異世界ガンスミス!

書記係K君

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第1話【異世界転生】

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 僕の名前は【コルト・マグナム】と言います。
 王国領の南方を統治する名門貴族【レミントン辺境伯】の諸侯軍に籍を置く、小身の陪臣【マグナム家】の六男です。今年で十二歳になります。

 さて、僕が今どこにいるかと言いますと……治療院のベッドの中です。
 僕が目を覚ますと、傍らにいた看護婦さんが誰かを呼びに病室を出ていきました。
 ずきんと痛む頭部を手で触れると、何やら包帯でグルグル巻きにされています。


「異世界転生……とは、少し違うみたいですね」
 自分の小さな手を見つめながら、僕はポツリと独り言です。


 とその時、初老の医師様が、誰かを連れて病室に入ってきました。
 ああ、僕の両親ですね。忘れていなくて安心しました……。


「コルト、大事にならず安心したぞ」

 身長が二メートル弱もある筋骨隆々の中年男が、僕に優しく声をかけてくれます。
 赤髪とカイゼル髭をビシッとキメたイケオジで、その厳めしい表情には、威厳と愛情が同居しています。
 僕の父親、陪臣マグナム家の当主である【ウルト・アナコンダ・マグナム】です。


「……っ、もう、本当に心配したのですよ?」

 そんな父様に肩を抱かれて。
 丸い瞳を涙で潤ませた女性が、僕に優しく微笑みかけてくれます。
 小動物のように可愛らしい、金髪碧眼の美少女……いえ、美女マダムですね。
 僕の母親、陪臣マグナム家の当主夫人である【レライエ・マグナム】です。


 ふたりとも四十歳代のはずですが、年若い夫婦に見えます。
 こちらの【異世界】の人々は、微量ながらも『魔力持ち』である影響なのか、体格がデカくて、見た目も若々しいです。でも、母様は幼げに見える方なので……父様が憲兵に通報されないか心配です。

 ちなみに、五人の兄達は父親似ですが、僕は母親似ですね。
 小さな体格と、ふわふわの金髪に、まん丸の碧眼がソックリです。
 赤髪ムキムキの兄達は、王都の【騎士官学校】で武官を目指して猛特訓していますが、僕は早々に諦めて【職工人クラフターギルド】で職人の道を目指しています。

 べ、別に筋肉が羨ましいなんて、思ったことありませんよ?
 僕は、年の離れた末弟だったので、親兄弟にも可愛がられて育ちましたし?
 だから、別に筋肉なんて……筋肉ほしいなんて……ぐすん。


「あの、ところで……どうして僕は治療院に?」

 僕が質問すると、両親が説明してくれました。
 僕は【石工ギルド】で見習い徒弟をやっているのですが。領内の採石場を見学していたところ、不運にも崩落事故に巻き込まれてしまい……。
 何でも意識不明のまま、丸一日寝込んでいたそうです。

 うぅむ……なるほどですねぇ……。

 僕の魂は、天国を彷徨っている時に【星幽界の記憶アカシックレコード】にでも触れたのでしょうか?
 どうやら僕は……【日本】という異世界に暮らす【ある男】の三十六年間の半生を【追体験リライブ】させられた……みたいですね。

 身体は十二歳のまま、精神面だけ三十六歳も老けちゃった気分ですよ……。
 おかげで僕の脳みそも、いきなり【異世界の記憶】を三十六年分も詰め込まれて、すごく熱っぽいですし……。

 でも、人格は【僕】のままなんですね。少しホッとしました。
 あちらの【ラノベ】における【異世界転生】の様式美テンプレートでは、【前世の自分】に肉体を乗っ取られる事も多いですからね。なんと恐ろしい様式美テンプレートでしょうか。ぶるぶる。

 ただ、このままだと脳内が混乱しそうなので、世界観の認識は【ラノベ】に則って――【僕】が今いる世界を【異世界】と呼称し、あちらの事は【前世】と呼称する事にしましょう!




 さて、それから数時間後――。
 僕は、医師様から『今夜は念のため、治療院で泊まるように』と言われました。
 心配をかけた両親は、僕が心から御礼を述べると、笑顔で帰っていきました。
 現在の時刻は真夜中。春の月明りに照らされた病室のベッドの中で――。

 僕は、今とても不思議な気持ちです。
 何だか【異世界】での生活が…すごく楽しみなのです……。
 僕は思わず、ニヤけてしまいました。


「あぁ…早く部屋に戻って【マテバ】を作りたいなぁ……」


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