は用意できないからです。
後継ぎの長男と、予備の次男は実家に残らせて――、
それ以外の三男以降には、ほんの少しの支度金を渡して『自立の道』を探らせる。
それが貴族社会の『習わし』なのです。なかなか世知辛いですねぇ……。
さて、閑話休題――。
「おはようございます。ただいま戻りました」
僕は一階の工房に顔を出すと、まずは元気に朝の挨拶です。
すると、僕が師事している筋肉ムキムキの親方が『おうコルト、生きてたか!』と豪快に笑いながら、僕の頭をガシガシと撫でてきます。いたた…やめれー。
「ところで親方、実はお願いがあるんですが……」
「おう何だ。オマエに娼館はまだ早いぞ」
「ち、ちがいますよ! 自分の練習用に【魔鉱石】を買いたいんです」
【魔鉱石】とは、普通の鉱石とは違って【魔素】を含む『鉱石類の総称』です。
硬度が高すぎて、普通の工法では加工できません。一方で【魔術工房】を使えば、紙粘土のように楽々と加工する事ができる『異世界産の謎物質』になります。
「ほう感心だな。うちは【石工ギルド】だからな、言葉どおり『売るほど』あるぞ。欲しけりゃ少し値引きしてやる」
「やった、ありがとうございます!」
「そんな事より、腕は鈍ってねぇだろうな。ちょうど手頃な彫刻依頼が来てるから、やってみろ」
親方はそう言いながら、拳大の石材と依頼図を僕に手渡してきます。
おぉー。今朝は暇なのか、僕に指導してくれるようです。これは幸運ですね。
僕は親方が見守る中、工房内の作業机に座ると――、
早速、体内の【魔素】を練り上げていきます。
僕の指先から、ぼんやりと魔光が灯り始めて――、
幾何学模様の羅列が、少しずつ紡ぎ編まれていきます。
とても不器用で、小領域ですが……僕が構築した【魔術工房】の魔法陣です。
どうして陪臣家出身の僕が【石工ギルド】で丁稚奉公しているのか。
それには、もう一つ理由があります。
僕が、見習いの【魔術師】だからです。
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