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幕間Ⅱ -悪女は微笑む-

#046.隣国姫の嫁入り <下>

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 幾つもの城塞塔がそびえ建つ≪王城≫――
 その最奥に築かれた華麗なる白亜石の尖塔――≪奥塔≫――は、ミッドガルド王家の妻娘が暮らす”男子禁制”の奥御所となっている。


(むう……これは侮れんな)


 ”竜灰色”の軍服を着た女親衛隊に先導されて、≪奥塔≫の最上階にある国王御正室≪第一王妃エリザバートリィ≫陛下の”奥御所”へと通された≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は――待機していた”客間”を見渡して感服する。

 白亜石造りの優雅な室内、天井の装飾灯シャンデリアは煌めき、石床に敷かれた赤絨毯は毛並みも見事、そして贅を尽くした幾多の調度品――その全てが”気品”に溢れている。

 元傭兵である≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は、これまで多くの”下品な成金貴族”を見てきた。それゆえに≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍はその”奥御所”を見た瞬間――自分がこれから謁見する≪第一王妃エリザバートリィ≫陛下が”御飾り”ではない”真の貴族”である事を悟り、気を引き締め直す。
 とその時――客間の両扉脇に待機していた女親衛隊ふたりが、静かに両扉を開け放った。


「これは”砂漠の英雄”様、ようこそ御越し下さいましたわね」


 そこに現れたのは”奥御所”の主――国王御正室≪第一王妃エリザバートリィ≫陛下であった。

 長椅子ソファに座り待機していた≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は、その場でサッと起立すると毅然と敬礼して――そして驚嘆する。

 国王御正室≪第一王妃エリザバートリィ≫――
 その容姿端麗なる美貌は噂違わぬ”絶世”であった。黒絹の様に艶輝く黒髪は豊かに波打ち、泣きホクロと小皺のある口元が逆に魅惑感をかもしている。漆黒色の装飾衣ドレスを纏う肢体の膨らみは情欲を煽り、むせぶ様な色気が充溢している。齢五十路の≪砂狐剣聖ロンメル≫と同齢であろうに、その熟れた美貌が彼女を二回りは若く魅せていた。

 そんな国王御正室≪第一王妃エリザバートリィ≫が――手ずから”茶器”を台車で運んでいたのだ。

 驚嘆する≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍の顔をチラリと見ながら――≪第一王妃エリザバートリィ≫は悪戯娘っぽくあでやかに微笑む。


「うふふ……”砂漠の英雄”様を驚かせる事はできましたかしら?」


「いやはや何とも……王妃の御手ずからとは、身に余る光栄であります」
(見事な先手打ちであるな……やはり侮れぬ。そして面白い御仁だ)


 ≪第一王妃エリザバートリィ≫の意想外な”礼遇”に舌を巻きながら、≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は関心を寄せる。ただの”茶会”ではあるまい――目的は何なのか、と。


 ◆


「どうぞこちらへ……酒や茶菓も御用意しましたわ」


 ところが不思議な事に≪第一王妃エリザバートリィ≫は……≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍が待っていた長椅子ソファ客間机テーブルの方ではなく、壁際に設えられた”酒場の止まり木カウンター”のような”立ち席”に茶器類を置いた。

 そして≪第一王妃エリザバートリィ≫は魅惑的に微笑むと――悩ましげに”詫び”を述べた。


「ごめんあそばせ……王室の儀礼作法で、夫以外の”男性”と居る時は――部屋の扉を閉めず、椅子に座っては為らぬのです。とても心苦しいのですが……ささやかな”立ち話”になるのを御許し下さいまし……」


「ああ……なるほど。いやいや全く問題ございません」
(ふむ、”長居は無用”を態度で示すわけか。王族は心労絶えんな……)


 ≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は毅然と歩み進むと、≪第一王妃エリザバートリィ≫が凛とたたずむ壁際へ赴く――すると≪第一王妃エリザバートリィ≫の目配せに呼応して、”客間”を守衛していた女親衛隊らが敬礼しながら静かに退室していく。

 再び驚愕した≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は、それを黙して見送る――が。


「……宜しいのですか、護衛役を”人払い”などして?」


「うふふ……これは親愛の証ですわね」


 ≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍の問い掛けに――≪第一王妃エリザバートリィ≫は茶を淹れながら優しく微笑むと、事も無げに答えた。

 ますます喰えん御方だ――≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍はそう胸中で思いつつも、まるで剣豪の剣術にも通じる妙技を”王妃の社交術”に感じ、その会話を愉快に思い始めていた。


「――あら、≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍様は”妖狐九尾”を覚醒されていると御伺いしましたが……普段は”一尾”でございますのね?」


「ええ、まあ”先祖返り”というヤツでして……普段は他の【狐獣人族フォック・テリアン】と何ら変わりませぬ。”九尾”になるのは危急の際、能力解放時のみでありますな」


「まあ、そうでしたのね。ぜひ”砂漠の英雄”殿の武勇伝、御伺いしたいですわ…♪」


 ≪砂狐剣聖ロンメル≫の後背で悠然と揺れる一房の”狐尾”を、≪第一王妃エリザバートリィ≫は黒真珠のように美麗な双瞳で見つめながらコロコロと楽しそうに微笑む。

 先程までの”妙齢な美女感”は消え失せ……まるで好奇心旺盛な”若娘”の様に愛らしい無垢な反応。凛と張り詰めた空気が一瞬で和らぐ。その心地良さに、ふたりの”心の距離”がグッと近づいた事を肌でも感じる。

 なるほど”美女の魅力”とは、美貌ではなく話術と聡明さに顕れると云うが、まさにその通りだな――と≪砂狐剣聖ロンメル≫はいたく感心する。そして――次の瞬間。


「実を申しますと……≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍様には、≪第八王子クリストファン≫失踪の件で御伺いしたい事がございますの」


 茶を淹れた器を手渡しながら――≪第一王妃エリザバートリィ≫が”本題”を突き刺してくる。
 やれやれ油断も隙も無い――と≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は自嘲する。


「王国の総力を挙げて捜索しておりますが……いまだ≪第八王子クリストファン≫殿下は行方知れずですわ。≪第八王子クリストファン≫殿下が失踪したのは、夫である≪国王ユーサー≫が後継者として≪第八王子クリストファン≫殿下の”王太子”任命を内定した直後……誠に遺憾ながら、王位継承争いのもつれである事は明白です」


「――ふむ。だが≪第一王妃エリザバートリィ≫陛下は…≪第一王子ゲッシュハルト≫殿下の御母堂でしたな。異母兄弟である≪第八王子クリストファン≫は王位継承を争う謂わば”政敵”……貴女にとってはらぬ方が都合良いのでは?」


「あらひどい。うふふ…警戒されてますわね? たしか≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍様は≪第八王子クリストファン≫殿下と旧知の仲ですものね……その憂慮は当然ですわ。ただ、私も王政に携わる者であれば……王国繁栄のためにも、≪第八王子クリストファン≫殿下こそが”次期国王”に相応しいと考えておりますの」


「……なるほど。だが残念ながら、我ら≪砂漠国モレク≫側も……≪第八王子クリストファン≫殿下の失踪に関しては、何も知らぬのだ」


「そちらに亡命しては――」


「していれば、此度の”嫁入り”は無かったでしょうな」


「なるほど……ええ、そうですわね」


 ≪第一王妃エリザバートリィ≫は憂うように溜息を溢しながら――うっすら微笑む。そんな魅惑的な仕草ひとつにも心がザワリと蠢き、≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍はなお警戒感を強める。


「……あらそうですわ。よろしければ葡萄酒ワインはいかが? たしか≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍様は葡萄酒が御好きとか……王国産の葡萄酒は格別ですわよ?」


「おお……たしかにっ、土壌豊かな王国産は絶品ですな。では少し頂きましょうか」


 大の酒好きである≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は思わずニンマリと微笑む。
 機嫌を良くしてくれた事に安堵した≪第一王妃エリザバートリィ≫もニコニコ微笑み返すと、≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍へと葡萄酒を手ずから酌み渡す。


「……ううむ美味い!」


「あらあら、それは良かったですわ♪」


 なみなみと酒盃グラスに酌まれた葡萄酒を呑み干し、≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍が舌鼓を打ち鳴らす。

 その時、葡萄酒を手酌していた≪第一王妃エリザバートリィ≫の手元から――扇子がポトリと床に落ちた。


 ◆


(うむ……これを王妃に拾わせるのは、さすがにマズイな)


 ≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍は片膝を立てる様に赤絨毯の敷かれた床へかがむと、落ちた扇子に手を伸ばす――その時だった。


「――うふふ、”……――」


 ≪第一王妃エリザバートリィ≫の淫靡な声音が脳裏に響き…――その御手が≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍の肩に置かれる。

 次の瞬間――大広間の床に赤黒閃光がバチバチとはしり、巨大な魔法陣が明滅する。そして刹那の間に、魔法陣の赤黒閃光が≪砂狐剣聖ロンメル≫の首筋へと集束されると――”隷属の刻印”が首輪状に刻み込まれる。


「なっ、これはいったい……どういう事だ…ッ!?」


 平時であれば瞬時に戦闘態勢に入る場面――だが、≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍の体躯は動かない。否、動かせない。


「――うふふ。だってぇ…”大陸最強”と誉れ高い≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍様に…”妖狐九尾モンスター”の血が混じっていると御伺いした時から……あなたがんですもの。うふふ…っ♪」


 ≪第一王妃エリザバートリィ≫は漆黒色の装飾衣ドレスなびかせると、むせぶ様な色気を香らせながら……その魅惑的な太ももを露わにする。そして眼前で跪いている≪砂狐剣聖ロンメル≫の立て膝に、舌舐めずりした≪第一王妃エリザバートリィ≫が大股を開きながら跨ぎ座ると……腰を前後に揺らしながら、生温かい股ぐらをスリスリとこすりつける。そしてさらに昂奮しながら……≪砂狐剣聖ロンメル≫の鍛錬された体躯をまさぐり、その匂いを嗅ぎまくる。


「ああ…濃ゆい獣臭ですわぁ…♪…うふふ…”妖狐九尾”の権能を覚醒させた”砂漠の英雄”様ぐらいに”血”が濃ければ……”使役テイム”できると思ってましたわ…ぁ…♪」


「う…ぐぬ…っ、まさか……お前の”職業”…は……ッ!?」


 驚愕する≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍の頬をねっとり舌先で舐めり上げると――≪第一王妃エリザバートリィ≫はニタァと淫靡に微笑む。


「うふふ。ええ…私の職業は――≪魔獣使いビーストテイマー≫――ですわ」


 ≪魔獣使いビーストテイマー≫――
 人間ヒューム種族特性レイスユニーク職業制度ジョブツリー≫により修得できる”職業”の一種である。本来は人類と敵対関係にある”魔獣”モンスターを”使役テイム”する事ができる特殊職業であり……世間一般的にその評価は低い。そもそも人間ヒュームが捕獲&使役テイムできる程度の”魔獣”モンスターだと戦力不足感が否めず、そして何より――人類と敵対する”魔獣”モンスターのが至難の業だからである。


「ば、馬鹿な……いくら≪魔獣使いビーストテイマー≫でも、人間ヒュームを”使役テイム”できるわけが…ッ…、それに俺は……お前に倒されても、臣従した覚えも無いぞ…ッ…!?」


「うふふ…♪…私は≪魔獣使いビーストテイマー≫の職能をずっと研究して参りましたの……結論を申せば、”魔獣”モンスターの血が濃ければ人間ヒュームの”使役テイム”も可能ですわ。それに”使役テイム”の発動条件も、対象に”臣従”を示させれば……倒して捕獲する必要すらありませんわ。私との会話で貴方が口にした幾つかの言葉……私の血が混ざった葡萄酒……そして私の足元で跪かせれば……”使役テイム”なんて…それだけで充分ですのよ…?」


 ≪第一王妃エリザバートリィ≫は闇夜のように仄暗い漆黒の瞳をニタァと歪み微笑ませると――足元で跪かせていた≪砂狐剣聖ロンメル≫将軍を抱き起こし、客間の中央にある長机テーブルの上へ仰向けに押し倒す。

 そして、身動き取れない≪砂狐剣聖ロンメル≫の体躯の上に≪第一王妃エリザバートリィ≫は馬乗りになると――”ハァ…ハァ…”と艶息を荒げながら、その衣服を乱暴に剥ぎ取っていく。


「うふふ…あははッ…♪ 貴方はもう…私の”命令”には逆らえませんのよ…♪」


「ぐっ…ぬう…ッ、お前の好きに…なぞ…ッ…!!」


「あら…なら御試しになれば?……うふ…うふふ…あははは…ッ♪――さあ…””…ッ!!」


 ≪第一王妃エリザバートリィ≫が”命令”したその瞬間…――腰布を剥ぎ取られて露出させられていた≪砂狐剣聖ロンメル≫の男根が、荒々しく脈打ちながら励起していく――!!


「あらぁ…♪…さすが”剣聖”殿ですわ……素晴らしい”名剣”をぶら下げておいでじゃない…♪…いひっ…あははは…ッ♪♪」


 無理やり勃起させた”男根”を御手で握りしごきながら、≪第一王妃エリザバートリィ≫が愉悦にまろび微笑む。そして情欲に酔い痴れた≪第一王妃エリザバートリィ≫は、その”男根”を艶に潤む唇でチュッと軽く接吻すると――じゅるりと口内へ呑み込み、しゃぶり舐めまくる。


「ぐう…ぬあ…ッ…や、やめろ……俺は妻子ある身なのだぞ…ッ!!」


「あら…私もですわ? ……うふふ♪…あははは…ッ♪♪」


 涎液よだれまみれになった”男根”に頬を擦り寄せながら――≪第一王妃エリザバートリィ≫がニタァと淫靡に微笑む。

 そして次の瞬間、その身に纏う漆黒色の装飾衣ドレスを淫らに脱ぎ剥ぎ、魅惑的な裸体を曝しながら≪砂狐剣聖ロンメル≫の精悍な体躯に無理やり跨ると――その熟れた肉壺で”男根”を咥え込み、ねっとりと奥深くまで呑み込むや、甘ったるくねぶり始める。


「――んあァ…いいわぁ♪…さあ…御主人様をたっぷり愉しませてちょうだい……あはははは…ッ…♪♪」


 ◆◇◆

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